第七話 未来への希望
「それがね、何とこの本、私でも読めないの」
カワセミは、ゆっくり言葉を切りながら伝える。首を傾げたヤイロの前髪が揺れ、包帯が垣間見える。
「そんなに難しいことが書いてあるの?」
首を振ったが、これではヤイロに伝わらないのだと思い出す。
「違うよ。ま、開けてみて」
ヤイロはカワセミに促されて本の表紙をまさぐり、分厚い一枚目を捲る。
そこにはやはり何度見ても、カワセミには理解できない文章が並んでいるのだ。
ヤイロはそろそろと本の真上に手を下ろし、滑らせた。紙に引っかかりを感じて手を止めつつも、紙の上を撫でる。
「これ……すごいぼこぼこだ」
もう一枚捲って、滑らせる。興味を持ってくれたようだ。
「点字……だよね? 読み方はわからないけど……、これを覚えたら、本も読めるようになるんだ……!」
嬉しそうな表情になったヤイロに、私はもう一冊、本を持たせた。今日病院に持ち込んだのはこの二冊。今のヤイロなら、喜んでくれること、間違いなし。
「これも……点字?」
「そう、これは点字入門の本だよ! 私と一緒に読めるようになろうよ!」
「うん。今まで点字なんて見たことなかったけど、街にあったんだね」
「それね、病院の本に混ざってたんだよ。オオルリ姉さんが探してきてくれたの」
オオルリの名前を聞いて、ヤイロの表情はやや沈む。
「そっか……私、医者になれなさそうだけど、姉ちゃんは心配してくれてるんだ……」
「それだけど、医者は無理でも看護師とかじゃいけないの? 看護師だって、医療になくてはならない存在じゃない?」
はっと、わずかに口を開けたヤイロは笑顔になった。
「そうだね。医者だけじゃ出来ないこともあるよね」
「だからさ、勉強はやめなくてもいいんだよ。点字で読めるようになろ?」
「うん! 早く読めるようになりたい!」
カワセミがデイルームを出る頃には、最初とは見違えるばかりに、ヤイロの顔は笑顔があふれていた。
「うん、いい感じの時間。キバシリ兄ちゃんはもう来てるかな」
カワセミは、待ち合わせ場所に向かった。
「植生調査? 街の中だけで良さそうなのに」
最初に植生調査を提案したのは、ウトウだった。
「僕たちは何を食べたらいいか知ってるけど、きっと一丁目は街の外で暮らす人が増えるよね。その時、街の中だけで食料が賄えなくなることも、あるはずだよ」
だからあらかじめ、街の内外の植生の差を調べ、食べられる植物を街の外で栽培することが大事だというのだ。
初めてあがるウトウの家はかなり古く、知らないものが沢山あって楽しかった。
私があちこち見て回っている間に、ウトウは古い植物図鑑を引っ張り出してきて手渡した。
その本は街にあるものよりずっと専門的で、多様な植物について、分布まで書いてあった。
「キバシリは野生動物の調査をするから、あの子の巻き添えを食わないよう、事前に話し合って調査区域を分けるといいよ」
そう言われたものの、彼は調査でどんなことをするのか想像がつかない。だが話は聞いたほうがいいと思い、調査前に待ち合わせることにした。




