第六話 両親の行方は
「なあ街長、……いや、『元』街長、呼びづらいからスズメって呼ぼっかな」
「ノスリ……。珍しいね、ここに来るなんて」
街の端の方に引っ越したスズメの家に、ノスリが訪ねてきた。
「スズメ、俺の親はまだ生きてる? それとも、クマにやったのか?」
その目は真剣そのものだった。彼は街に帰ってからずっと、これが気がかりだったのだ。
対するスズメは、動揺した。
「ノスリの……両親、それは……もう私の管轄じゃないね。悪いけど」
「知ってるなら答えて」
スズメに詰め寄ったノスリは、しばらくしてふいと顔を背けた。
「クマにやってたらもういないって言いそうだし、まだ死んでないみたいだね」
「ま、待ちなさい、ノスリ」
ノスリは一瞥して言う。
「場所を言う気がないなら、いいよ」
「ごめん、カワセミちゃん……。私、一緒に遊べない……」
今まで大好きだった刺繍も、人形のドレス作りも、目が見えないせいで出来なくなった。それどころかご飯を食べるのも、歩くのですら介助なしでは出来なくなった。
誰もいないと、椅子に座っていることしか出来ない。本も読めないし、机に置いてもらったジュースもこぼす始末。
床までこぼれてしまったジュースを拭きながら、カワセミは笑いかけた。
「私のことはいいよ。それよりさ、ヤイロちゃんは大丈夫? 目が見えなくても出来ること、見つけようよ」
例えばこれとか、とカワセミは手早くスマスクを起動させる。ヤイロにスクリーンは見えなかったが、聞き慣れた電子音が響いたのはわかった。
ややあって流れ始めたのは、ヤイロが知らない陽気で、スローテンポの曲だ。ヤイロがよく聞く曲とは違う古い曲のようだった。
「初めて聴く曲。……でも、こういう曲もいいね」
「これね、カナリアさんの家にあった記録媒体に、入ってた曲。媒体が古すぎて、CD……? とかいうやつなんだけど、それを再生するプレイヤーからいろいろ使ってスマスクに送った。もう、すっごい大変だったよー。なんだろう、その、街の中にある比較的古いデバイスも借りて、カナリアさん家の倉庫もひっくり返したし。ふふ、気に入ってもらえたかな」
カワセミが、失明した自分のためにしてくれたことだと知って、心が温かくなった。
「ありがとう、カワセミちゃん。私のために無理させちゃって」
「全然? むしろ昔の音楽を発掘できて楽しかったの! ヤイロちゃんだって、慣れたらきっと編みものとかできるようになるよ」
そうだろうか。全くその気配はないけれど、今はとりあえず親友の言葉を信じてみようと思った。
「あ、そうそう、これ持ってきたんだー! じゃーん」
見えないか、ごめんねと早口で詫びられると同時に、両手に何か持たされた。重くて、硬い。長方形の薄い何かのようだ。
「なんだと思う?」
「うーん……箱、みたいだけど」
「ぶー。違います」
「カナリアさん家で、旧型のパソコン貰ったとかかな?」
「ぶー。残念ながら、地震が何かの時に落ちて壊れたみたいで、使えなかったの」
箱のようだと探っていたヤイロは、継ぎ目を見つけた。
「あ……。これもしかして、カバーだったの?」
「そうそう。すごく貴重な本だったみたいで、カバーに入れてあったの。……」
「「あっ……」」
口に手を当てるも、時すでに遅し。うっかり答えを言ってしまった。
「でも本なんて、絶対一生読めないよ?」
カワセミは一体、何のために本を私にくれたんだろう?




