第五話 ルーツについて
カワセミの一言で、場の空気が凍りついた。
ウトウとカナリアについては街の外に住んでいたというくらいで、詳細な説明をしていなかったのは事実だ。
そして、ウトウがこの地域以外の場所に知り合いを持つことは僕しか知らない。
僕も含め、街の外に出たメンバーは、彼らが外国からやって来た人の子孫ということしか知らないのだ。何が目的で情報を得ようとするのかも、僕は知らない。
誰も、どう答えたらいいのかわからない。それに、カワセミも気が付いた。
「え……まさか、今まで気にならなかったとか言わないよね? なに、すごい皆適当なの?」
おっしゃる通り、適当なのだろう。
「元外国人で移住して来た子孫……。今まで魚を獲ったりして暮らしていた。なんで移住したのかは二人とも知らないんだ」
「両親に聞いても、教えてくれなかったんだよね」
頭を掻きつつ答えるウトウ。
「そういえば、ウトウとカナリアの親は……」
「死んだよ。カナリアの親はここのクマが骨を捨てる時に見つかって襲われた。僕の親は……、母がシュムツ菌に感染して悪化、父は狩りに失敗した」
「あ…………」
なんとなくそうかとは思っていたが、実際に聞くと、どう返事したらいいかわからない。
外はシュムツ菌の治療薬が供給されないのだ。当然といえば当然だ。
「まあまあ、仕方ないんだから、気にしないで」
そんなふうに笑いかけられても、申し訳なくて俯いた。
「……わかった。街の外は何もないわけじゃないんだ。まあそれなら安心だね」
安心……だろうか。
カワセミのその言葉を皮切りに、ぱらぱらと会議室を出ていく。スズメもいそいそと小走り気味に部屋を出た。きっと皆の視線が刺さって肩身が狭いのだろう。
シグレは母と共に見ていた。見覚えのある大人が美しく身なりを整え、盃を傾ける様を。
そしてまだ四歳と幼い彼は、この儀式のもつ意味を知っていた。
ただ、理由がわからなかった。そしてふと目の前の儀式を見て、知りたいと思った。
「おかあさん、なんでこのぎしきをするの?」
息子の目線に気がついた母はしゃがんで目線を合わせ、微笑みかけた。
「シグレは賢いね。この儀式をするのはね、この世界を守ってくれる神様に、ささやかなお礼をするため。それで、これをした人は天国に行けるの」
「ふぅん。……でもぉ、シグレはいやだよ?だってかみさまにたべられるんでしょ?」
「そうだね。怖いよね。でもね、天国に行けない人は地獄に行くの。そこには神様に食べられるよりもっと怖いものがいっぱいなんだって。お母さんは、そっちの方が嫌だなあ」
「うーん……、こわいねえ。そっか、かみさまはぼくたちをまもってくれるんだね」
「そう、そうだよ。シグレ。お利口さんだねぇ」
母親はシグレを抱きしめ、頭を撫でた。
その奥では、花嫁衣裳に身を包んだ女性が、光の届かない部屋へ消えていった。盛大な拍手を浴びながら。




