第三話 一丁目会議
「あ! 服屋のおばちゃん! もう元旦那の傷は癒えた?」
「まあ……そうだけどねぇ、私たちがクマの食糧だったって、本当の話なの?」
「そうそれよ! 実際のところ、どうなってるの?」
商店街を歩いただけで、シロマルは店主のおばさまがたに囲まれる。
「じゃあさお姉さんたち、八百屋のおばちゃん覚えてる?」
「そりゃあ覚えてるよ! 愛想よくって、しかもひとりでずっと頑張って……」
「あのおばちゃんはクマに捧げたって、街長さんが言ってた」
「えっ……」
店主たちは、水を打ったように静まり返る。以前キバシリが拾ったネックレスをポケットから取り出し、シロマルは皆に見えるように揺らした。
「キバシリ兄ちゃんが言っていたけど、そもそもこの街にはお墓がひとつもない。お墓ってのは亡くなった人を焼いて出た骨を埋める場所らしい。それがないってことはだ」
皆まで言わなくても、わかる。半信半疑だった店主たちは、八百屋の店主の真実を受け止めざるを得ない。今や誰もが、青ざめていた。
「じゃ……じゃあ、私たちは、クマに……」
「安心して! クマはもう倒したよ、俺たちは自由だ!」
一気に安堵の声が漏れる。一転して、賑やかになっていく。
キバシリたちは、この頃こんなことをしょっちゅうやっていた。
午後。思い出深い会議室に、外に出たメンバーと元街長、ウトウ、カナリア、カワセミの九人が集められた。
「——それじゃあ、会議を始めます。今日召集したのは私、オオルリから、今後についての提案があるからです」
各々机にネームプレートが置いてある。特にカワセミ、ウトウ、カナリアは初対面の人がいて、会議に支障が出てしまいそうだったのだ。
プレートの中でも目を引いたのが、元街長のものだ。そこには『スズメ』とだけある。
「あの……」
僕が言うまでもなく、カワセミがおずおずと手を挙げ、疑問を口にする。
「街長様の、名前が違いますが……」
「ああ、これか」
彼は少し笑いながらプレートを手に取ったが、冷たく刺すような視線に気付き、笑みを消した。
「…………街長は代々この名前なんだ」
「まず私から、今後の妖精との関係について、提案させていただきます。その後に質問タイムを設けるので、各自そのタイミングで質問をお願いします」
シロマルやノスリですら、身じろぎひとつしない。オオルリは話を進める。
「今回、この街を支配していたクマの討伐において、キバシリが大きな活躍をしました。その背景には、妖精による援助があることがわかっています」
オオルリは言葉を切り、こちらを見た。僕は立ち上がり、話を引き継ぐ。
「僕は街を出る前、まちお……えと、スズメに呼ばれて、名付けの儀式をしました。街に戻ることが決まってからは、得た能力を使った訓練をしたので、実践時に功を奏したと考えられます」
アマモは僕のネームプレートの裏側で寝そべっている。会議の緊張感などものともしていないようだ。
会議の内容は始まる前に大体教えてもらったので、スムーズに進められそうだ。
アマモはこういう時に限って邪魔をしてくるので、寝ている今は一切不安要素がない。
話の主導がオオルリに戻る。
「このように、これから他のテリトリー……スズメの情報によると、雀街にある、五丁目テリトリーを解放するにあたって、妖精付きの人口増加、また彼らの戦闘スキルの向上が必要不可欠のなります」
今や完全な部外者となったはずのスズメがこの会議に呼ばれたのは、この問題のためだった。
彼は情報を持っている。おそらくそれは、主であったクマから得たものだろう。これを使わない手はないのだ。
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