第二話 夜の外
ある日の夜。
「あ、ウトウだ。また報告してるの?」
街の戸口に佇んでいた人影が、振り向く。
「キバシリ、子どもはもう寝ないと。不健康だよ? アマモみたいに寝ていないと」
「僕は元から不健康だよ。アマモが寝過ぎてるんだよ」
ピースして、笑う。ウトウの隣に立った。
「ねえそれ、僕も混ぜてよ。僕も知ってるんだし。……ハリーさん?」
ウトウは虚をつかれたように目を見張ったが、苦笑いした。
「よく覚えてるね。……まあ、いいよ」
ウトウがスマホを取り出した。素早く操作して、耳に当てる。繋がったらしく数回返事をして、取り次ぎのためか少し待った。
「……ああ、電話代わりました、こちらは……ハリーです。……はい」
名乗る時、少し気まずそうにこっちを見た。彼にとって、誰かと一緒にいる時に報告をするのは、慣れないことなのだろう。
「……雀街一丁目テリトリーは開放されてから、多くの人が街の外と、クマによって捻じ曲げられた真実に興味を示しています。……あと」
少しスマホを離し、僕を見た。ややためらってから、彼は言った。
「以前、報告を聞いてしまった一丁目の子が、貴女に挨拶をしたい、そうで」
ウトウの表情が険しくなる。僕は固唾を呑んで成り行きを見守った。
「はい、それについては僕の責任です。……はい、ひとり、男の子です。……すごい戦闘能力があるとか、そんな話も出ていました。……はい、では」
ウトウはスマホをタップし、通話をスピーカーへ切り替えて街の扉を閉めた。未だに夜は街に戻る彼らに知られては、やはりまずいのだろう。
「…………初めまして。私は名乗れないけど、名前、聞いても?」
どこか訛りのある、澄んだ女性の声だった。
「僕はキバシリといいます。名前……というか、あだ名みたいなものしかこの街にはなくて」
スマホの向こうで、カタカタとキーボードを叩く音が忙しなくしている。情報源が自ら話に来たというのは、嬉しい誤算だろう。
「……じゃあそれ、私にも付けてくれる?」
「えっ?」
皆、会って話したイメージから決めるのだ。声を聞いただけで、名前を付けるなんて。
「ごめんね、難しいこと言っちゃったよね」
「好きな食べ物って何ですか?」
今度は女性が驚く番だった。
「え………ふふ、うーん、結構カモ料理とか……好きだねぇ」
カモは街の中にはいなかったけど、図鑑で見た鳥だ。
「じゃあ、コチョウゲンボウとか、どうですか?」
虫の音が止んだ。
「素敵な名前だね。今度から、そう呼んでもらおうかな……、長いかな?」
「全然大丈夫ですよ、コチョウゲンボウさん」
向こうで、微かにコチョウゲンボウが笑った気配がした。
「もし呼びづらくなったら、コチョウとかでもいいからね」
「僕はそっちの方がいいと思うけどね」
苦笑い気味のウトウが言った。確かにそうかもしれない。
「じゃあ、コチョウって呼びますね」
「うん、よろしくね、キバシリ君」




