第一話 失望
街長は頰を押さえて震えている。それを見ても、可哀想だとかは微塵も思わなかった。
「……謝罪もないんだな。街長がこんな人だったなんて、すごくがっかりした」
ドアへ向かおうと踵を返すと、足を掴まれた。思わず振り払ってしまいそうだったがすんでのところで堪える。
「ま、待ってくれキバシリ君……」
「……何ですか」
見下ろすと街長は、ひっと息を飲んだ。ややあって、話し出す。
「…………実は、ここ以外にもクマに囚われた街がいくつもあるんだ。救ってやってくれないか……?」
「ああそれですか。知ってますよ、とっくに」
もうこんなところで生産性も何もない会話をしたって、時間の無駄だ。
「じゃ、さよなら」
「かーおーるーぅ」
神殿に戻ると、まだ姉さんはヤイロの手当てをしていた。やっと集中して治療を始めたらしく、僕がいても謝ってこない。
僕は子グマの死骸を踏んだ。こいつでも、少しは食糧として役に立つだろうか。
「アマモ、ありがとう」
手の上に降りてきたアマモは、疲労困憊といったていでそのまま座る。僕はそっとその背中を撫でた。
「……お、キバシリ。少しは頭が冷えたか?」
ウトウは僕が意味もなく怒ったとか思っているのか。
「逆に熱くなった。オーバーヒートしそうなくらいね」
「そうか……」
悲しい犬みたいな声だ。でも気をつかうつもりはない。
「街長はクズだったよ。あんなやつにこの街を任せ続けたいわけがない」
ウトウは引き攣ったような変な笑顔を浮かべている。
「雀街一丁目。この街は、僕たちで作り直そう。ねえウトウ?」
「え……、それは……」
「ウトウが言ったんじゃないか。ここは雀街の一丁目。他にもクマのテリトリーはあって、それを監視するところの一員なんでしょ?」
「……っ、そうだけど……」
姉さんたちは事後処理で忙しいから、今度こそ邪魔が入らない。
「ウトウは僕たちの仲間なんだ。みんなと一緒にいようよ」
「…………いいのか?」
「うん、いいよ」
最後まで聞かなくても、わかっている。
「ウトウがここに居続けたとして、いつ裏切るかもしれないってことだったら。その時は全力で」
手元のアマモに目を落とした。すやすやと眠っている。
「ウトウを仲間に連れ戻すよ」
ウトウはカナリアも説得して、二人とも雀街一丁目のメンバーに入ることになった。僕たちは歓迎したし、街を出たことがない両親たちも、僕たちの話を聞いて暖かく迎えてくれた。
「オオルリ姉ちゃん……。わた、わたし、目が……見えなくなっちゃった。姉ちゃんと同じ医者に、なりたかった……」
当たりどころが悪かったらしく、ヤイロは左目が失明、右目はかろうじて明るさを感じる程度だという。
姉さんはひどく後悔していた。味方でも何でもない、幼いからという理由で敵を見逃そうとした結果がこれだ。何度も何度もヤイロに謝り、痛々しい姿のヤイロを見て泣いていた。
そして僕たちは、街を開放することになる。シュムツ菌は問題ないと周知され、街の外に出たがる人も出てきた。街長制は廃止され、妖精の子孫である街長は、一般人となった。




