オフィス・トライメライ 幕張研修所34
礼拝堂を覗くとそこにはたくさんの大人がいて仰々しい撮影機材があった。以前私が経験したドラマとはわけが違う。そこにあるのは紛れもなくアクション映画の撮影風景だ。
そんな大げさなスタッフたちの奥に彼女たちは居た。中央に天沢さん。彼女の横には赤髪の魔法少女。彼女たちは互いの背中を預け合うみたいに礼拝堂の中央に立っている。
「ハイドラ……。まだいける?」
「うんにゃ。厳しいかも……。でも! 行くっきゃないっしょ!」
二人はそんな台詞を言うと赤髪の魔法少女が礼拝堂奥にある張りぼてのドラゴンに槍を突き立てた。そして槍を突き立てた瞬間に天沢さんが呪文を唱え始める。
「熾天使の名においてヒュドラに力を与えよ……。アルティメットエンハンス!」
天沢さんがそう唱え終わるとその張りぼてドラゴンの周りから大きな火柱が上がった。……まぁ、実際は火柱っぽい低温花火だけれど。
それから赤髪の魔法少女はその張りぼてドラゴンから槍を引き抜いた。そして「ざっとこんなもんよ!」と言って鼻の下を人差し指で擦る。その仕草はまるで少年漫画の主人公みたいだ。ベタベタで昭和な……。そんな仕草だと思う。
そんな彼女を天沢さんは微笑みながら見つめていた。そして天沢さんはゆっくりと天を仰ぐみたいに天井を見上げた――。
「カット! OKでーす! 二人とも良かったよ!」
カットが掛かるとスタッフの男性がそう言って天沢さんたちの所に駆け寄っていった。そして彼女たちから武器を受け取ると「三〇分くらい休憩ね。セット変えるから」と言って天沢さんの背中を軽く叩いた。天沢さんは「了解です!」とだけ答えて額の汗を拭う。
「生で見るのは初めてだけどやっぱりあの子はすごいわ」
撮影の様子を一緒に見ていた叔母が不意にそんなことを言った。そして蔵田さんに「素人目に見てどう?」と話を振った。蔵田さんは「間違いなく逸材ですね。あの歳でああなんだから末恐ろしい」と答える。
「ああ、本当にね。数年後は日本を代表する女優になってるかもね……」
叔母はそう言うと遠い目で天沢さんに視線を向けた。眩しくて直視できない。その目にはそんな色が浮かんでいた。




