オフィス・トライメライ 幕張研修所33
翌日。私はロケ地であるデトロイト市内にある廃墟を訪れた。そこは古びた大きな教会跡で外観はレンガ造りの建物だった。今回撮影に使うのはこの建物の礼拝堂らしい。
「おはようございまーす」
私が現場で衣装に着替えているとそう言って演者さんたちがやってきた。彼女たちは皆既に魔法少女の衣装に着替え終わっていて、天沢さんもピンクのふわふわした衣装に身を包んでいた。しかもピンクのウィックまで付けている。誰がどう見ても魔法少女。そんな見た目だ。
「あ、弥生ちゃん!」
私の姿を見つけると天沢さんが駆け寄ってきた。そして「昨日はあんがとね」と言って穏やかに微笑んだ。私は反射的に「こちらこそありがとうございました」と言って頭を下げる。
「どういたしまして! 昨日は眠れた? 時差ぼけ大丈夫?」
「はい、すっきり寝れました。今日はよろしくお願いします!」
「そっかそっか。寝られたんなら良かったよ。こっちこそよろしくね! 撮影楽しもうね!」
天沢さんはそう言うと私の頭を優しく撫でてくれた。彼女の細い指が髪に触れると少し顔が熱くなった。憧れの先輩に優しくして貰えた。それだけですごく幸せに思えた――。
それから天沢さんたちの撮影が始まった。天沢さんが主人公で他に三人の魔法少女役の女優さんたちがいた。全員見たことのある顔だ。たぶんタレントやモデル出身の人たちなのだと思う。
愛の力で世界を浄化する最強の魔法少女『アポカリプティックセラフ』役は天沢天音。
情熱の力で悪しき者を焼き払う炎の魔法少女『アポカリプティックハイドラ』役は赤羽可憐。
慈愛の力で全ての人たちを癒やす風の魔法少女『アポカリプティックシルフ』役は椎名美野里。
創造の力で新たな命を生み出す知恵の魔法少女役『アポカリプティックアテナ』役は諏訪麗子。
そして私はそんな彼女たちを見習う魔法少女『アポカリプティックエルフ』役……。だ。
我ながら割と重要な役を任された気がする。マスコットポジションとはいえガッツリストーリーにも絡むらしいし、あまり下手な仕事は出来ないと思う。
だから私は撮影前に鏡に向かって『失敗はできないんだよ弥生』と自分自身に言い聞かせた。失敗なんて出来ないのだ。ここで躓いてしまったらもうあとはないかも知れない。もう仕事は貰えないかも知れないし、もう叔母に期待して貰えないかも知れない。
この仕事はそれぐらい重要なのだ。それは幼い私にも十二分に理解できた。
そうこうしていると廃教会内に天沢さんの声が響き渡った――。




