オフィス・トライメライ 幕張研修所32
夜になると叔母が戻ってきた。そして「ごめんね、遅くなって。変わったことなかった?」と聞かれた。
私は「あのね」と言ってから今日あったことを話した。鹿島ちゃんとホテル内を探検したこと。そして天沢さんにケーキをご馳走になってしまったこと。それをつっかえつっかえ説明した。
勝手にご馳走になったことを叱られるかと思ったけれど、叔母は「良かったわね」としか言わなかった。その反応に思わず拍子抜けする。
「弥生ちゃんの目から見て天沢さんはどんな子だった?」
一通り話し終えると叔母にそう聞かれた。
「いい人だったよ! 優しいし、面白い! あとは……。すっごいできる女って感じだった!」
「フッ。そう」
私の返答に叔母はどこか嬉しそうに鼻を鳴らした。そして「さすがは時給二百万の女優」ねと言った。
「時給二百万?」
私は叔母の言葉の意味が分からずにその言葉をそのまま復唱した。叔母は「ああ」と言ってニッコリ笑うと「あのね」と言って天沢さんについて語り始めた。
叔母曰く、天沢天音という女優はかなりの高給取りらしい。しかもどの現場でもほとんどNGを出さず毎回撮影を一時間くらいで終えてしまうそうだ。
一時間集中して撮影。そしてすぐに学校に移動。彼女のライフサイクルはそんな感じらしい。信じがたい話だけれど。
そんな彼女についたあだ名が「時給二百万の女優」なのだそうだ。魂を込めた一時間で二百万円稼ぐ。そのあだ名にはそんな意味が込められているとか。
「まぁ……。あの子は本当に特別よ。他の演者とはわけが違うわ。でも……。オフではけっこう普通みたいね」
叔母はそこまで話すと「弥生ちゃんも天沢さんみたいになれたら良いね」と言った。
でも……。私は内心、天沢さんみたいにはなれないと思っていた。私はただ言われたことを器用に出来るだけの子供。天沢さんは言われないことまで熟す天才。その差はあまりにも大きいと思う。
だからその大きすぎる差を表すかのように私たちのお給料は違うのだ。天沢さんは一時間二百万円。そして私は丸一日演技しても二万円くらいしか稼げない。(二万円というのは叔母から貰える金額なので実際の出演料は分からないけれど)
そんなことを思いながらも私は「うん! 頑張るね」と口にした。叔母を失望させてくない。その一心で。




