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オフィス・トライメライ 幕張研修所35

 天沢さんたちが休憩に入ると私は単独の撮影に入った。と言ってもやることは単純。さっきのシーンの後に礼拝堂に入って張りぼてドラゴンに近づくだけ。台詞もない。そんな演技だ。


 叔母からは「いつも通り指示通りにね」と言われた。私の最も得意なこと。言われたことを言われたまま演じる。過不足が一切ない演技だ。


 最初に恐る恐る扉を押し開ける。そして震えながら礼拝堂を覗く。覗いた後はハッとした顔をする。そして一歩、また一歩と礼拝堂を進んでいく。それだけのことだ。気にするのは足取りと表情だけ。本当に言われたことしかしない。


 そして数歩歩いた後立ち止まって張りぼてドラゴンの前で呆然と立ち尽くすと「カット!」という声が聞こえた。そして「OKでーす!」という甲高い声が礼拝堂に響いた。


 正直に言えばこの程度の演技とも言えないような演技で良いのかと不安になった。赤羽さんみたいに立ち回ったわけでもないし、天沢さんみたいに台詞と表情でかっこよくキメたわけでもない。やったのはほんの数十秒の動作だけだ。


 そんな私の思いとは裏腹に大人たちは私のことを褒めてくれた。「さすが弥生ちゃん」だとか「良い演技だった」とか実にならない言葉ばかりたくさん貰った。リテイクなしで本当に良いの? と不安になるほどに。


 そうこうしていると天沢さんたちが休憩から戻ってきた。


「天沢さぁ。あんた本番前によく食うよね?」


 赤羽さんはそう言うと天沢さんを軽く小突いた。見ると天沢さんの手には大きなハンバーガーらしきものが握られている。


「だってお腹空くじゃんよー。バネっちはよく我慢できるね?」


「……はぁ。あんたは良いよ。食っても太んない体質なんだから。ウチは食ったらすぐデブデブだよ?」


「マジで? バネっち私より細くない?」


 彼女たちはそんな風にまるで女子高のガールズトークみたいな会話をしていた。その間も天沢さんはハンバーガーをムシャムシャ食べ続ける。


 そうこうしていると他の二人の魔法少女が礼拝堂に入ってきた。モデル出身の椎名さんと今回オーディション採用されたという諏訪さん。二人ともすごく大人びて見える。


「天音ちゃん食いしん坊だよねぇ」


 椎名さんはそう言うとハンカチで天沢さんの口に付いたケチャップを拭いた。そして「メイクさーん。天沢さんの口が汚れちゃいましたー」と言ってスタッフを呼んだ。天沢さんは「ごめんなさーい」とそれに続く。


「あーあ、だから食事は撮影のあとにしてって言ったのに……」


 メイクさんはそう言うと天沢さんを連行していった。そして「五分間天沢さん待ちでーす」と言って監督に視線を送った。監督は「天沢ちゃんさぁ。いい加減にしてよ」と笑う。


 私はそんな彼らの様子を見てどこか羨ましく感じていた。きっと彼らには演者とスタッフ以上の絆があるんだろうな。素直にそう思った。


 私もいつかあんな風になりたい。そのときの私はそう思っていたのだ。憧れの天沢天音みたいに。


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