オフィス・トライメライ 幕張研修所30
スカイラウンジのカフェには数組の宿泊客がいた。彼らは皆欧米人らしい顔つきでアジア系の人間は私たちしかいない。だから私は少しだけ不安な気持ちになった。ここは幕張じゃなくてデトロイト。改めてそれを痛感する。
「実はここ入ってみたかったんだ!」
席に着くと天沢さんが嬉しそうにそう言った。そして「一人で入る勇気なくてさ」と付け加えると私たちへ向けてメニューを開いてくれた。私は反射的に「ありがとうございます」と言って会釈する。
それから天沢さんは「好きなの頼んで良いよ。今日は私の奢りだから!」と言った。思わず私は「いえいえ。そんな」と答える。これでもちょっとは分別があるのだ。流石にきなり大先輩に奢って貰うのは申し訳なさ過ぎる。
「いいんだよ! ほら! 私ってだいたいどの現場でも最年少だからさ。いっつもご馳走になっちゃってるんだよねぇ。だからたまには先輩っぽいことさせて!」
天沢さんはそうな風に言うと「だから好きなの頼んで欲しいの!」とダメ押しした。どうやら彼女は思っていたよりずっと気安い人らしい――。
その後。私と鹿島ちゃんは結局天沢さんにご馳走になってしまった。私はミルクレープとアイスレモンティーを。鹿島ちゃんはチョコレートケーキとカフェオレをそれぞれ頼んだ。
ちなみに天沢さんはアフタヌーンティーセットを頼んだ。注文するときに天沢さんは思いっきり日本語発音で注文していたので間違いないと思う。……店員さんにちゃんと通じたかは甚だ疑問だけれど。
「天沢さんは昨日から撮影入ったんですよね?」
注文し終えると私は天沢さんにそう尋ねた。当たり障りのない質問。小学生の私に出来る世間話なんてこれくらいしかない。
「そうだよー。こっち着いてすぐに夜のシーン撮ったんだ。あれはちょっとキツかったなぁ。眠いし、薄着だから寒いしでね」
天沢さんはそう言うと「ふぅー。まいったまいった」と言って笑った。
「お疲れ様です。私は明日からです……」
「みたいだね。まぁ気楽にやってね。スタッフは良い人ばっかだからたぶん緊張しないと思うしね」
「はい! ありがとうございます」
「フフフっ。弥生ちゃんってすごいしっかりしてるね。私のちっこいときとは大違いだよ」
天沢さんはそう言うと嬉しそうに目を細めて笑った。




