オフィス・トライメライ 幕張研修所29
天沢さんは私にとっての憧れの先輩だった。スラっとしたスタイルも整った顔もその演技力も。その全てが私にとっての目標だった気がする。漫画家としての目標が篠田先生なら役者としての目標が天沢さん。そう思っていた。まぁ……。二人とも雲の上の人なので手が届きはしないのだけれど。
「弥生ちゃんだよね! 初めまして」
天沢さんはそう言って右手を私の前に差し出した。私は「は、初めまして」と言って彼女の手を握り返す。
「長旅大変だったでしょ?」
「はい……。ちょっと疲れました」
「だよねー。そっちの子はお友達かな?」
天沢さんはそう言って鹿島ちゃんの方に視線を送った。鹿島ちゃんは「こんにちは。鹿島です」と挨拶する。
「こんにちは! 鹿島さんも……。出演者さんかな?」
「私は……。えーと。スタイリスト見習いです!」
天沢さんの問いに鹿島ちゃんは戸惑いながらそう答えた。天沢さんは「そっかそっか。まだ小さいのにすごいね」と言ってニッコリ笑った。これ以上ないくらいチャーミングな笑顔だ。
「今ねぇ。スタッフさんたちみんなミーティング行っちゃって暇してたんだよね。他の出演者の子たちも買い物だって出かけちゃうしさ。だから私はお留守番してたんだ。参るよねぇ。取材までまだ時間あるってのに」
彼女はそこまで話すと「良かったらケーキでも食べない?」と言った。
「食べたいです! 鹿島ちゃんは……。大丈夫?」
私は天沢さんからの誘いに一つ返事でそう答えると鹿島ちゃんに事後報告的にそう尋ねた。すると鹿島ちゃんは「私も食べたいです!」と元気よく答えてくれた。おそらく空気を読んでくれたのだ。私のわがままに付き合うために――。




