オフィス・トライメライ 幕張研修所22
お風呂から上がると二階で弥生さんが何やら書き物をしていた。遠目で見た感じ漫画でも描いているように見える。
「お先にお風呂いただきました」
「ああ、おかえり」
私が声を掛けると弥生さんはそう返事して描いていたものをサッと隠した。そしてそれをクリアファイルに仕舞うと「メイリン明日来れるってよ」と言った。
「おじいちゃん大丈夫なの?」
「うん。なんかただのぎっくり腰だってさ。まったく……。人騒がせだよねぇ」
弥生さんは呆れたみたいな。ホッとしたみたいな顔で言うとスッと立ち上がった。
「ともかくこれで明日は予定通り『あけぼし』で興行だねぇ」
「そっか。……美鈴さんのおじいちゃんが無事で良かったよ」
私がそんな月並みなことを言うと弥生さんは「だね」と言った。本当に良かった。きっと美鈴さんもホッとしていると思う。まぁ……。ぎっくり腰で救急車を呼ぶのは少しやり過ぎな気もするけれど。
それから私と交代するみたいに弥生さんもお風呂に入った。その間、私は部屋で髪をドライヤーで乾かした。思いのほか乾くのに時間が掛かる。最後にバッサリ髪を切ったのは中学生の頃だしかなり伸びたのだろう。
そうこうしていると弥生さんがお風呂から戻ってきた。
「あーサッパリした。今日は本当に疲れたね」
弥生さんはそう言うと布団の上にぺたりと座った。そしてスマホを取り出すとどこかに電話をかけ始める。
「お疲れ様です、春日です。夜分すいません。――そっちは大丈夫ですか? ――そうなんですね。――え! いいんですか? ――はい! はい! お願いしたいです。――はーい。じゃあ明日の朝七時半ですね。了解しましたー。――はーい。逢川さんもお疲れ様でした。ゆっくりやすんでくださいね。――おやすみなさぁーい」
弥生さんはそこまで話すと電話を切った。雰囲気から察するに相手は逢川さんだったらしい。
「あのね聖那ちゃん。逢川さんが明日朝一でここまで迎え来てくれるってさ! なんか今あの人幕張に居るらしいんだよね」
「え! だってついさっきまで茨城行ってるって言ってなかった?」
「ん? ああ、そうなんだけどさ。メイリンの病院行ったあとすぐにこっち戻ってきたんだって。あの人も忙しいよねぇ。まぁ……。あの逢川さんちは千葉市内だから帰って来るのは当然っちゃ当然だけど」
「そうなんだ……。逢川さんってすごく忙しいんだね」
「そうね。あの人は忙しいかな……。昔っからあんなだしね。下手したら氷川社長より多忙な人だもん」
弥生さんはそう言うと「フッ」と小さく笑った。




