株式会社エレメンタル7
「とりあえずエレメンタルのこと教えるね」
美鈴さんはキャビネットから冊子を持って戻ってくると私にそれを差し出した。冊子の表紙には『オフィストライメライの取り組み』と書かれている。
「そこに書かれてる『オフィストライメライ』ってのがウチの会社の親会社みたいなもんなんだけどさ。たぶん聞いたことないよね? トライメライ?」
私は「はい、初めて聞きました」と答える。
「だよねー。私もエレメンタルに登録してから知ったもん。なんていうかねぇ……。エキストラ専門のタレント事務所みたいよ? 映画の通行人とか音楽のPVとかに人材派遣してるんだってさ。さっき来てた女の人もたぶんその関係だと思う。ま、逢川さん最近は音楽PVへの派遣に力入れてるみたいだからね」
「そうだったんですね。じゃあ魔法少女っていうのは?」
「ん? ああ、そうそう。その話聞きたいよね。んーとね。魔法少女ってのは要は子供向けのタレント派遣サービスみたいなもんだよ。ほら、小さい女の子って魔法少女好きじゃん? つまり……。そんなお子さんを持つ親御さんに対してのサービスってわけよ」
美鈴さんはまるで自分が発案者であるみたいに言うと冊子をパラパラ捲って子供に囲まれた魔法少女の写真が載っているページを私の前に差し出した。
「これは?」
「ま、こんなことしてるわけ。ちなみにここに写ってる子は私の同僚の弥生ね。そのうち夏木ちゃんも会うことになるとは思うけど」
美鈴さんはそこまで話すと「んじゃ」と言って事務所奥の給湯室に向かった。そして「麗子さーん。麦茶貰ってもいいー?」と受付に向かって叫んだ。すぐに受付側のパーティションのドアが開いて受付の女性が顔を覗かせる。
「いいですよー。ただもう残り少ないから新しいの作っちゃってください」
「はいはーい。あ、そうだそうだ! 明日茨城のじいちゃんちからメロンしこたま届くからエレメンタルにも持ってくるよ。社長って明日はいるかな?」
「あらあら。ありがとうございます。明日は……。午後からなら社長出社されると思いますよ。夕方から会食の予定入ってますので」
「あ、そ。んじゃ昼過ぎにくるか……。あ! 夏木ちゃんもメロン食う? ウチ親父と二人家族だから二〇玉も食えないんだよねぇ。良かったら貰ってよ!」
美鈴さんはそう言うと注ぎたての麦茶を私の前にそっと置いた。
「ありがとうございます……。でもメロンみたいに高いもの貰っても良いんですか?」
「あー。いいよいいよ。じいちゃんちはメロン腐るほど作ってんだから。って実際腐らせまくってるだけどさ。あれはヤバいよ。知らないかもだけど茨城じゃメロンを漬物にするぐらい余ってるんだってさ。信じらんなくない?」
美鈴さんはマシンガントーク気味に言うと左手に持っていた麦茶を立ったまま飲み干した。
「そうなん……ですか?」
「そうそう! 有り余ってるんだってさ。……だから気にしないで。たぶん夏木ちゃんは明日もここ来る羽目になるだろうからさ」
「明日も……?」
「そうそう! えーとねぇ。ここは基本は逢川さんが取り仕切ってるんだけど、最終面接は社長がやってんだよね。だからたぶん明日には面接入れてくると思うよ? 社長忙しい人だからねぇ。ま、要はここに来るついでに面接もってわけよ」
「そう……ですか」
私はそれだけ返すと言葉に詰まった。二日連続で成田から片道四〇分で酒々井か……。そう思うと少しうんざりする。日給二万円貰うためのハードルは思っていたより高いようだ。
「ま、安心しなよ。たぶん夏木ちゃんは合格すると思うからさぁ。君、すごい魔法少女としての適性あると思うよ? たぶん……。私や弥生よりも向いてんじゃないかなぁ」
美鈴さんはそう言うと大きく背伸びをした。本当に自由な人だ――。




