オフィス・トライメライ 幕張研修所17
両親の離婚調停は思いのほか長引いているようだった。その間、両親は一度も私に会いには来なかった。今思えば完全にネグレクトだったのだと思う。
考えてみれば無理もなかったような気もする。母は男と遊び歩きたいくらい若かったし、父は建築の仕事に夢中だった。そんな風に二人とも私抜きで幸せのカタチだできあがっていたのだ。三月一日に生まれたから弥生。そんな適当な名前を付けて放置するぐらいには彼らにとって私は……。本当にいらない子供だったのだと思う。
でも幼い私にはそんな大人の事情など全く分からなかった。なんでお母さんは私をほったらかしにするのだろう? なんでお父さんはいつも家に帰ってこないのだろう? ただただそう思っただけだ。悲しいとさえ感じない。感じたのは……。私が他の家の子とは違うということだけ――。
だから幕張に行ってからも私の生活は特に変わったような気はしなかった。放置には慣れている。放置される場所が変わっただけで他は何も変わらない。
ほったらかし。もう慣れっこだ。私はいらない子だし、誰も私を愛してくれない。もう諦めた。もういらない。お母さんもお父さんももういらない。狭い部屋の天井をボーッと見つめながらそんなことを思った。
でも……。私のそんな思いとは裏腹に叔母は私を甲斐甲斐しく世話してくれた。どんなに忙しくても朝食と夕食は必ず一緒に食べたし、お風呂だって一緒に入ってくれた。まるで本当の母のように。いや……。本当の母以上にだ。
だから私は叔母に対して特別な感情を抱くようになった。この人の娘になりたい。この人のためなら死んだって良い。この人のために命を使いたい。この人のために……。幼いながらそう思ったのだ。
そして……。そんな私の思いは思わぬカタチで叶えられることになった。




