オフィス・トライメライ 幕張研修所10
「ただいまー」
そんな弥生さんの声が玄関から聞こえた。続いて「お邪魔しまーす」という別の女の子の声も。どうやら弥生さんの他にもう一人誰か居るらしい。
いったい誰だろう? 私はそう考えながら玄関に向かった。
「ああ、ただいま。いやぁ、今そこでばったり会っちゃってさ」
弥生さんはそう言いながら隣に女の子に視線を送った。黒髪のラビットツインテールに紺色の半袖ワンピース。背格好は……。やや小さい。そんな子だ。
「バイト終わったので立ち寄らせて貰いましたぁ。お邪魔でしたか?」
彼女はそう言うと首を傾げて見せた。そしてそうされて私もやっと気づく。
「鹿島……さん?」
私は恐る恐る彼女にそう尋ねた。彼女は「はい!」と答えるとニッコリ笑う。
「ゴスロリは店長の趣味なんですよぉ。だから普段着はこんな感じです」
「そうだったんですね……」
正直に言おう。普段着の彼女は控えめに言ってかなり地味に見えた。別に見た目が悪いわけではない。ただ……。ひたすらに地味なのだ。まぁ、それは今はメイクもなくすっぴんだからなのかも知れないけれど。
「んじゃ鹿島ちゃん上がって! 本当は部外者禁止だけど鹿島ちゃんなら問題ないからさ」
「ありがとー。じゃあお邪魔します」
それから私たちはレッスン部屋の横にある談話室に向かった。談話室には畳の上に四角いテーブルと四角い座布団。あとは花柄の給湯ポット。それ以外は何もない。
「今日は衣装の手直しありがとうございました」
私は座布団を並べると鹿島さんにそうお礼を伝えた。彼女は「いえいえ、こちらこそご来店ありがとうございます」と返すと少しだけ口角を上げて微笑んだ。その顔はやはりゴスロリ少女というよりは京風美人に見える。
「二人ともお茶と珈琲どっちが良い?」
私たちがそんなやりとりをしていると弥生さんにそう聞かれた。私は「じゃあ……。お茶で」と答える。鹿島さんは「ありがとう。私もお茶でお願いします」と答えた。
「鹿島ちゃん今日は本当にありがとうね。セーラー服バラすの大変だったでしょ?」
弥生さんは茶葉を急須に入れながら鹿島さんにそう尋ねた。鹿島さんは「そうですねぇ」と言ってから「まぁまぁです」と答える。
「ほんと尊敬しちゃうなぁ。マジでさ」
弥生さんはしみじみ言うと急須の中のお湯をぐるぐる回した。その様子はまるで熟練された主婦のように見える。
「本当に鹿島さんってすごいですね。私はミシンとか使えないから尊敬しちゃいます」
「フフフ、ありがとうございます。……まぁ、私にはこれくらいしか特技ないんですけどね」
鹿島さんはそう言うと一瞬顔を曇らせた。そしてすぐに穏やかな笑みに戻ると「お二人の方がすごいですよ」と言った。




