オフィス・トライメライ 幕張研修所6
弥生さんは電話を受け取ると「お電話代わりましたぁ」と穏やかな声で電話口に話しかけた。さっき社長と話していたときとはだいぶ印象が違う。この弥生さんと出雲社長と話している弥生さん。どっちが本当の彼女なのだろう?
「はい、こんにちはぁ。――いえいえ。こちらこそすごくよくして貰ってます! ――フフフ、そうですね」
弥生さんは母とそんな風に談笑した。電話越しの母の声も心なしか嬉しそうだ。
「ええ。――そうですね。お子さんと接するお仕事です。――保育とは少し違いますねぇ。――仕事自体は印西付近が多いですね。――そうですそうです! 一応は福祉施設なんかからの……。――はい、そうですね!」
弥生さんは母からの問いにやたらテンション高く答えていた。相づちと笑い声の入れ方なんかまるでバラエティー番組の司会者みたいだ。
「――そうですね。香取さんも明日は一緒に行く予定だったんですが。――そうですね。心配です。――うんうん! お年寄りですからねぇ」
そんな感じで二人は五分ほど話していた。その間、私は突っ立って待つことしか出来なかった。流石に手持ち無沙汰過ぎる。
私のそんな様子を見て弥生さんは口の動きだけで『もうすぐ終わる』と言った。どうやら母とのトークタイムも佳境に差し掛かっているらしい。
「いえいえ。大丈夫です! 聖那さん私よりずっとしっかりされてますし。――。わぁ、嬉しいですぅー。楽しみにしてます! じゃあ聖那さんに代わりますね!」
そこまで話すと弥生さんは私にスマホを返してくれた。返ってきたスマホの画面には『母』とまだ表示されている。
「もしもし?」
『ちょっと聖那! 弥生ちゃんすごい良い子じゃない!? 本当に良いお友達出来たねぇ』
私が電話に出ると母にそんなことを言われた。どうやら美鈴さんに引き続き弥生さんも母に気に入られてしまったらしい。
「ハハハ……。まぁ弥生さんは良い子だよ。……じゃあ明日の夕方にはちゃんと帰るからね」
私はそれだけ話すと母との通話を終えた。そしてスマホを仕舞って弥生さんに「うるさいお母さんでごめんね」と謝った。きっと母は弥生さんに仕事のことを根掘り葉掘り聞いたのだ。弥生さんだってかなり迷惑だったと思う。
でも弥生さんは「そんなことないよ」と言ってくれた。そして「良いお母さんじゃん」と言って少し寂しそうに微笑んだ。




