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珈琲と占いの店 地底人15

 それから彼女は出たカードの意味を教えてくれた。彼女曰く、一枚目が未来の運命、二枚目が注意点やアドバイスということらしい。


「まず一枚目ね。これは『愚者』というカードなの。ストレートに読むなら自由に出発するみたいな意味のカードよ。だから今のあなたの状況にぴったりだと思うわ」


 彼女はそう言うとその『愚者』のカードを人差し指でトントンと叩いた。カードには左側を向く旅人らしき男と降り注ぐ太陽。あとは崖と犬が描かれている。


「このカードから読み取れるあなたの運命は……。そうね、新たな旅立ちと束縛からの解放かな。あとは重荷を捨てて身軽になるとか、新しい自分に気づくみたいな意味があるわ。だから明日の仕事はあなたにとってとても大きなきっかけになるはずよ。それこそ価値観が一八〇度変わるくらいの」


「そうなんですね……。正直実感湧かないですが」


「そうでしょうね。だってこのカードが表すのは決意というよりは軽い気持ちで動いたら大きな変化があるみたいな意味だから。だから今のあなたにはぴったりなのよ。おそらくだけど……。仕事内容に特に期待とかもしてないでしょ?」


 彼女はさも当たり前のようにそう言った。ご名答。私は魔法少女というもの自体には特に興味はないのだ。興味があるのはお給料。一日二万円という破格の日当だけ。


「まぁ……。そうですね。正直仕事内容にはあんまり興味がないです」


「フフフ、正直で良いわね。でも……。それがあなたにとっての長所なのかも知れないわね。きっと熱量がないことがあなたをあなたたらしめているんだろうから」


 彼女はサラッと失礼なことを言うと『愚者』のカードを手に取った。そして「良いカードが出たわね」と笑った。笑った顔は思いのほか人懐っこく見える。


「それでね。問題は二枚目なんだけど……」


 彼女はそう言うと今度は二枚目のカードを指先でトントン叩いた。


「なんか……。逆向きですね」


「そう! タロット初めてなら知らないだろうけど、このカードには正位置と逆位置ってものがあるの。ちなみにさっき引いた『愚者』は正位置ね」


「……じゃあ逆だと意味が違うんですね?」


 私は思ったことをバカみたいに彼女に尋ねた。彼女は「そうね」と短く返すと今度は二枚目のカードを手に取る。


「これは『女司祭』ってカードでね。知性や理性を表すカードよ。だからこれが一枚目の正位置で出たとすれば落ち着いてるだとか勘が冴えるみたいに読むわ。まぁ……。今回は二枚目のアドバイスカードだからそうは読まないんだけどね」


「……それで。これは逆だとどういう意味なんですか?」


 私は逸る気持ちをどうにか抑えながら彼女に占いの続きを促した。そして気づく。私もすっかりタロット占いの世界にあてられてしまったと。


 そんな私の気持ちを知ってか知らずか彼女は「フフッ」と小さく鼻を鳴らした。そして続ける。


「そうね……。おそらくあなたは明日思っていたよりもずっと緊張するわ。まぁ当然よね。初めてのアルバイトだし。しかも……。弥生ちゃんと同じバイトだとしたら魔法少女なんだから……。それでね。今から言うことをあまり重く受け止めないで欲しいんだけど……」


 彼女はそこまで話すと一旦話を区切った。そして私の顔を覗き込むと優しく微笑んだ。さっき見た人懐っこい笑顔とは違う。優しくて厳しい。そんな強さのある笑み。


「きっとあなたは明日自分を責めることなると思うの。もしかしたらそれは仕事上の失敗かもしれないし、あの子たちや会社に迷惑を掛けることかもしれない。……でもね。それはそれとしてやったことはきちんと受け止めて欲しいのよ。それが将来的に大きな財産になるから。まぁ……。たぶんあなたなら問題ないとは思うけれどね」


 彼女はそこまで話すと左手の指先で目尻を摘まんだ。そして「まぁこんな感じよ」と言って立ち上がるとカウンターの横に置いてあるポッドからお茶を汲んで私の前に置いた。


「ありがとうございます」


 私はそうお礼を伝えるとそのお茶を受け取った。色と香りから察するにほうじ茶のようだ。


「……これは占いとは関係ないんだけどね」


 私がほうじ茶を一口すすると彼女はそう口を開いた。私は反射的に「はい?」と答える。


「弥生ちゃんを支えてあげて欲しいの。あの子しっかりしてるようで結構ナイーブだから。これは私個人からのお願い。……もちろん、あなたはあの子の後輩だから仕事上では頼った方がいいわ。でもね……。きっとあなたと弥生ちゃんは良い友達になるから」


 彼女はそう言うとまたニッコリ笑った。今度は少し悲しい。そんな笑顔で。


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