株式会社エレメンタル5
ソファーに座っていると居心地の悪さを覚えた。人の姿が見えないのに声だけ聞こえるというのは思っていたよりも不快に感じるらしい。畏まった話し方をする女性とフランクな男性……。おそらく男性の方が担当者の逢川さんだと思う。
そうやって私が固くなっていると裏手のドアが開く音が聞こえた。そして私と同年代くらいの女の子が事務所に入ってきた。
彼女は茶髪のボブカットヘアに白のタンクトップ。そしてデニムのショートパンツというラフな格好をしていた。言い方は悪いけれど私の普段着と大差ないと思うくらいだらしない服装だと思う。
「こんにちはー……」
私は反射的に彼女に挨拶した。たぶんここの関係者だし、あまり邪険に扱うわけにもいかないだろう。
「こんにちは」
彼女は声のトーンを落としながら挨拶を返すと部屋の中をキョロキョロと見渡した。そして「逢川さん今忙しい?」と聞いてきた。
「……たぶん。今接客中だと思います」
「あ、そう。んじゃちょっと待つしかないかぁ」
彼女はそう言うと私のソファーの向かいに座った。
「あ、ごめんごめん。お客さんだよね?」
「はい……。今日はお仕事の面接で来ました」
「面接? あー。魔法少女の?」
彼女はさも当たり前のように言うと足を組んでソファーに深く座り直した。
「はい、そうです」
「そっかそっか。んじゃ私の後輩ちゃんってわけね。あ、自己紹介がまだだったね。私は香取美鈴。三ヶ月位前からここで雇われてるんだ」
美鈴さんはそう言うとだるそうに天井を見上げた。控えめに言って偉そうに見える。
「私は……。夏木聖那です。成田城東高校の一年生です」
「成城高校? へー。良い学校じゃん。お嬢様高校でしょ?」
「いえいえ。そんなことないですよ。ただの女子校です」
「ふーん、そう。ま、とりあえずウチの行ってるバカ学校よりはレベル高いからねぇ。夏木ちゃんは頭いいんだねぇ」
美鈴さんはよく言えばフレンドリー。悪く言えば馴れ馴れしく言うとニッと大げさな笑みを浮かべた。近くで見た彼女の顔は思っていたより幼く見える。
そうこうしているとパーティションのドアが開いて顎髭を生やした三〇歳くらいのワイシャツ姿の男性と二〇代後半くらいのスーツ姿の女性が出てきた。
「では逢川さん。来月の一〇日なのでよろしくお願いします」
「はい、お任せください。……いやぁ、それにしても春川さんもいよいよ人妻かぁ」
「フフッ。まぁそうなりますね。三十路前に結婚できて良かったです」
「クソぉ。こんなことならもっと早く口説いとけば良かったですよ。……いや、まぁそれくらい春川さんは魅力的ってことです」
「……お褒めいただきありがとうございます。では」
二人はそんな話をしていた。客観的に見て逢川さんの絡みはうざく見える。
「ちょっと逢川さーん!」
ふいに美鈴さんが逢川さんに声を掛けた。
「お、香取ちゃんお疲れ! そちらは……。夏木さんですかね?」
「そうだよー。ったく面接予定入れたくせに商談入れるってどういうこと?」
私の代わりに美鈴さんが答えた。私は会釈だけする。
「悪い悪い。……悪いついでに春川さん駅まで送ってくるから香取ちゃん代わりに面接しといてくんない?」
「んだよ! なんで私が?」
「まぁまぁ。俺より香取ちゃんのがこれに関しちゃ詳しいでしょ? 大丈夫。戻ってきたら俺も補足すっからさ」
逢川さんはそう言って美鈴さんに面接を丸投げするとあっという間に出て行ってしまった。
やれやれ。本当にこの会社は大丈夫なのだろうか?




