珈琲と占いの店 地底人10
その日から私の二万円耐久生活が始まった。幸いなことに中華街の人たちは私に対して優しく、色々と親切にしてくれた。
『お使いか? 偉いねメイリン』
近所の弁当屋のおばさんはそう言って油淋鶏とご飯を大盛りにしてくれた。
『ありがとうおばちゃん』
私はおばちゃんにお礼を言うとそれを受け取ってルンルン気分でアパートに帰った。そしてサクサクカリカリの油淋鶏を半分ぐらい食べた。あとは夕ご飯の分。上手くいけば明日の朝ご飯にもなるかも。幼いながらもそんなことを思った。
残りのお金は一九四〇〇円。大事に使わなくちゃな。お母さんが帰ってくるまで持てばいいけど……。お腹いっぱいになったせいか私はそんな風に少しだけ母に期待を持ち始めていた。完全に希望的観測だと言うのに――。
それから三週間。私は様々なことをしながら生き抜いた。幸いなことにライフラインは止まっていない。だから水道もガスも電気も使えた。まぁ……。流石にガスコンロで料理なんかはできなかったけれど。
お風呂にも入った。手洗いで洗濯もした。お掃除だって少しはした。それ自体は別に苦痛でも何でもなかった。逆に母が男と寝た後の処理をしないで済むだけマシかも知れない。
でも……。最終的にはお金がなくなってしまった。残金八円。実質的にゲームオーバー。
それでも私は生き抜くために必死だった。弁当屋のおばちゃんに頭を下げて余ったお弁当を分けて貰いもした。乞食でもなんでもしなければ。そのときの私はそう思っていたのだ。せめて最後にお母さんに会いたい。本気でそう思っていた。
そんな私の思いとは裏腹に私の身体は次第に動かなくなっていった。やはり人間は食事を摂らなければ死んでしまう生き物なのだと身をもって味わった。目はかすみ、耳に届く音は酷く籠もって聞こえた。
『やっぱり……。生まれなきゃよかったな』
私は独り言のように呟いた。その声は自分の声とは思えないくらい掠れていて、まるで死にかけの老婆のようだ。
私はそのままゆっくりと目を閉じた。眠い。もう起きていられない。
次起きたときは天国かな? それともお母さんのお金取ったから地獄かな? そんなことを思った。そして私の意識はそこで完全に途切れた――。




