珈琲と占いの店 地底人1
太陽が眩しい。暑すぎるし、嫌な汗が脇の下を流れていく。コンクリートと金属だらけの街はこれだから嫌だ。
「あんたいつまでウジウジしてんだよ?」
幕張を歩いていると不意に美鈴さんが弥生さんにそう声を掛けた。
「だって……。明日だよ? 聖那ちゃんだって何が何だか分かんない状態なのに……」
「はぁ。……でもさ。社長の言うとおりいつかは本番なんだから仕方ないんじゃない? 来週なら心の準備が出来るよー。ってもんでもないし」
「そりゃ……。そうかもだけど」
二人は当事者の私を置き去りにして半分喧嘩みたいになっている。私はなんか知らないけれどどこか他人事だ。たぶん実感が湧かないんだと思う。
「聖那ちゃんごめんね。まさかこんなに急にやれって言われるとは思ってなかったんだ……。驚いたでしょ?」
弥生さんは同情したくなるくらい狼狽えながら私に謝った。
「いや。まぁ……。私は大丈夫だよ。決まったらやるしかないからね」
そう。決まったことはやるしかないのだ。逆に決めてしまったからやれるとも言える気がする。まぁこれは『物事は決めた時点で八割終わっている』という母の口癖みたいな言葉が私に染み割っているからだろうけれど。
「弥生は完璧主義すぎんだよ。誰だって最初から上手くはできないんだからさぁ。それに……。仮に失敗したってクビにされたりしないと思うよ? だって私がクビになってねーし」
美鈴さんは自虐とも自慢ともとれるようなことを言うと弥生さんの肩を叩いた。
「……そうだね。決まったからにはやるしかないか。でも! 対策だけはしとこ。じゃないと本当に大失敗になるから!」
「そうね。じゃあ今からトライメライで演技指導して貰う感じ?」
「それもアリだけど……。たぶん今日は難しいかな。ほら、ウチの社長上海行ってるって言ってたじゃん? アレたぶんトライメライのサポートだと思うんだよね」
「あー……。確かに。んじゃトライメライに演技指導できる人間は残ってないか……」
二人は何やらあーでもないこーでもないと私の明日について相談していた。私はそれに口を挟むことなく耳だけ傾ける。
「とりあえず! できることをしよう! まずはウチらからの説明と演技指導でしょ。あとは鹿島ちゃんもその手の話には詳しいから話聞いて……と」
弥生さんはそこまで話すと「そうだ!」と言って視線を上げた。
「ねえ? まだ時間あるし地底人寄ってかない? あそこなら何かヒント貰えそうだし」
「地底人ねえ……。ま、いいんじゃん? あんたあの店好きだよね」
「まぁね。でも、あそこのママのアドバイスはけっこう当たるよ? あんたが魔法少女になったのだってママから貰ったアドバイスだしね」
弥生さんはそう言うと私の方に向きなおった。そして「聖那ちゃん占いとか大丈夫な人?」と聞かれた。




