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オフィス・トライメライ3

 出雲さんは私たちの向き合いに座ると「タバコいいかな?」と言って胸元から黒いケースを取り出した。私は一瞬戸惑ってから「はい」とだけ答える。


「悪いわね。本当は高校生の前で吸うのはあんまり良くないんだろうけど……」


 彼女はそう言うとケースから葉巻を取り出した。どうやら紙巻きタバコではないらしい。そして彼女は流れるように葉巻の吸い口を栓抜きみたいな道具で切り取ると口にくわえた。その様子はまるで海外のギャング映画みたいだ。


 出雲さんが口に葉巻をくわえると同時に逢川さんが彼女の葉巻に火をつけた。出雲さんは『ありがとう』も『悪いね』も言わない。おそらくこれは彼らにとっては空気を吸うのと何ら変わらないことなのだと思う。


「さて……。夏木さん。今日はよく来てくれたわね。成田からだとけっこう遠かったんじゃない?」


「そうですね。久しぶりにこっちまで来ました」


「そっかぁ。まぁそうよね。高校生だと普段そこまで遠出はしないか」


 出雲さんはそこまで言うと葉巻の灰を灰皿に落とした。そして再び葉巻に口をつけると口の中で煙りを転がしてから眼を細めた。細くなった視線の中央に地球のような青い玉が見え隠れする。


「氷川の眼もなかなかのものだな。なぁ逢川」


「はい。氷川社長は人を見る目がある人ですからね」


「ふん……。お前も随分と言うようになったじゃないか」


 氷川さん……。エレメンタルの社長のことだ。そういえばあれ以来彼には会っていない気がする。


「まぁいい。今氷川はどこに?」


「今は上海に行ってます。海外ロケに参加するキャストの演技指導ですね」


「ほぉ。そうか」


 大人二人が会話する横で私たちは黙って座らされていた。妙に居心地の悪さを覚える。


 そんな中で弥生さんはやけにそわそわしていた。すぐにここから帰りたい。そんな雰囲気がひしひしと伝わってくる。逆に美鈴さんは我関せずと言った感じだ。いや、むしろ出雲さんと逢川さんの絡みを楽しんでいるようにさえ見える。


 私はそんな二人の姿を見ながら少しの不安に襲われた。本当にこの会社は大丈夫なのだろうか……。と。


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