オフィス・トライメライ1
UG幕張での用事を終えると私たちは地上に戻った。来たときのあの薄暗い廊下を使わない。どうやらここには正規の入り口があるようだ。
地上に上がるとさっきまでの風景が嘘みたいな眩しい太陽が地上を焼いていた。歩道を歩く人たちは皆眩しそうな顔をして往来している。夏休み、それを象徴するかのような人混みだ。
「鹿島ちゃんは仕事早いから帰りには衣装仕上がってると思うよ」
私が太陽の光に目を細めていると逢川さんにそう言われた。
「そんなに早く直せるんですね」
「そう! あの子と蔵田さんはそこら辺がすごいんだ。マジで三〇分後に必要な衣装の直しまでやってくれるからね。まぁ……。今回は凝った衣装だから多少時間掛かるだろうけど、それでも夕方までは掛からないはずだよ」
逢川さんはそう言うと「店長の人格以外はすごい店なんだ。あそこは」と付け加えた。やはり逢川さんと蔵田さんはあまり折り合いが良くないらしい。
「だよねー。マジであのオッサンと絡むのしんどいわ。初めて会ったときなんか胸揉まれかけたんだよ? あり得なくない??」
美鈴さんは心底憤慨しながら言うと「エロ親父が」と吐き捨てた。
でも弥生さんだけはそんな二人の会話に乗っかったりはしなかった。理由は分からないけれど弥生さん的には蔵田さんはそこまで悪い人ではないらしい。
そうこうしていると逢川さんが何も言わずにガラス張りのビルの自動ドアを潜っていった。自動ドアのガラスには『(株)オフィス・トライメライ幕張本社』と書かれている。
建物の中は大きな吹き抜けになっていて、天井からガラス細工の大きなモビールがぶら下げられていた。そのモビールはゆっくりと旋回している。どうやら空気の流れでゆっくりと回る仕組みのようだ。
「今から社長に挨拶行くからねぇ。ま、そんなに緊張しないでいいよ」
逢川さんは社員用エレベーターの前にある通用ゲートに社員証を当てながらそんなことを言った。言い終わると同時ぐらいにゲートは『ピッ』という電子音と共に開く。まるで自動改札みたいだ。
そのままエレベーターに乗り込む。行き先は八階。このビルの最上階だ。
「……聖那ちゃん。ここの社長はちょっとハードボイルドな人なんだ」
エレベーターの中で不意に弥生さんにそんなことを言われた。
「え? ハードボイルド??」
「うん、まぁ……。だから最初はびっくりするかもだけど……。私たちには優しいからそこまで緊張しないでも大丈夫だからね」
弥生さんはそう言うと今までにないくらい戸惑った笑みを浮かべた――。




