アンダーグラウンド幕張11
衣装に袖を通して全身鏡の前に立つ。そこには微妙な表情の魔法少女の姿があった。口元には薄笑いが浮かび胸元のリボンは初めて制服を着たときみたいに覚束ない。
「着れました」
私はカーテンの向こう側に居る鹿島さんに声を掛けた。心なしか声が震えている気がする。
「はいはーい」
彼女はそう返事するとゆっくりとカーテンを開いた。そして私の姿を上から下まで観察するみたいに視線を滑らせる。
「うん。いいですね! とってもお似合いだと思います」
「そ、そうですかね……」
「ええ、とっても! やっぱり聖那ちゃんみたいな子にはこの服合ってるみたいですね」
彼女はそう言うと私の足下に屈んだ。そしてクリップとフェルトペンを取り出すと服に印を付けていった。かなり手慣れている。まるでプロのファッションコーディネーターみたいだ。
そうして貰っている間、私はただ鏡の前に突っ立っていた。鏡越しに見える彼女の表情は真剣そのもので、テキパキと服を仕上げることだけに集中していた。そこには私には理解できないほどのプロ意識が宿っているように感じる。
「はい。お疲れ様でしたー! クリップ外れないように静かに脱いでくださいねー」
彼女はそう言うとニッコリ笑った――。
服を着替えてみんなのところに戻ると見知らぬ男の人の姿があった。緑髪にアロハシャツ。ミリタリーっぽいカーゴパンツにビーチサンダル。顔の感じから察するに四〇代前後。背はやや高め。イケメンでも不細工でもない。そんな人だ。
「お待たせしました」
私がそう声を掛けると美鈴さんに「お、おかえりー。衣装どうだった?」と聞かれた。私は「うーん。まぁ、普通かな」と答える。
「最初はそう感じるよねぇ。てか私のときなんか弥生にめっちゃ笑われたし」
美鈴さんはそう言って弥生さんを小突いた。
「ハハハ。だってあんた普段はめっちゃカジュアル服かつなぎしか着ないからさ……。あんときはちょっと驚いたんだよ」
弥生さんは少しだけ弁明するみたいに言うとうなじを掻いた。おそらくこの二人は幼なじみなので余計おかしく感じたのだと思う。
私たちがそんな話をしていると「夏木さんちょっと」と逢川さんに呼ばれた。そして「こちらがUG幕張の店長の蔵田さんだよ」とここの店長を紹介された。私は反射的に「こんにちは!」と蔵田さんに頭を下げる。
「はい、こんちわ。……へー。三人目はこんな感じか」
彼はそう言うと私を上から下まで舐めるように見回した。正直あまり気持ちが良いものではない。
「逢川ちゃん。おたくの社長の目も悪くないんだねー。出雲姉さんも目に掛けるわけだよ」
「……どうも」
逢川さんは露骨に嫌そうな顔で答えた。嫌悪感を隠そうともしない。
「いやいや、マジだよ。これだけのタマならトライメライでも欲しがるんじゃないの? 弥生ちゃんときだって出雲姉さんめっちゃ勧誘してたし……」
蔵田さんがそこまで言いかけると鹿島さんが「店長ー! 昨日の日報書いてないですよー」と割って入った。蔵田さんは「ああ、あいよ」と答えると「んじゃ、またね」と言って店の奥に消えていった――。




