停戦協定
20XX年 7月14日00:00 宮古島沖 護衛艦隊
東京の作戦本部との通信が途絶えた。これまで数日にわたって島を攻撃していて、そろそろ上陸の許可を貰おうとしていたところだった。佐世保に連絡してやっと繋がったため、話を聞くと、中国からのミサイル攻撃で首都圏が壊滅したそうだった。我が艦隊もミサイル迎撃に努めたが、結局着弾させてしまった。しかも運悪く核弾頭だったそうだ。被害は相当なものだろう···。我々の部隊の中にも出身が東京、または身内が暮らしているのが東京だという者も多いだろうから、士気も大きく低下しただろう。
「長官、佐世保からです。"作戦を中止し、那覇まで退避せよ"とのことです」「何!?」まさかの命令に耳を疑う。もう島を攻略しようと思えばできるのに。事情を訊くと"舞鶴、横須賀、那覇への攻撃により海自にも甚大な被害が出た。現在の戦力では治安維持、現状維持で精一杯だから"とのことだった。それにしても惜しい。もう少しで奪還できたのだが···。しかし命令は命令だ。長官は艦隊に撤退を命じた。
同時刻 東京 首相官邸の地下
ミサイル攻撃警報発令以降、政府の者は臨時で地下に避難した。官邸ではちょうど先島諸島攻略についての会議が行われていて、大臣などが集まっていた。避難して数分後、強い揺れが起きて停電となり、発電機でなんとか照明を点けた。ミサイルが着弾したのだ。爆発を間近で受けたのは初めてだから、核なのかどうなのかは不明だった。
のちに核爆発だったとの報告が入った。とんでもないことになってしまった。東京の人口密度は凄まじいため、死者も尋常ではないだろう。自衛隊ももはや先島奪還どころではない···。
「首相、現在戦闘を行っている自衛隊の全部隊に撤退を命じましたが、この先どうしますか?さすがにこれ以上戦闘はできませんよ。これから難民対処で兵力を割かれるでしょうし」一緒にいた防衛大臣が言う。首相はしばらく黙ってから「米軍は?支援してくれないのか?」と訊いた。「今回の我が国への攻撃でビビったみたいですね。特殊部隊を送ったのにこんだけミサイルが残っていたんですから。本格的な軍事介入も延期するそうです」「そうだな···。そうなると、停戦しかないか···。しかし停戦するにはどうしたらいいのだ?」「中国に"停戦しないか"と言えばいいだけです。降伏とは違いますから。中国軍だって甚大な被害が出ています。これ以上の戦闘は避けるかと」大臣が説明するが、また首相が困った顔をして言った。「だが、中国に対する仕返しはどうする?一方的に殺されたんじゃ国民も納得しないだろう。」中国では"日本に対する報復"ということで今回のミサイル攻撃を行ったが、日本では"一方的な攻撃"とみているのだ。「それですよね···。軍備が整えば報復できますが、それまで国民が怒りを抑えていられるか···」
地下での寂しい会議の結果、停戦協定を結ぶことにした。2時間後、中国の日本大使館経由で早くも停戦協定を結んだ。案の定、中国軍もだいぶ衰退しているようだった。停戦協定により両国軍は先島諸島に僅かな部隊を残して撤退。国内の治安維持に努めることとなった。
03:00 NHK千葉放送局
千葉放送局から中継ヘリが東京に接近し、撮影を行った。
「えー、東京都中心部から大きな煙が上がっているのが見えます。煙は東へ延びていって、千葉県上空···もっと遠くまで広がっているようです。」放送スタジオからキャスターが「街の様子はどうでしょうか?」と訊くと、また中継ヘリに繋がる。「えー、煙でよく見えませんが、大規模な火災が発生しているようです。夜ですが、炎で街が明るく照らされています。横浜···まで広がっているのでしょうか。東京湾は炎に包まれ···あっ、ビルが倒壊しました!炎上していたビルが倒壊しました!黒煙を上げて崩れています!」200mはあろうかというビルが倒壊する。まるで9.11の映像のようだ。
東京から地方へ向かう道は大渋滞。2000万人以上が一斉に首都圏を離れる。新宿区、杉並区、渋谷区は壊滅状態で、ビルなどコンクリート製の建物も溶けたり、倒壊したりしている。人の死体は見当たらない。全て溶けたのだ。ここでは地上に居た90%が死亡した。
練馬区では建物の倒壊は少なかったものの、車がひっくり返ったり、人が重度の火傷を負ったりした。黒焦げの死体や、焼けただれたり、骨が一部むき出しの生存者が居た。ここでは40%が死亡。放射能の影響で死者はもっと増えるだろう。
変なファッションをした者にとっては地獄のような苦しみだ。無駄に金属のような物体をジャラジャラ身に着けた者。被爆した場合、皮膚は溶けるが、金属は皮膚よりは溶けてにくい。よって、溶けた皮膚にその金属の物体がめり込み、固まる。皮膚の下で金属の物体がうごめくことになる。壁にぶつかったりすれば皮膚の外と中から傷口がプレスされることになる。あ~イタイイタイ···。
江戸川区では爆風の影響でガラスが一部割れるなどしたが、被害は小さかった。しかし江戸川区は爆心地から見ると風下にあたる。放射能の影響は大きくなるだろう。
死者は今のところ210万人。放射能の影響で数年以内に300万人になると思われる。また、札幌でも100ktの核攻撃により40万人が死亡。一晩で、太平洋戦争4年間での死者を一気に出したことになる。
07:00
全国で、朝のニュースを見ようとした者は腰を抜かす。寝ていたうちに札幌、東京などでとんでもないことになっていたのだ。そのうえ政府は停戦協定を出し、報復しようともしないようだ。そしてアメリカも日本を見捨てた。その日のうちに全国で反政府、反米デモが起きた。
08:00 大阪
「何でこんなことになった!こんな無能な組織のために税金を払ったんじゃない!」「報復支持!中国人、朝鮮人を殺せ!」「東京に居る首相からの全国放送があったが、何で生きてんだ!国民を殺しといて官僚は逃げたのか!」大勢がデモ行進を行う。大抵こういうデモは国会議事堂の前で行うが、国会議事堂はもうないため、あらゆる都市で、府庁や県庁の前でデモが行われる。
「こうなった原因は国民のせいでもあるんだがな···」デモ隊を眺める警官はそう思っていた。まず東京のミサイル攻撃について、東京都内への迎撃ミサイル配備を認めていればこんなことにはならなかったかもしれない。そもそもこの戦争で犠牲者が増えたのも、国民が平和を主張するあまり自衛隊の存在を批判したからでもある。この戦争の初めは、法に縛られたがゆえ対応が遅れ犠牲者が増えた。"民間人に軍人がなりすます"なんてことは戦前から想定されていた。しかし法に縛られ、攻撃できなかったのだ。
こうなることを予知して改憲しようとした人もいたし、改憲の機会はいくらでもあった。しかし国民が"平和主義"という名のもとで、ろくな知識もないのに、この機会を潰してきた。そして今になって、「何故自衛隊は国を守れなかった?」などと言い始める。なんとも馬鹿馬鹿しい。連中が自衛隊を知識もなく批判した結果だ。都合の良いことばかり言いやがって···。
警官は怒りのあまり、腰に着けているニューナンブM60に手を置いてしまっていた。我に帰り、あわてて銃から手を離す。
今回のお話の東京の被害についてですが、"Ground Zero:Google Maps and Nuclear Weapons - Carloslabs"というサイトを参考にさせていただきました。その名の通り、Google Mapを利用して核攻撃の被害を調べられるサイトです。核の威力もいろいろと設定できます。面白いので試してみては···?




