表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/19

6

 二日後、チョコザインの来訪歓迎パレードが行われた。


 華々しく飾り付けられた城下町の表大通りに楽団の奏でる演奏が鳴り響き、紙吹雪の舞う中を馬に引かれた豪華な馬車が街の門からねり進む。チョコザイン神官大臣の姿を一目見ようとあつまった人たちで、あたりは埋め尽くされ完全にお祭り騒ぎだ。


 マジマージ王国はこのわくわくワールド一の大国で、女神セレスティーナ様との結びつきが一番強いのもこの国だ。


 アニメの主人公の仲間エレナ姫も、セレスティーナ様の神託を聞く力を持ち大活躍するのだが、それはマジマージ王家に伝わる特別な力によって行えるのだ。


 女神様の声を聞き、その教えを守るマジマージ王国は諸外国からも一目置かれた尊敬される存在なのである。チョコザインは国王の代理として来訪した形なので、今回の訪問歓迎も大々的に行われているらしい。


 私は人だかりを避けて、大通りに面する見晴らしの良さそうな建物の屋根の上へ登っていた。表通りの建物はどれも背が高く、漆喰と煉瓦で造られた私達の住む裏通りの建物と違って随分こぎれいだ。

 裏手からこっそり登ると、赤瓦屋根の上から手を丸めて望遠鏡代わりに覗き込み。馬車の上から一口チョコをふり撒きながら笑顔で手をふるチョコザインを注意深く観察する。気分はスナイパーである。


 ちなみにチョコザインの好物はチョコレートだ。

 そんなお茶目な小ネタはどうでもいいのだが、一応注釈をくわえておこう。

 これが、わくわくワールドの世界観なのだ。


 遠目から観察するに、チョコザインの挙動におかしなところは見当たらない。

 白い神官服に身を包み大柄な体に似合わず悠々とした仕草で手を振る様子からは、清廉としたほがらかな人柄が伺える。とくにこちらの勘に訴えてくるものもなく、いたって普通の人間に見えた。


 警戒しすぎていたかもしれない。

 私はため息を吐いて、遠ざかっていくチョコザインを見送った。


 目に見えない敵の動きを深読みするのはむずかしい。

 前世の私も来世で自分が、子供向けアニメのストーリーに、ここまで真剣に悩むことになろうとは思ってもいなかっただろう。


 そのまま膝を抱えて、屋根の上からの景色へ目を移した。

 城を中心とした三角屋根の建物が立ち並ぶ城下町は、その周りをぐるりと防壁に囲まれていて、その先にある景色を遮っている。

 けれど見えないからこそ、空の向こうへ目を凝らして、その先にあるものを想像すると胸が高鳴ってくる。わくわくしてくるのだ。


 旅に出てみたい。

 燦然と輝く星空を見上げて夜を過ごしたあの頃から、私にはそんな憧れがあった。

 この世界の事を調べだしてからはその夢はもっと強くなった。

 色んな物を自分の目でみてみたい。冒険なんて大層なものじゃなくてもいいから、遠くの国の匂いをかぎ、景色を眺め、知らない土地を歩いてみたい。あと、サンタに会ってみたい。そう、この世界にはサンタ・クロースがいるのだ。


 この世界にだって、悲ししい事、辛い事、理不尽な事は沢山ある。

 どうにもならない病気や事故。人同士傷つけ合い、時には憎み合うこともある。

 危険なことや目を背けたくなる酷いことはきっとどこにでもあるんだろう。


 それでも、この世界は異世界人の少年が旅をしても大丈夫なくらいにはのほほんとしている。

 だから、ガルザがこの世界に絶望してしまうことがなくなった時は、私は旅にでようと思う。その時はきっと一人で……。


 さて、そろそろ下へ降りよう。

 歓迎ムードで盛り上がる町には、あちこちに出店や大道芸人も出ていて楽しそうだ。

 前世の分を合わせても、見たこともないもので沢山あふれているに違いない。


 私は立ち上がりながら、下に何か面白そうなものはないかと目を向けた。

 パレードは遠ざかって城の方へ向かっている。それでもなお表大通りは人混みでいっぱいだ。楽団の演奏もまだ賑やかで陽気な音楽を奏でている。


 どこに何があるか大体の位置を確認しつつ、どうせなら間近で見て回ろうか考えていると、ふいに私の視界にある人物が飛び込んできた。


 その姿には見覚えがあった。嘘だろう、と思わず呟きながら私は急いでその人を追いかけるために急いで屋根から降りた。


 見間違いじゃない筈だ。

 あれは、彼は、アニメで見た登場人物の一人だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ