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 チョコザインがこの国にやって来る。


 なんだか最近新聞に何度もチョコザインの記事が載っているので、記事の内容を大人に尋ねて調べたらそういうことだった。


 他国の神殿を視察するのが目的らしく、その外遊先にこのナンテーネ王国が選ばれたのだとか。チョコザインはマジマージ王国の神官にして大臣の地位をもつ人物なので、政治的な理由もあるのだろうが、新聞には諸国との交友を深めるための親善目的の訪問としか書かれていない。街の噂も似たようなものだったが、怪しいものである。


 私にわかるのは、この国に将来魔王に意識を洗脳されて極悪人になるかもしれないオッサンが来るということだ。いや、将来の事で彼を責めたくはないのだが、この人物に限ってはもう手遅れかもしれないという可能性があるのだ。


 ここで、チョコザインという男について詳しく解説しておこう。


 チョコザインはアニメ『魔装鎧伝ユウマ!』の黒幕である。

 元は善良な人物だったが、心の弱みを突かれて魔王に洗脳された彼は冷酷無比な男へと変貌し、黒い仮面に鎧とマントを身にまとった姿で登場する。


 毎回数分ある彼の出番では、怪しげな曲調のテーマソングとともにテレビ画面に現れ、魔王復活の儀式を進めながら神殿の奥で高笑いをしつつ、配下の者へあれやこれやと指令を出していた。典型的な悪の親玉キャラクターであるが、最後の最後に洗脳が解けて改心する。


 だがしかし改心するまでは悪の親玉らしく主人公を倒そうと刺客を送り込み、失敗した部下は容赦なく処分するのだ。失敗した部下は、もちろん私の幼なじみの事だよ!


「ガルザ! 心配するなよ!」

「ああん? なんだ急に」

「言ってみただけだ! ごめんな気にするな!」


 孤児院の庭にある畑の雑草をむしりながらそんなことを考えていたら、勢いが収まらずつい声が出た。ガルザは、ああそうかいと頷いて黙々と草むしりを続けている。


 チョコザインが洗脳される時期はアニメでは明確にされていなかった。

 すでにチョコザインが洗脳されていた場合、ここへ来るのはほぼ魔王ということになる。更に私が恐れているのは、魔王に私の存在が知られている可能性があることだ。


 神官であるチョコザインに魔王が接触したのは、チョコザインが厚い信仰心を持っていたからだ。目に見えない精神的な世界との結びつきの強い男だからこそ、封印が解ける前の魔王でも接触できたのだろう。


 なかでも彼を選んだのはマジマージ王国大臣としての地位を持っているから、という狙いもあったのだろうが、女神セレスティーナ様の力を削ぐために力のある神官を奪ったというのが本当のところであると思う。


 私がセレスティーナ様へのアニメのネタバレを一度で済ませたのはこのためだ。

 恐らく魔王は祈りの声を横から感知もしくは傍受する力があり、私の存在を知り興味を引けば、その魔の手を伸ばしてくるのは火を見るより明らか。こちらの情報を引き出すために何をされるかわからない。


 神経質かもしれないが、私はこの間見た青年になったガルザの夢のことも少し疑っている。あの夢には私の心の弱い部分を的確に突く悪意があった。ような気がするのだ。


 なので私は、一度目の礼拝以降セレスティーナ様への祈りは、日曜日の礼拝で他の信者達に混じって世界が平和でありますようにと無難な祈りを捧げるようにしている。祈るのを止める事も考えたが、そうすると加護がなくなってますます無防備になりそうで怖いのでほんとうにささやかなものに留めているつもりだ。


 自分がただの小娘であることは先刻承知なのだが、世界の平和が保たれるためにこの危ない橋を渡った甲斐はあったと信じたい。


 私は額へにじんだ労働の汗をぬぐった。

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