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ガルザの独白

 シオンの口癖は「心配するな」だ。

 だがそれを言う時のシオンは、だいたい俺よりうろたえている。


 シオンと出会ったのは、俺達が今より小さなガキで寄る辺もなく途方に暮れていた時だった。人の多い場所なら森に置いていくよりましだと思ったのだろうか。同じぐらいの時期に城下町に置き去りにされた俺達は、出会ってしばらくの間二人だけで暮らしていた。


 なんとか手に入れた一つのパンを分けあい。雨風をしのぐために建物の隙間へもぐり込んで夜を過ごす。そんな野良犬のような生活はさほど長くは続かなかったが、何年もそうしていたように感じることもある。


 そのうち行くあてのない子供の面倒を見ている奇特な老夫婦に拾われた俺達は、夫婦の営む孤児院へと行くことになった。孤児院へ辿りつけたのは運が良かった。俺達はもう一度家と仲間を手に入れたんだからな。


 シオンのもう一つの口癖は「おう」だ。あいつはナヨっとするのが嫌いで、男っぽく振る舞う癖がある。出会った頃はそれなりに品があったような気もするが、俺とつるむようになってから段々中途半端に柄の悪いおかしな奴になってきた。

 そんな奴だが、俺が「ついて来い」というとシオンは理由も聞かずに「おう」と言いながらやって来る。頼もしい奴だ。他の奴らと喧嘩をしてても、あいつが自分だけで逃げ出したことは一度もない。


 そのシオンはこの頃なにかをやらかそうとしている。

 あいつは昔っから理屈っぽく頭の回転は良いが、一周回ってとんちんかんな奴だから何をするのかいつも予想がつかない。本当にわからない。


 ただ、目標をもった時のシオンは異様な迫力がにじんでくる。

 それが空回る時のほうが多いが、それだけあいつの意思は強い。


 この前は孤児院のチビ共を集めて何をしているのかと思えば、先生気取りで青空教室のまね事をしていた。


 でっかい声で喋っていたんで、聞くともなしに耳を傾けると「いいか、お前達。この世はな愛と勇気と正義を信じとけば大体なんとかなるんだ。だから義理人情をわすれず、集団で一人を追い立てたりするな。人の涙を笑うやつは不幸な年のとり方をするんだぞ」などと言うシオンの声が聞こえてきた。


 熱血ぶった演説にチビ共が辟易して文句をいうと「熱血を笑うと熱血に泣くことになるんだぞ。良い子も悪い子もよく覚えておけ」とやけに真剣に訴えていた。教会に通ってるせいかなんだか知らないが、ずい分影響されてるようだ。


 まあ、好きにすりゃあいい。


 きれい事を並べ立てたところで、そんな物は所詮まやかしだ。

 あいつだって心の底では気がついているんだろう。


 二人だけだったあの頃、夜空を見上げながらシオンとは色んな話をした。だが二人共おたがいの家族のことだけは話さなかった。後になって聞いてみると、今ではもうどんな人かも覚えてないとシオンは言う。そりゃ結構なこったと俺は笑った。


 俺達に親兄弟はいらない。

 そうだ。切り捨てたのは向こうじゃなくて俺達の方だ。

 だから、あいつらを覚えている必要なんてないんだ。



「おい、ガルザ」


 不意にシオンがやって来て俺の正面へ回ると、じっと俺の顔を見つめだした。

 何の用だと聞きかけて口を開けたところへ、その手が伸びてくる。同じぐらいの背丈をした俺達の距離は短く、反応する前にシオンの手は俺の両肩へ届いた。


「心配するな。ガルザ」


 バッシバッシと遠慮のない力で俺の両肩を叩いて、シオンは真面目くさった顔で言い放った。こいつはとんちんかんだが、どんな時も真剣だ。


 俺はシオンの鼻先を摘んで両肩のお返しをしながら、この先何年たってもこいつの事はよく解らないままだろうなと思った。

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