7 ゲームメーカー達
『敵艦、旋回!』
「どっちだ!?」
キャンベルが体を乗り出す。
『右です!』
「ポイント九五四の三一〇、一八八にミサイル四本! 角度を付けて死角を減らせ!」
■ ■ ■
『敵、ミサイル発射! 数四。距離四〇〇。速度七〇!』
「ミサイル?」
『ミサイル旋回! 本艦の最小旋回進路に接触します!』
『敵艦、旋回!』
「ちぃっ、こっちが旋回するのを待ってたな?」
思わず舌打ちするシフォン。苦い顔をしてもその顔はあくまで優美だ。
「進路変更! 径を大きく取る! CMW四本発射! 敵ミサイルをたたき落とせ!」
「信号弾を攻撃に使う手といい、敵の大将は私と同じタイプの人間らしい。立ってる者は上司でも使え」
サイードは自分の言葉に自分でうんうんと頷いている。
「美学より大事な物がある。ふむ」
シフォンは厳しい顔をサイードに向けた。
「今日は随分突っかかるな?」
「ここまで勝ってるから、何もなく済んでるのも事実ですな。しかし単独任務ならなんとかなるかもしれませんが、今回のようにオマケがいると後ろを気にしなきゃならない。これは疲れる。私は疲れるのは嫌いでして」
サイードは飄々と言ってのけた。
「この敵に私が負けると?」
「副官は、どんな可能性も考えるのが仕事でしてな」
「勝ってみせればいいんだろう」
シフォンは言い放ってプイと横を向いた。
「やれやれ。意地っ張りな大将だ」
サイードはかすかに笑みを浮かべてつぶやいた。
■ ■ ■
『敵、ミサイル発射! 旋回軌道に沿った進路です!』
「CMWだ。径を大きく取る気だな」
キャンベルは素早く敵の意図を見抜いた。
「こっちのミサイルに当たりますか?」
「当ててくるだろう。しかしそれよりも距離だ。互いに近すぎる。爆発すればストームが起きるぞ」
『敵ミサイルとの接触まで、あと一〇秒!』
■ ■ ■
「隊長、あそこ」
キムの声に振り向いた薫は、漆黒の戦闘服を着た男たちを見た。人数は八人。突き当たりの通路の向こうに消えようとしている。
「なんだ、あの連中は?」
「最初に言ったでしょ? 作業服と別に動いていた連中」
薫は眉をしかめてから、男達に怒鳴った。
「おいっ!」
しかし一人がちらりと振り返っただけで、通路の角に消える。
と同時に、警報音と共に通路手前の隔壁が開放され、中で跳ね回っていた貨物のいくつかが飛び出してきた。最後の男が格納庫の緊急開閉ボタンを押したのだ。
「クソッ! なんだあいつらはっ!」
通路に溢れだした貨物を眺めて、薫は銃底で壁を殴りつけて悪態をついた。これでこの通路は使えない。目標の格納庫に行くには、大回りをしないといけないだろう。
「しょうがない。こっちの通路へ迂回しよう」
薫が話しかけると、キムは通路に溢れたコンテナをみつめて苦い顔をして言った。
「あーあ。いけないんだ。かたづけんの大変なんだから」
「お前なぁ」
■ ■ ■
「OK。開きます」
ラウスの言葉にバーネットはうなずき、背後を確保するキースに手を振った。
隔壁には大きく『7』と入っている。目標の七番格納庫だ。無線は未だ回復していない。強烈なジャミングがかけられたままである。
「よし。急ぐぞ」
ゴウンゴウンと音を出して隔壁が腰の辺りまで上がった時、耳をつんざく音がしてラウスが撃ち倒された。
「待ち伏せだ! 応射しろ!」
言うなりバーネットは天井の照明を撃った。ガラスが弾け飛び、辺りを闇が支配する。隔壁の向こうは既に照明が壊されていたようだ。漆黒の闇の中レーザーの発射口へ向けての凄じい銃激戦が展開される。レーザーが着弾するその一瞬だけ、闇が青白色に切り裂かれるのだ。
その時バーネットは闇に浮かんだ敵の姿を確認した。まるで暗闇での戦いを想定してたかのような全身黒ずくめの戦闘服……。
――黒い部隊!
バーネットははっきりと、アルカルでもヘリオンでもない第三の勢力を確認した。
■ ■ ■
眼下にこの星系随一の大国カーミアンの主都、ランワードの高層ビル群がうなっている。
地上七〇〇メートル。カーミアンの権力中枢にして、その象徴であるデルハリッシュの最上階で、男は夕暮れの最後の一瞬を眺めていた。邪魔にならないよう気配まで消してたたずんでいた男が、おもむろに声をかける。
「スペース・アイの落下、確認しました」
声は意外と若い。まだ二〇代である。金髪に眼鏡をかけた美形だが、油断のならない目つきをしている。声をかけられた男は全く体を動かさない。
「戦闘の方はどうだ」
「確認中ですが、おそらく事実かと」
「ふん」
眼下の大都市がゆっくりと闇に染まっていく。
ベルディナードと並んで大国と評されるカーミアン。産業発展に行き詰りを見せるベルディナードと違い、カーミアンはまだまだ余力を残している。
今回の事件でどう動くか。ASA十三連合の発展と主導を巡る戦いにも、そろそろ決着をつけるべきときが来たのかもしれない。
「ベルディナードの動きは?」
「こちらの艦船の動きを探っているようです」
「? まさか犯人探しをしてるのか? くだらん。誰に責任があるのかなど、どうでもいいことだ。落ちたな。あそこの人間も。今決めるべきは、地球に介入させないために、どう血を流すかだろうに」
「プランを検討します」
「時間が無いぞ。落ちる前に話をつける必要がある」
「わかっております」
若い男は一礼して、部屋を去った。
「ステーションの落下とは……。まさかの強硬手段だ。ここまでやるだけの何かが、この星系にあるということか。この騒ぎが済んだら、ゆっくり参戦させてもらうとしよう」
ビル風がうなる。それは断末魔の悲鳴か、呪いの言葉か。
男はじっと闇を見つめていた。




