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銀河の彼方  作者: A.杉本
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3 開戦

 艦長デスクの簡易モニターに解析データが映しだされていく。慌しいヘリオン国、ガルスレイ級戦闘艦「バンベスト」の艦橋。シフォンの横で一緒にモニターを見ていたアーモンは、その内容に戦慄した。


「落下……しかもこの落下速度では、脱出まで五時間足らずしかない?」


 最悪だ。むちゃくちゃだ。


「状況が変わったな。索敵信号全開。全艦A級戦闘配備しろ」


 感情が抜け落ちたかの様な、淡々としたシフォンの命令に、アーモンは慌てた。


「ちょ、ちょっと待ってください。そんなことをすれば、脱出してきた救命ボートなどにこちらを見られます。誰がやったにせよ、あの爆発が事故では片付かなくなる」

「副長。状況が変わって、我が艦はバックアップではなくなったのだ。スペース・アイがI九四に突入するまで余り時間がない。たとえ核を確保できても、制宙圏を手に入れなければ潜入部隊は脱出できない。それは敵も同じだ。向こうの艦長は索敵信号の使い方を見ても、かなり慎重な奴に違いない。向こうが動く前に先手を打って叩く。索敵信号全開。急げ」

「……わかりました。本艦はこれよりAクラス戦闘配備に移ります」



  ■ ■ ■



『ポイント七四九の船より索敵信号!』

「来たな。一六三の船はどうだ!?」

『未だ動きなし!』


 さすがにキャンベルも立ち上がって腕組みしている。


「戦うんですか?」

「脱出するにしろ、核奪ってトンズラするにしろ、制宙権をとらなきゃ始まらないだろ? その辺、敵の方が良くわかってる」

「でも敵が二艦構成だとすると、まともに戦うのは……」

「そうだな。そうなるとちょっとヤバイ」

「『ちょっと』じゃなくて、『たっぷり』ヤバイです」


 キャンベルの楽天ぶりに泣きたい気持ちで、フレウは言い返す。


「ふふ。そうか『たっぷり』ヤバイか。フレウの言語感覚は面白いなぁ」

「なんか、バカにしたでしょ。今」


 ふくれるフレウにキャンベルは微笑む。


「違うって。二艦連係ってのは、意外と難しいんだよ。だいたいどっちかに極接近されたら、もう一艦は眺めてることしかできないしな」

「そうなんですか?」

「そうなんだ、これが」


 にっこり笑うキャンベル。それを見てフレウもちょっと安心した。


――艦長としては優秀なのに。ふざけてなければ結構カッコい……。


 はっと気づいてフレウはハンカチを取り出して、汗を拭うフリをした。


――何考えてんだろ。あたしって。


 そんなフレウをよそにキャンベルは、メインモニタの映像を見入った。

 艦内デッキの一五〇インチほどのメインモニターには、艀観図の宇宙と四角い枠に囲まれた光点で、自艦と敵艦の関係が表示されている。

 キャンベルは目を細めて低い声で命令をくだした。


「ミサイル発射用意」



  ■ ■ ■



 ヘリオン国、ガルスレイ級戦闘艦「バンベスト」。

 一年前までは最新鋭戦艦だったが、今はアザトレス級にその座を譲った。

 シフォンはこの艦に乗込んで、もう四年になる。クルーのほとんどが、三年以上の付き合いというのも珍しい。それもこれもシフォンの扱いが軍の中で一定していないためだ。

 アシャンテ紛争の頃は、バックアップも無く危険な任務をさせられて、軍から死刑宣告を受けたようなものだった。

 六度の単独任務でいずれも成果を上げると、今度は完全にホサれた。新型船の輸送など、どうでもいい命令ばかりやらされたのだ。中にはアースターゼまで六日間という信じられない命令もあったが、何とかやり遂げた。

 女性の艦長は珍しい。最初は次々与えられる無茶な命令に、女性艦長である事もあいまって身の不運を呪うクルーも多かったが、次第にその驚異的な手腕を見せられるにつれ信頼感、そして連帯感が高まってきた。同時に、無茶な命令の中に軍上層部の悪意があることに気付き、軍批判とシフォン個人への忠誠が芽生えてきている。

 今回の任務は、久しぶりに特殊潜入部隊との共同戦線である。軍上層部が何を考えているのかわからないが、一筋縄では行かないだろう。結果、スペース・アイは爆発した。

 新任のアーモンは驚いているが、クルーの大半は「やっぱり」の思いが強いのである。


『敵、レッドゾーン! 距離九五〇〇! 遮蔽なし!』

『艦種判明、敵艦はアルカル強襲戦闘艦スターホーク級!』

「推力四分の一。ミサイル発射用意」

「推力四分の一。ミサイル発射用意」


 アーモンが復唱したときだった。


『緊急警報! ポイント八六三に戦闘艦発見! 艦種不明! 国籍不明!』

「なに!?」


 アーモンが目をむいて怒鳴る。


「艦種や国籍がわからんとはなんだ!? しっかり解析しろ!」


――敵が二艦いるのか? しまった!


 シフォンは舌打ちした。うかつにも敵が二艦いることを想定していなかった。今動けば、発見された敵艦に射たれる。


「緊急停止! 大至急!」

『スターホーク級、ミサイルを発射!』


――ミサイル!


 メインコントロールに衝撃が走った。モニターに映し出された光点に、複数の丸い枠が示される。そしてその枠は、ゆっくり動き始めた。


「ミサイルの進路は!?」

『現在解析中! あ、出ました! 進路一〇三の五九五、ポイント一一二。速度七五! 本艦にではありません! ポイント八六三、国籍不明戦闘艦です!』



  ■ ■ ■



 薫の指揮するスペール部隊と、それを補佐するロータス部隊。奇しくもヘリオン潜入部隊と同じ編成となっている。部隊構成は八人一部隊。

 バックアップ部隊との連絡は未だついていない。


「格納庫がどこもあの状態じゃ、核持ってズラかるのは無理かもしれないね」


 キムがパタパタと、手で顔をあおぎながらつぶやいた。


「『上』にどこまでやる気があるかだな。連絡はついたか?」


 後半は通信を担当しているショウ・タナファに声をかける。今回の作戦が初戦である新米通信士ショウが首を振った。爆発の衝撃の際、右手をしたたか打ちつけ、軽傷を負っている。


「だめですね。完全に妨害されてます」

「しかたないな。一般周波数の方は?」

「同じく」

「やーれやれ。どこの誰が仕組んだのか知らないが、一発ぶん殴ってやるからな」

「ねぇ隊長。その誰かが、ウチの司令長官だったら、どうするー?」

「そりゃお前、二発ぶん殴ってやるさ」



 ■ ■ ■



「状況を確認」

「ブレンとアレキサンダーが軽傷。他は無傷です。ルーイとの連絡は未だ取れません」


 ヘリオンの潜入部隊副隊長エリック・コールが事務的に報告する。


「お前はどうなんだ?」

「大丈夫です。健康だけが取柄ですから」


 口端でコールは笑う。しかし、幾分顔色が悪い。相当腰の痛みがあるようだ。


「それより、やはりあれは爆発……なんでしょうね?」

「だろうな」

「避難警報が出ています。なかなか苦労してますな」


 偵察から戻ったばかりのキースが報告した。


「警報と通信の配線、切っちまいましたからね。彼等も災難だ」

「『何が』あったんだ?」

「わかりません。ただ、環境維持システムがちゃんと動いてる事は確認しました」


 天井を開けると、そこには必ず環境維持システムのパイプが走ってる。

 宇宙ステーションで最も大切なのは酸素ではなく、水である。空気浄化システムを動かしているのも水だし、紫外線などに代表される膨大な宇宙線から人間を守る環境維持システムも、簡単にいえば宇宙ステーション全体を覆う水なのだ。

 問題は、先の爆発で水がどの程度失われたかわからないことである。今のところ発電機も健在のようだから、致命的な打撃を受けるほどではなかったようだ。しかしこのままずっと生存環境を維持できるとは限らない。


「格納庫があれでは脱出はかなり困難ですね。核の奪取は無理ではないでしょうか?」


 コールが慎重に言葉を選んで言う。バーネットは無言のまま今の戦力と状況を分析した。


――確かに核を持っての脱出は、かなり難しくなった。作戦の変更はやむを得んな。


 そう。惑星ヘリオンも惑星アルカルが極秘に核密輸を行う情報を捉えて動いていたのだ。何者かの意図的な情報操作が、そこに存在したが、まだ誰もこの事実に気付いていない。


「計画を核の奪取から破棄に切り換える」


 バーネットの決断は早かった。


「目標までの中央通路は、避難する人でいっぱいですが」

「貨物用の搬入路を使う。隔壁が閉っているが、一つ一つこじ開けていく」


 バーネットは短く答え、後ろに控える部下たちに合図を送った。

 ガシャガシャと銀色の工具箱を開け、不格好なサブマシンガンを取りだす。ケーブルを引っ張り、腰に巻いたバッテリーにつないだ。これが最新鋭のレーザー兵器である。

 レーザー兵器は、鉛玉を使う普通の銃に比べて数段殺傷力が弱い。よほど巧く急所に当てないと即死させることができないし、生産コストやランニングコストにおいても、はるかに銃に劣る。しかしそんなレーザー兵器にも、銃では追いつけない優れた利点がある。

 それは反動が全く無いという点だ。無重力の中で最も重要なその点が、レーザー兵器では実現されている。今では無重力戦闘での専用武器として改良が重ねられ、実戦に用いられるようになった。

 ただ、もともと無重力で用いることを前提にしているためだろう。一G(つまり地球上での状態)の環境で一五キロ弱の重量があり、無重力という「極地戦」以外ほとんど実用に耐えない武器である。


「無線が切れるとき……」


 近寄ってきたコールがバーネットにささやいた。


「黒い戦闘服の部隊とか聞こえませんでした?」

「聞こえたな。はっきりとではなかったが……」

「キースが確認した作業服と黒い戦闘服と二種類の敵がいるってことでしょうか? それとも作業服が服を着替えている?」

「少なくとも二種類ってことはないはずなんだがな」


 バーネットとコールは互いに視線を交わして沈黙する。敵であるアルカルの兵士以外に敵がいるはずはない。ないのだが、どうもいるような気がして仕方がなかった。


「隊長。いつでもOKです」


 隔壁を操作していたラウスが振り向く。


「よし行くぞ。全員フォーメーションを取れ」


 ゴオンと音がして隔壁が上がり始めた。

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