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銀河の彼方  作者: A.杉本
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2 爆発

 ドーン!!


 轟音と共に凄まじい衝撃が襲った。

 爆発の瞬間、アルカルの潜入部隊長薫、副隊長のキムは、格納庫から出る直前だった。格納庫には、無重力の中で円滑に物を移送するためのベルトが縦横に走っており、二人ともそれに掴まっていたのである。

 一〇秒か、二〇秒か。二人とも上下左右ムチャクチャに振り回され、格納庫の壁面にしたたか叩きつけられた。


「ちきしょうっ!」


 薫が悪態をついて、体勢をなんとか立て直しかけた時、バカでかいコンテナがふっ飛んできた。


「うわわっ!」

「くうっっ!」


 壁面を蹴って、きわどい差で避ける。

 飛回っているコンテナは一つではなかった。

 いやコンテナに限らず、全てが思い思いの方向に跳ね回っている。格納庫は無重力だ。慣性の法則で物は跳ね回り続ける。空気抵抗で少しずつ失速するだろうが、自然停止するまでには気の遠くなるような時間が必要だ。


「隊長っ! 船っ!」


 キムに肩を掴まれ、はっと振り向いた薫の真っ正面に、今度はこの格納庫に入港していた巨大な貨物船が突進してきていた。弾け飛んだ固定ケーブルが目の端をかすめる。


「だあぁーーーっ!!!」


 最悪だ。周りには壁も何も無い。逃げるエネルギーを得るためのものがない。

 巨大な貨物船は、咆哮を上げてみるみる迫る。

 と、いきなりキムが薫の背中を蹴り飛ばした。身体が横へ飛び、反作用でキムも反対へと飛ぶ。


――駄目か、くそ!


 最後の瞬間薫は体を丸め、目をつぶった。

 間一髪。貨物船は凄じい勢いで薫の足をかすめると、壁面に激突した。


 ガガーンッ!


 大音響が格納庫を満たす。そして船はそのまま止まらない。微妙に船体を回転させながら、逆方向に飛んで行く。


「隊長! 隊長! 生きてるー?」


 秩序を失った格納庫で、キムのいつもよりホンの少し緊張した声が飛んできた。


「かろうじて生きてるぞ!」


 障害物を器用によけて、キムが薫の横に来る。どうやらかすり傷だけで怪我はないようだ。


「いきなり蹴っ飛ばしやがって、このやろ」


 殴るマネをする薫。だがキムの咄嗟の判断がなければ、二人とも貨物船に押し潰されていたことは、よくわかっていた。


「早くここから出よう。また蹴飛ばされちゃかなわんからな」


 もう一度キムを睨んで、薫は行動を開始した。



  ■ ■ ■



 爆発の衝撃を受けたのはバーネット達も同じだった。

 無重力の通路を進んでたので振り回されることはなかったが、バーネットが身体を立て直すより先に、警告音ともに非常シャッターが閉まり始めた。


「コール!」

「なっ!?」


 ちょうどコールはその真下に居た。

 問答無用でシャッターは閉まる。

 床を蹴って避けようとしたが、蹴りが弱く十分ではない。シャッターの速度に比べて離れる身体がひどく緩慢だった。


「コール!」


 バーネットは叫んで飛んだ。


――間に合わない!!


 判断と、懐からEG九〇を引き抜くのと同時だった。引き金を絞る。


 ドンッッ!!


 発射と同時に凄じい反動でバーネットの身体はふっ飛んだ。身体が反転した時、コールの身体は目の前だった。


「ずあぁっっ!!」


 腕を伸ばしてコールの身体を引っ掛ける。強烈な重さが腕と肩にかかった。


「ぐうぅっ」


 床とシャッターとのわずかな隙間をすり抜けた直後、ガシッとシャッターが閉まった。 だが、今度は視線の先、通路の向こうが塞がっていた。


――コンテナ!


 通路のど真ん中にコンテナが流れだしていた。ちょうど角がこちらを向いている。次の瞬間、コールが力ずくでバーネットと自分の体を入れ替えた。そしてレーザー兵器の入った銀色の工具箱で身をかばう。


 ガシャン!!


 工具箱がぶつかり、さらに二人の身体がそこへ激突した。

 工具箱が無残にひしゃげる。

 コールの手が離れ、バーネットは天井にぶつかった。


――こンの……。


 なんとか体勢を立て直す。


「コール!」

「大丈夫です」


 腰を打ったらしく、手でさすりながら蒼ざめた顔でコールが答えた。

 後ろで、音がしてシャッターが上がっていく。


「隊長!」


 シャッターの隙間に顔を突っ込んで、キースが叫んだ。


「二人とも大丈夫だ」


――少し膝を打ったな。


 苦い顔をして、バーネットは溜め息をついた。



  ■ ■ ■



「何が起きた!?」


 アーモンは緊張した声で叫ぶ。モニターに捉えているスペース・アイが、光を発したのだ。明らかに異常だ。


「どうも爆発が起きたようです! 現在ノイズが激しくて潜入部隊と連絡が取れません!」



  ■ ■ ■



「艦長!」


 フレウは蒼ざめてキャンベルの方を振り返った。キャンベルは相変わらず艦長デスクの上にふんぞり返っている。その深く引き下ろした艦長帽から、片目だけが鋭い光をたたえて覗いていた。


「まず情報を集めろ。全てはそれからだ」

『拡大映像出ます!』


 艦内モニターにスペース・アイの映像が、大写しされる。ゆっくりと回転しているドーナツの真ん中にある筒に、明らかな異常があった。

 銀色の筒の片面がすすをつけたように真っ黒になり、影のように見える。筒の端、全体の五分一程度が削られたようになくなっているのだ。


「スペース・アイの軌道を調べろ。あれだけ大きくえぐられていると、ステーションがバランスを崩している可能性が高い」

「いったい何が……」


 キャンベルの声が、食い入るようにモニターを見つめるフレウの背中を叩いた。


「副長! 呆けてる時間はない! 軌道を調べろ。それからマークしていた敵艦は?」


 レーダー係が振り向いて答える。


「依然、動きがありません」

「よし。潜入部隊とはまだ連絡が取れないか?」


 今度は通信係が振り向いた。


「まだです。ただ、どうやらこいつは妨害されてる可能性があります。それがステーションの中か、外の宇宙かは今調べてます」

「よし。解析したらすぐに知らせろ」


――妨害……。


 キャンベルは髪の毛を乱暴にかきあげた。子供の時から思考するときの癖である。


――爆発と同時に無線が役に立たなくなった。今この時に合わせて通信妨害をするとなると、爆発も最初から計画されてたことになる。なぜ、爆発を起こす必要があったのだろう?


「軌道算定まであと三分。艦長、まさか核が爆発したんじゃ……」


 フレウが心配気に声をひそめる。


「バカ言え。もしそうならスペース・アイなんぞ跡形もなく消し飛んでる。高性能爆弾二〇〇キロってとこだな」

「それだってものすごい量じゃないですか」

「問題は爆弾でふっ飛ばした目的だよ。無線の妨害といい納得いかないことばかりだ」


 キャンベルは相変わらず艦長デスクにふんぞり返ったままである。


『緊急通信! スペース・アイは軌道を外れてます! 現在毎分十一でI九四に落下中』

「ら、落下?」

「やはりな」


 キャンベルは首を振ってため息をついた。


「た、大変!」

「どうも事態が、悪い方へ悪い方へ進んでるな。くそったれ」


 口をひん曲げて、キャンベルは悪態をつく。


「薫隊長に連絡が取れません! 早く脱出させないと」

「同感だ。エンジン始動。戦闘配備」

「戦闘配備?」

「制宙権を取る。スペース・アイが落っこちる前にな」

「制宙権って、まだ作戦を続行させるつもりなんですか?」

「あのなあ。脱出も何も……」


 またも鳴った緊急通信に、キャンベルの言葉は途中で遮られた。


『解析一〇〇%あがりました! ポイント一六三に新たな戦闘艦を発見!』

「なんだと!?」

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