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銀河の彼方  作者: A.杉本
24/25

24 決戦

 正面のモニタには、ついに捉えた国籍不名艦の姿が写し出されている。

 複雑な突起のある見たことない凶悪な船形。宇宙の闇に溶け込むかのような、ツヤのない漆黒のカラーリング。それは戦闘艦としても異様に禍禍しさを感じさせるものだった。


「……なるほど。つまり、そういうことなわけだ」


 沈黙する艦橋に、薫の抑えた声が響く。


「下のゴキブリ部隊といい、見事なカラー統一。お、み、ご、と」


 キムは投げやりな仕草で手を叩く。

 情報のあった格納庫に核はなく、あるのはプラスティック爆弾の山と、バトルアームの罠だった。それを仕掛けた黒い部隊。そして宇宙には同じく銀河警察すら平気で攻撃を加える黒い船。今回の全ては、この黒づくめの連中が仕掛けたもの以外にありえない。


「ミサイル装填。ノイズメーカー用意」


 何かをふっ切るように、キャンベルが命令を下す。


「艦長、待ってください! 今の艦の状況は、とても戦闘できる状態にありません。それに残弾数も、CMW、閃光弾全てあと数発でおしまいです。ここは撤退するのが……」

「山ほど人が死んだ。その責任を俺たちにかぶせるのが、奴らの目的だ。ここで逃げればあいつらの思う壷になる」

「だからと言って……」


 キャンベルは受け付けない。有無を言わせぬ口調で、艦長帽をかぶり直した。


「進路このまま。Aブロック、Bブロックのクルーは後ろのブロックに退避しろ」

「そ、それって……」

「このまま本艦は、奴にぶちかましをかける」

「じょ、じょ、じょ、冗談じゃないですっ!!」


 あまりの命令にフレウは咳き込んだ。だがキャンベルはこれも聞き入れない。深くかぶったひさしの向こうから、瞳だけが鋭く覗いている。


「ノイズメーカー発射! 全速前進! これより本艦は、黒い国籍不明戦闘艦を叩くっ!」

「おっけぇいっ!」

「わぁっ!!」


 シュマイケルの怒鳴り声と、フレウの悲鳴を乗せて、メテオストライクは猛然と突入を開始した。


「ねぇねぇ――」


 艦橋のすったもんだを見守っていたキムが、ちょいちょいと薫の肩をつつく。


「いっつも僕たちを乗せて、こんな綱渡りやってたのかなぁ?」


 問われた薫も困った顔だ。キャンベルは正面切って突っ込む気である。有視界戦闘とはいえ、それは余りに無謀だった。


「今日は特別、って信じたいけどな……」


 恒星I九四の重力流が吹き荒れる。その流れをうまく受け止めることができれば、重力船は限りなく光速に近づくことができる。重力流から重力流へ。重力船はグラビティストリーム、延いてはビッグGという銀河の大河に乗って飛ぶ、翼のない鳥だ。だから重力船のパイロットを、特に飛流士と呼び、転じて飛竜士と呼ぶのである。


 恒星I九四からの莫大な重力の風を受けて、メテオストライクはガンガン加速する。

 見据えるのは、黒い戦闘艦。


『ノイズメーカー爆発! 敵艦をロスト!』

『距離二〇〇〇! 敵艦、衝突コース!』

「有視界だ。さあこれからが正念場だぞ」


 黒い戦闘艦もいきなり有視界戦闘に突入するとは思わなかったらしく、反応が遅れぎみだ。


『ミサイル発見! 数四! 接触まで一〇秒!』

「来た! ミサイルです!」

「お前に言われんでもわかってる。CMW発射! 進路修正プラス一.五!」

「回避行動を取らないんですかっ?」


 フレウが大声を上げる。しかしキャンベルは回避命令を出さない。


「マトモな戦闘力は残ってない、と言ったのはお前だろ? だから時間をかければかけるだけ、こっちが不利になる。だったらマトモでない方法で、速攻で倒すしかない」

「私には、ただ単に突っ込んでるようにしか見えませんっ!」

『CMW、爆発!』


 安全装置は全てのミサイルにかかっていなかった。CMWの爆発で、四本のミサイルが同時に爆発する。沈黙の宇宙空間に、人口の小さな恒星が現れた。そのすぐ横を猛スピードでメテオストライクが駆け抜けていく。


 黒い戦闘艦がどんな戦歴を持っていようと、突っ込んでくる敵と戦ったことは戦ったことはなかったに違いない。メテオストライクは次々飛んでくるミサイルを、微妙な進路修正だけで、間一髪かわしていく。


『距離一〇〇〇! 依然、衝突コース!』

『またミサイルですっ! 数三っ! 接触まで、あと九秒っ!!』

「CMW発射! 進路修正マイナス二.〇!」


 狂ったように疾走するメテオストライク。イカれていた外殻の何枚かが弾け飛ぶ。


『敵艦、回避行動をかけます!』


 堪え切れなくなったように、黒い国籍不明戦闘艦が回避を始めた。しかしその動きに対して、メテオストライクの速度が圧倒的に速い。


『CMW爆発しますっ!』


 アナウンスもせっぱ詰まってきた。その語尾が消えない内に、CMWと三本のミサイルが爆発する。

 近い。

 しかも爆炎が妙に楕円形だ。伸びた炎がメテオストライクの進路を塞ぐ。とても避け切れない!


「対ショック姿勢っ!!」


 突入した。様々な浮遊物が音速の数十倍の速度で襲いかかる。


 ビーッ!


 一斉に警報が鳴り響いた。


『Aブロックで隔壁異常っ! 一部で外殻が融解っ!!』

『A、Bブロック、空調停止!』


 各部署が被害を次々と伝えてくる。


「今のは、結構ヤバかった」

「正気の沙汰じゃない――」


 泣きそうな顔でフレウがつぶやく。キムや薫も息を殺して、モニターをみつめている。


「なぁに、Aブロックが全壊したって、ミサイルの砲門は一個残るから、大丈夫」

「そんなことは心配してませんっ!」


 苦笑いするキャンベル。半ベソ状態のフレウ。


『敵艦、依然回避行動中! 距離六〇〇! 衝突コース!』


 獲物に襲いかかるチーターのように、回避行動をかける黒い戦闘艦に向かって、メテオストライクは爆進した。

 黒い戦闘艦も必死の回避をかける。しかし相対速度が余りに違った。既に回避は不可能である。互いのモニターには、相手の姿がみるみる近づく様が映っていた。


「薫、キム。お前たちも何かに掴まれ。フレウ、お前さんもだ」

「掴まりますよ。掴まりますとも。絶対、後で問題にしますからね。絶対!」


 ヤケくそ気味に吐き捨てるフレウ。さらに目の光が増すキャンベル。


『距離四〇〇っ!』

「さあ、来るぞぉっ!!」

「めちゃくちゃだぁっ!!」


 あがくように回避、いや逃げを打つ黒い戦闘艦。銀河を走る稲妻のように、突っ込んで行くメテオストライク。


『距離二〇〇っ!!』

「私だけ降ろしてぇっっ!!!」

『――一〇〇っっ!! 衝突しますっっ!!』


 メテオストライクは旋回する黒い戦闘艦を追いかけるように、横腹に突っ込んだ。


 ドガァァッッッッ!!!


 外殻、内殻全てがひしゃげ、押し潰され、突き刺さる。

 金属と金属が激しくこすれ合い、火花が飛ぶ。

 艦の照明、モニター、表示パネルの光が全滅した。


 ギイィィッッッ!!!


 メテオストライクは横腹に頭を突っ込んで、さらにそのまま引きずっていく。


『システム、オールダウンッ! モニターできません!』

「被害報告はいい! 逆進をかけろっ! 全速!」


 飛流士が必死の操作をする。だが、電気系統が死んでいるので命令が飛んで行かない。


『操作不能!!』

「なんとかしろっ!」


 ギーンッ!!


 聞いたこともない駆動音がこだました。黒い戦闘艦は沈黙したままである。

 メテオストライクがブルッと痙攣した。


『エンジン起動成功!!』


 ガギギギギ……。

 力ずくで引き離しにかかる、耳障りな摩擦音が艦内にひしめく。

 メオテックエンジンが咆哮を上げ、振動が艦橋にまで届いた。


「後退そのまま。右に旋回!」


 命令と共に、一瞬消えた振動が、さらに大きくなって始まった。

 船体を振って、黒い戦闘艦を無理やり引き剥がして行く。

 引き攣ったような大きな揺れが、断続的に襲う。


『敵艦、再始動します!』


 次の瞬間、ガンッ! と一際大きい振動が襲った。

 出し抜けに照明やモニターが回復する。


『敵艦の引き離しに成功!』


 蘇ったように回避行動を再開する黒い戦闘艦。その横腹には、ぽっかりと巨大な穴が開いている。


『距離、三〇! さらに開きます!」

「ミサイル発射用意!」


 回復したメインモニターに、黒い戦闘艦が映ってる。全員、その姿を食い入るように見つめていた。


 船体番号すら入っていない漆黒の塗装。奇怪な突起の張り出た醜悪な姿。

 その艦は、悪化を増す情勢の中、まるで見物するように動かないでいた。

 その艦は、三隻の銀河警察の武装艦を沈め、さらに躊躇なく四隻目を攻撃した。

 そして今、その艦は予想外の攻撃に傷つき、逃げようともがいている……。


「――あのドテッ腹の大穴に、ブチ込んでやれ」


 キャンベルは昂然と顔を上げ、最後の命令を下した。


「ミサイル発射っ!!」


 一本のミサイルが、光と闇の宇宙を切り裂いた。それは狙い違わず、ぽっかりと開いた傷跡に飛び込む。


 ズンッ!


 爆発した。船体が大きく傾ぐ。爆発は連鎖し、死神の鎌となって艦全体を飲み込んだ。


 ドーンッ!!


 次の瞬間、大爆発が起きた。

 黒い艦の断末魔は、原色の光に彩られ、壮絶な炎を放つ。

 そして微かな塵を残した後、全ては沈黙の宇宙に吸い込まれた。


「勝った……」


 沈黙の艦橋で、キムの声が妙に響いた。一瞬の間の後、喚声が爆発する。


「よっしゃぁっっ!!!」


 キャンベルがガッツポーズを取って、薫と手を打ち合せる。

 キムがフレウの背中を思いっきりひっぱたく。

 全員が踊り上がる中、フレウだけ泣きそうな顔のままポツリとつぶやいた。


「軍隊じゃないよ。こんなの」


 残念ながらその言葉を、誰も聞いてくれなかった。

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