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銀河の彼方  作者: A.杉本
25/25

25 それぞれの終わり

――あの噂は本当なのだろうか?


 ヘリオン潜入部隊副隊長、エリック・コールは揺れる隔離室で思いを馳せた。どうやら投降したため独房には入れないらしい。隔離室と言っても、一般居住用の部屋にオートロックと監視機器を取り付けただけの簡単なものである。本来居住性はかなり良いはずだ。


 この揺れと警報がなければ、それを実感できたはずなのだが。

 横で寝ているバーネットは、アルカルの医療スタッフから睡眠薬をもらうと、さっさと寝てしまった。今でもかなり顔色が悪い。実際、最後は脂汗を垂らして本当に辛そうだった。


 エリックもひどい気分である。吐き気まではしないが、イライラと気持ちが落ち着かない。しかもアルカルの戦闘艦は戦闘の真っ只中らしく、激しい揺れと頻発する警報、非常灯だけを残して消える照明と、気分の悪さにターボがかかっていた。


 エリックにはとても薬をもらって寝てしまうほどの度胸はない。バーネットと組むのはこれが初めてだが、普段の時と作戦中のときでは、受ける印象がずいぶん違う。普段のバーネットはかなり武頼な感じで、言動も剛胆だ。酒も底なしと聞いている。しかし作戦に入ると打って変わって、不思議なほど細心で精緻だ。ともすればそれは神経質とも言われかねないほどである。


 ただ今日のバーネットはどこかおかしかった。途中で急に電池が切れたように、集中力がなくなってしまったのだ。

 一部に薬物使用している者があると言う噂がある。それも一人や二人ではなく、相当な数らしい。バーネットがその一人であるとは信じられなかったが、今日の変貌ぶりを見ると、「もしや」という疑念が湧いてきてしまう。


――それより、これからの捕虜生活か。


 エリックにとって初めての捕虜体験だ。運が良ければ協定によって一年後の捕虜交換でヘリオンの地を踏める。だが、もちろん今乗っているこの船が、沈まなければという前提だ。

 ズンと音がして、艦がまた揺れた。今は、あのシフォンを倒したアルカルの艦長の手腕を信じて、祈ることしかできない。


  ■  ■  ■


 さきほどの小会議室には、議長のアーネスト・メロウと、ベルディナード、カーミアンそしてリビニウスの大使しか出席していなかった。

 ヘンダーソン事務総長の席には、飲料水なども用意されているのだが、また遅れているのか姿はない。アダムズとギレットは先ほどと同じく並んで座り、最終決断を迫られた。


「アルカルは、首相辞任を明日中にも発表します。ただし、それはスペース・アイ落下の責任を取ってではない。艦の派遣により事態を混乱させた責任によってです」


 色の薄い茶色の目を各大使に配り、ギレットは明快な言葉で結ぶ。


「理由は特に求めていない。我々の求めるのは、結果だ。ヘリオンはどうかね、大使?」


 メロウの言葉に、アダムズは伏せぎみだった顔を上げた。そのまま睨み付ける。


「国民議会議長の辞任が決まりました。正式な決定は来週に入ってからになりますが」


 その連絡を、アダムズはつい一〇分前に受け取った。同時に自分も今日の二四時をもって解任されたことを知る。後任の大使は、まだこれからの選考と聞いた。二〇年以上もこの仕事をこなしてきて、これは余りにあっけない幕切れだった。


「ヘリオンもまた、辞任はスペース・アイ落下の責任を認めたためではありません。理由は、内政の問題によってです。そこのところを強く主張いたします」

「了解した。一時間後に理事会が再開される。その場では、辞任が決定した事実だけを伝えることにしよう。お二人とも御苦労だった。理事会を代表し、迅速な決断に感謝する」


 そして、あっと言う間に非公式会談は終わった。――全く何の余韻も残さないほど。



  ■  ■  ■



 カーミアン、デルハリッシュ最上階。男は決済の書類を片付けていた。

 若い男が入ってきて、持っていた書類を机に置く。

 その書類にチラとも視線を投げずに、男はおもむろに口を開く。


「ベルディナードの契約書は読んだ。思っていたより、なかなか面白い。実際、メンテとは考えたな。いったい誰の発案だ? グリツァーではあるまい」

「クラレンスという男だそうです。現在、国防省主席補佐官の役にあります」

「国防省……ふん。あそこは相変わらずクセ者が多いな」


 男は、知ってなければ絶対にわからないほど薄い笑みを浮かべた。続いて、若い男の持ってきた書類に手を伸ばす。ざっと目を通し、若い男に向かって今度は皮肉げに微笑する。


「まぁ、こんなもんだろう。私の名前で送りつけてやれ。これで好き勝手も終わりだ」


 無言でうなずいて、若い男は退出した。男はまた書類の決済に戻る。


「アルカルもヘリオンも、末端にはなかなか侮れん奴がいるというわけだ」


 一人言葉をつぶやいて、男は微笑んだ。その静かな笑みを知るものは一人としていない。


  ■  ■  ■



 再開された理事会に、ヘンダーソンは出席していない。

 別段不思議に思う者もいなかったが、宇宙ステーション落下の責任を、連合代表として明確にしたことが伝えられると、なるほどと頷く者も多かった。


 そしてアルカル、ヘリオンも首相が辞任したことが伝えられ、さらにスターヘヴン委譲が発表されると、驚愕のざわめきと共に安堵の雰囲気が議場を占める。

 後任事務総長には、ベルディナード、カーミアン両国から推薦され、アーネスト・メロウがなんの問題もなく決まった。続いて理事会議長に、リビニウス大使のリシャー・グレゴリアスが選ばれ、これも異論なく決定する。


――これで取れる手は尽くした。後は、地球の出方のみ――。


 理事会が終了し、議長のメロウや各大使が退出してしまっても、アダムズは席から動かない。いや、動けなかった。途方もない脱力感が、全身を襲っていたのだ。


 首相辞任を伝えてきたのは、アックスミンター議員だった。疲れ切った表情で、それだけ伝え、あとはアダムズの解任と後任についてを言及したのみで、通信は終わった。


 何があったのかはわからない。

 バロウズ将軍が失脚し、その影響がバロウズ一族全体へ波及した今、軍事政権そのものが揺らぎ始めていることは間違いない。

 

 国営放送では、首相の行方が掴めないことを繰り返し放送していた。おそらく辞任は、本人が了承したものではあるまい。この早さは、アックスミンターよりも政界の中枢か、でなければもっと上の判断だ。いずれにしろアダムズの手の届かぬ、雲の上の話である。


 問題はそこがアダムズのことまで判断したかどうかだ。普通はそんなことはないし、そうではないと信じたい。でないと帰国した後、アダムズの未来はさらに暗くなってしまう。


――これで地球を抑えられなきゃ、全くの犬死だ……。


 ようやくアダムズは立ち上がった。これからは自分のための戦いが待っている。



  ■  ■  ■



 軽く睡眠を取って、シフォンは艦橋に戻った。報告をまとめていたサイードが、書類を持って近づく。


「見れば見るほど、敗けたのがにわかに信じられないデータですな」


 苦笑しながら、シフォンはレポートに目を走らせた。


「つまりメオテックエンジンだけなわけだ」

「外殻を見事に吹っ飛ばされたのにも関わらずです。こっちの正確な艦内図はもちろん、そういう爆破の訓練をやってなきゃ不可能ですな。こりゃ」

「いくらなんでも、そんなバカな訓練はやらんだろう」


 シフォンは肩をすくめる。

 そもそも戦闘艦同士の格闘戦で、接敵しての白兵戦なんてまずありえない。その上敵のエンジンしか傷つけないような訓練は、時間の無駄どころか正気の沙汰ではないのだ。


「しかしそれじゃあ、ぶっつけ本番でこれだけのことをやったと?」

「だろうな。もちろん信じられない話だが、敵のダメージを最小にする訓練をする方が、もっと信じられない」


 妥当な意見である。サイードは何事か考えていたが、やがて諦めたように深くため息をついた。


「上に何か言われるでしょうなぁ」

「本当の事だ。しかたない」


 デスクの通信機が鳴った。一コールが終わらない内に、サイードがパッと取る。


「艦橋だ。……なに? 警備は何をやっていたんだ?」


 相変わらずの無表情でいくつか指示を出すと、サイードはシフォンの耳に口を寄せた。


「警備からです。医務室から副艦長が消えたと……」


 その時、艦橋を守る分厚い隔壁が開いた。アーモンが襟元を正しながら立っている。顔色は相変わらず悪い。


「申し訳ありません。長々と席を空けてしまいまして……」

「副長、今にも倒れそうに見えるぞ。医務室に戻れ」

「いえ! そういうわけには……」

「本艦は多大なダメージを負い、本国へ帰還中だ。既にレッドコールも出した。作戦は終わったんだ」


 目を見開き、アーモンは茫然と立ち尽くした。唇が震えているのが、遠くからでも判る。


「レッドコールを出した……」


 何か意識の遠くでしゃべってるような感じだった。シフォンは事務的に説明を続ける。


「そうだ。潜入部隊はおそらく敵の捕虜になっただろう。しかしそれもやむを得ない。まさか落下するステーションと心中しろ、とも言えんからな。サイード、医療クルーを呼べ」

「もう呼びました。さあ、副長。とっとと戻りましょう」


 促されて、フラフラとアーモンは身体の向きを変える。最後に宿っていた生気が抜け落ちて、全くの抜けがらになってしまったようだった。

 隔壁が開くと、すぐ外に医療クルーが来ていた。サイードは彼等に引き渡すと、振り向いてシフォンに向かって肩をすくめる。


「なんか人形みたいになっちゃって。あれもベムートの影響ですかね?」

「微妙なとこだな。原因の一端はあったろうが、問題は彼の精神にあった気がする」

「いま、また少しずつ投与を開始しています。やり過ぎると本国にバレますからな」


――もう十分バレてるだろうがな。


 シフォンは冷たく思考した。

 その名前をベムートと言う。何かを原料とするのではなく、ヘリオンのアカデミーの一室で、一から合成して作られた無味無臭の新型薬剤である。効力は知覚の倍増、暗示に対する抵抗力の低下。いつから使用され始めたのか、明確な記録は破棄されてわからないが、命令に対する絶対服従、不満の抑圧を目的に一〇数年に渡って軍部を中心に投与が行われていた。


 シフォンがなぜそれに気付いたのかというと、もともと薬物に敏感な体質的だったからだ。自分の艦を持つようになったシフォンは、クルーへのベムート使用を制限していった。もちろん食料や飲料水を問わず、最初から混入されているのだ。だからシフォンの努力は並大抵でなかったはずである。


――私を敵視するより、こんな綱渡りをすぐにやめてくれるといいんだが……。


 アーモンは今回、急に配属された副長だった。おそらくシフォンの監視が本当の任務だったに違いない。確かに配属されてからこっち、アーモンは妙な動きを艦内でしていたのだ。シフォンとしては当然、余計な詮索はされたくない。そこでアーモンの食事には全くベムートの投与をしなかった。といっても既にこの艦では、八割がた無投与の食料が使われていたのだが。


 結果、五時間を超えてアーモンには禁断症状が出始めた。症状は発汗、発熱、そして判断力、集中力の低下。共同作戦を取った潜入部隊の方も、五時間を超えると同じ症状が出たはずである。おそらくその症状はアルカルの側にも、奇異に映るだろう。今まではバレなかったが、今回の敵の艦長はキレ者だ。兆候に気付くかもしれない。


――告発されればヘリオンは終わりだ。だったら自分の手でバラす?……


 今まで何度も考えた選択だった。だがなによりシフォンは、自国の可能性、自ら過ちに気付く可能性を捨て切れなかった。いや、その可能性を信じたかった。


 しかしヘリオンの崩壊は、軍事国家としての歪みを薬物で抑え込もうとしたことで、既に時間の問題になっていた。シフォンは彼女なりにその崩壊を最小限に留めようとしたが、時の政府がそれを理解することは、なかったのである。



  ■  ■  ■



「結局、黒い連中がなんなのか、わからなかったなぁ」


 キャンベルの言葉に、キムがあくびをしながら答える。


「全部やっつけちゃったからね。捕虜取る暇もなかったし」

「まぁ、でも船やら装備やら戦い方やらを見ると、この星系の連中じゃなさそうだってのは、間違いなさそうだけど」


 薫が言葉を引き取った。


「じゃあ、他の星系から侵略を受けてたってこと? そんなことできる星って、あったっけ?」

「一つだけある」


 キャンベルは静かに答えた。


「まさか……地球?」

「他にこんな芸当できる奴はいないだろ」


「あのー!」


「だって、それじゃ自分のステーション自分で落としたことになるよ? いったい何のためさ?」

「わからん。だが、それだけ欲しい何かが、この星系にあるのかもしれん」


――だとしたら……。


「あのー!」


 キャンベルは言葉にしなかった。現実になりそうな気がしたからだ。


――また、何か起こる可能性がある……。


「ま、なんにせよ、ヘリオンの方もガタガタになって、勢い余って平和になりそうだから、怪我の功名かもしれないね」

「それは確かにその通り」

「うまくまとめたな」

「平和が一番だぜ」


 うんうん、と頷くキム。それぞれ納得するキャンベル、薫、オリヴィア。


「いい加減、報告書手伝え、こらぁっ!」


 いつもの様に、フレウの怒声がブリッジに響き渡った。



  ■  ■  ■



 メオテックエンジンの発明で、人類が恒星の大海原へ飛び出す準備が整った。

 だがメオテックエンジンでも光速の壁を超えて飛べるわけではない。メオテックの発見で近づいたかに見えた人類の宇宙進出も、時間という敵にはどうしようもなかった。


 地球から一光年以内に進出しただけのまま、数世紀が過ぎたころ、D・マーティンという物理学者がある実験を行った。シリウスは伴星として、八等星の白色矮星を持っている。


ちなみに大きさは太陽の〇.九八倍。半径が太陽の五〇分の一である。にもかかわらず密度が水の一〇万倍という高密度、高重力の白色矮星だ。ちなみに天文学史上、初めて発見された白色矮星でもある。D・マーティンはこの白色矮星の中心にメオテックを射ち込んでみたのである。西暦二三一〇年のことだ。


 なにやら恐ろしく長い計算式を証明するためだったと本人は主張しているが、単に、


「反重力物質を超重力に放り込んだら、どうなるだろう?」


 という素朴な疑問だったとする都市伝説ならぬ、学界伝説が根強く残っている。


 理由はともかく、その結果がとんでもないものだった。

 白色矮星は消え失せ、変わりに巨大な穴が出現した。直径にして約二〇キロメートル。

 そしてその穴の向こうには、見たこともない宇宙が広がっていた。

 超重力とぶつかったメオテックは、空間をねじ曲げてしまったのである。


 この最初にできた穴の事を『グレートホール』。または発見者の名前を取って『マーティンホール』と呼ぶ。この穴はそれから現在まで消滅もせず残っているが、研究が進むにしたがってそれが如何に奇跡的なことかがわかってくる。



 メオテックは自らの質量の二千万倍程度の質量にぶつかると、空間をねじ曲げる性質がある。そのうえ、その屈折率は電流で変化する。五万ギガワットになると、つまり無重力効果を起こす電流になると、その屈折率はほぼゼロになる。たとえ穴が開いていても、そのまま向こうに素通りしてしまうわけだ。


 ではグレートホールのように、全く電流をかけない場合の屈折率は?

 実はこれがわからない。理論では、電流をかけない場合の空間の歪みは無限大になってしまうのだ。だがどうやらメオテックをぶつける物質全体の質量によって、屈折率の限界が決まるらしい。今の学説では、理論上約一〇万光年が限界ということになっている。だからグレートホールも、「穴の向こうは銀河系内のどこか」ということになっている。


 とにかく最大の懸案だった、時間がこれで解消された。大電力を与えれば、全くタイムラグなく一〇〇光年でも、一〇〇〇光年でも宇宙開拓に進出することが可能になったのである。この後に開拓目的で作られた穴の名前を、『メオテックホール』または『ジャンプホール』と呼ぶ。ただ単に『ホール』と呼ぶこともある。


 とはいえ、いくら一〇〇光年先に行けるようになったとしても、いきなりわけもわからない宇宙に穴を開けて進出することはしなかった。そこには莫大な利権が潜んでいたからである。この利権の管理が、そもそもの銀河連合政府誕生の原動力となったのだ。


 西暦二五〇〇年の時点で、『ホール』の数一五〇。年二回の割合で、空間を飛び超え、開拓の門が開く。

 人類の華やかな宇宙開拓時代の幕開けだった。


 ASA一三連合はその十三番目、非常に初期に計画された星系である。このホールは、地球から約一万光年と言うかなり遠い位置に設定された。実は第一期目の開拓に失敗、二つに別れて、ホールからさらに二十光年ほど遠くに再開拓された星系である。別れたもう片方の星系は、開拓にまたもや失敗してしまった。


 メオテックエンジンで光速の壁を超えられない以上、年二回開くホールには最低二十年かけて旅をしなければならない。それでも何か特産が有れば違ったが、ASA十三連合は大して有効な資源もなく、今でもカツカツの運営を強いられている。

 遠くて、さらに役に立たない。絵に描いたような、お荷物星系だった。



  ■  ■  ■



 男は報告を受け取った。帰還ゼロ。

 潜入部隊は脱出できず、船は撃沈された。理由は様々あったが、一番にはアルカル、ヘリオンの戦闘部隊が予想以上に優秀だったことが挙げられる。

 それだけではなかった。ベルディナードから「スターヘヴン」委譲の引き渡しがあったが、その契約書を渡す時に、クラレンスと名のった国防省の男はマスコミに聞こえないほど小さな声でこう言った。


「VOA連合軍情報局とは、これからも長い付き合いをしていきたいですな。大佐」


 こちらの無言の威圧に全く顔色を変えず、その補佐官は無表情に一礼する。フラッシュが瞬き、その後は一言も交わすことなくプレスルームを退出した。


 そのすぐ後、大使のディアーロがカーミアンの首相からの親書を持ってきた。もちろん、ディアーロの顔に社交辞令の愛想笑いは露ともない。

親書の文面は極めて簡潔だった。曰く、


「面白い舞台を見せて頂いた。スターヘヴンはいいステーションだと聞いている。末長くお使い頂ければ光栄だ」


 どちらも、「真相は知っている。これ以上は望むな」という威しだった。


――しかし奴らは本当の事は知らん。


 辺境星系の実権を握る当初の目的は、相当に困難になってしまった。だが彼等は知らない。実権を握ることが最終目標ではないということを。確かに自作自演、それも地球連合政府ではなくVOAによる『事故』であることを調べ抜いたのは大したものだ。だがベルディナードも小賢しいカーミアンのマクレガーも、『ゲート』のことは何も知らない。


 ベルディナードがスターヘヴン委譲でメンテナンスに絡んできたことも、決して外宇宙で行う調査の事を知ったためではない。


 大きいとはいえ、辺境のステーションを与えることで、彼等はこちらを遠ざけたつもりだろう。しかし、むしろこれは願ってもないことだ。これからの外宇宙調査をする上で、重要な足掛りを得ることになったのだから。


『ゲート』


――そう。その情報を地球連合政府でさえ、まだつかんでいないのである。

『ホール』などとは比較にならないほど、長距離を飛べる『ゲート』の存在を。


 何者か、人類以前の生命体が設置した、惑星すらすっぽりおさまる巨大な穴。『ゲート』の存在を――。



『ニュースをお伝えします――。

 地球資本エキサミット・アーツ社所有の宇宙ステーション、スペース・アイが落下した事件で、ASA十三星域標準時間一五時、フレリック・ヘンダーソン事務総長が、その責任を取って辞任しました。また近接宙域で戦闘をしていたとされるアルカル、ヘリオン両国首相の辞任も、さきほど発表されています。


 さらに連合理事会は、ベルディナード所有のコスモⅢ型球形ステーション、スターヘヴンの委譲を決定、ASA十三星域標準時間一六時、エキサミット・アーツ社で引き渡しの会見が行われました。


 これを受けてフレメン・ディアーロ地球大使は、「ASA十三連合の誠意に感謝する」と声明を発表。今回の事件の処理について、一定の評価を示しました。

 これで地球連合政府の直接介入という危機もあった今回の事件は、ひとまず収束したことになります。


 では、次のニュース――……』



                                 [了]

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