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銀河の彼方  作者: A.杉本
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15/25

15 白兵戦

 活動を停止したバトルアームを確認して、バーネットは笑みを浮かべた。


「やったぞ。いい腕してやがる」


 図らずも共同戦線のような事態になってしまったが、それもこれで解消。次の瞬間から元の戦いに戻ることになる。バーネットは珍しくそれが少し寂しかった。

 と、違和感を覚えて自分の手を見た。指先が痙攣している。


――くそっ! まただ。


 いつの頃からか、戦闘が長引くと身体に異常が起きるようになった。もちろん軍医には一度も言ったことはない。ヘリオンの軍隊は、戦えなくなった者には厳しかった。そして何よりバーネット自身が、最前線で戦えなくなることに不思議なほど恐怖を感じるのだ。


『……隊長?』

「あ、すまん」


 唐突にキースの声を認識した。集中力も落ちてるらしい。


「随分、船の確認に時間がかかったな。いったいどうした?」

『起爆剤を抜くのに手間取りまして』

「起爆剤?」

『高性能爆薬の塊ですよ、この船は。実に壮観だ』


 キースが珍しく感想を述べた。思ったよりフランクな性格なのかもしれない。


「……核は?」

『ありません』


 キースの声に落胆はなかった。たぶん結果を予測していたのだろう。


「つまり完璧に罠か」


――俺たちとアルカルを呼び寄せるのが目的? いったい誰が? 何のために……。


 バーネットは作戦が始まる直前の、嫌な予感を思い出していた。最初の爆発も、爆薬を満載した船がドック内で爆発したのかもしれない。


『……こちらルーイ。シーファン応答せよ。シーファン……』


 ノイズ混じりの無線鳴った。バーネットは、手を添えて精神を集中する。声はバックアップ部隊の隊長である。


「ルーイ? こちらシーファン。聞こえるか?」

『聞こえます。やっと無線回復しましたね。まずこちらの状況報告を。現在コントロールルームで主導権争いをしています。敵は黒い部隊と、作業服の部隊。黒い部隊はジャミング装置を所持。これの破壊により無線が回復しました』

「こちらも同様だ。そして目標は存在しないことを確認した。繰り返す、目標は存在しない。よってシーファンは脱出を開始する。そちらからバックアップできそうか?』

『いえ、それが……。スペース・ワンは爆発により、軌道をはずれI九四に落下しています。脱出可能限界高度まで、あと六〇分ありません』

「落下だと?」


 さすがのバーネットも血の気が引いた。考えられる中で一番最悪の事態だった。


「六〇分ないと言ったな?」

『はい。詳しい情報はコントロールを制圧してからでないと』

「……いや制圧の必要はない。核奪取の作戦、破棄の作戦、両方とも必要なくなった。ルーイ隊の迅速な脱出を命じる。各個に判断せよ。以上」


 無線を切ってから、バーネットはコールを見た。またスゴ腕と延々撃ち合いをしている。


――一刻の猶予もない。直ちに脱出だ。



  ■  ■  ■



「隊長、敵の動きが変わった」

「うん。本格的に逃げるつもりだな。核、持ち出してたか?」

「うんにゃ。そーんな素振りは、全然なかった」


 首を振るキム。


「破棄したわけでもなさそうだし。どういうことだ?」

「わかってるくせに。なかったんだよ、核。俺たちもヘリオンも、あの黒い部隊の連中に一杯喰わされたんだ。ご丁寧にバトルアームとも戦わされてさ」


 キムの言葉に耳を傾けながら、薫は撃ち合いを続けている。


――ハメられたか。完全に……。


 目的は何であれ、民間人含めその犠牲たるや凄じい。罠を仕掛けたものは、それで起こる事態をちゃんと予測していたのだろうか? このステーション落下という最悪の事態を……。

 腹の底にじわりと怒りが湧く。そう。このままでは終わらない。


  ■  ■  ■



――白兵戦とはやってくれる。


 シフォンはモニタを見ながら思考した。


『D―十二艦内隔壁に異常! D―四艦内隔壁にも異常発生!!』


 ブリッジに警報が鳴り響く。

 侵入された場所から次々隔壁を破壊され、侵入警報の赤い表示が一直線に伸びていく。そしてその方向は……。


「ほほう。ここに来る気か。面白い」


 ちっとも面白そうな表情ではないサイードがつぶやく。敵の動きはまっすぐブリッジを目指していた。


「いや、……それにしてはハッチの選択が……」


 シフォンは眉を顰める。


――ブリッジに侵入するなら、あんな場所でなくてもっとすぐ制圧できる場所がある。なぜわざわざあんな場所を?


『こちらカレル五! 敵と接触!』


 突然入った通信の背後に、レーザー兵器の耳障りな発射音が聞こえてくる。手配した白兵戦部隊が敵と抗戦しているのだ。


『応援を! 長引くと持ちこたえられません!』

「応援出しますか? 一応、突破されたら艦橋まで一直線の通路に入られますが」

「待て。Eブロックの艦内隔壁を確認しろ。破壊でなく解析解除されてないか?」


 緊迫する空気の中、憎らしいまでの冷静さで指示を飛ばすシフォン。


『Eブロック……E―十六解除されてます! F―六隔壁も同じく!』


 アナウンスと同時に、これまで表示されていた赤い侵入警報と逆方向に警報が表示される。


「E、F?……ははぁ、敵の狙いはメオテックエンジンだ」

「直ちに隔壁の解除コードを変更しろ! Fブロックにカレル二、カレル三を急がせろ!」


 その指示の間にも、F―十一隔壁が赤く表示が変わった。一度解析されてしまうと同じルーチンで次々開けられてしまう。最初の侵入が隔壁を破壊していたし、防衛部隊の到着を早くするために、ルーチン変更処理をしなかったのだ。


『カレル二、了解。これより敵を排除します』

『カレル三、了解』


 メオテックエンジンを破壊されたら当然戦闘活動は不可能になる。

 敵はまず隔壁を破壊してブリッジを目指し、こちらの注意を引付けておいて、隔壁を解析解除してエンジンルームを狙ったのだ。


『こちらカレル二、現場まであと一〇秒!』

『ランダムルーチン走ります!』

「急げ~」


 サイードが緊張感のない合いの手を入れる。直後にモニタに表示されたF-十七隔壁が突破された。


『ルーチンいきました。敵の侵入を防御!』

『こちらカレル二! 敵を発見。攻撃します!』

『監視システムがレーザーの発砲を確認!』


 突破されたF-十七の隔壁の前で戦闘が繰り広げられている。状況はわからないが、激烈な戦闘が繰り広げられているに違いない。


『こちらカレル三! 現場に到着! カレル二が交戦中! これより援護に回ります!』

『こちらカレル一! 敵侵入部隊が撤退を始めました!』


 ブリッジ方面に突き進んでいた敵が、撤退を始めた。メオテックエンジンを狙った部隊が、阻まれたのを知ったのかもしれない。


『こちらカレル二! 敵が撤退を開始! 追撃します!』

「阻まれたら、即撤退か」


 潜入部隊全部が撤退を開始した。一糸乱れぬ動きである。


「手が込んでたわりに、結構あっさり撤退しましたな」

「確かに。今のままでは何も成果が無い」

「とすると? 時間稼ぎ?」


 無表情だが一応目をパチクリするサイード。そんなサイードを見てシフォンは、それとわからないほど薄い笑みを浮かべた。無表情に見えて実は微妙に表情がある。それを知っているシフォンは、密かにサイードウォッチャーを自認している。


『切り離しシークエンス入りました。切り離しまで三分!』


 シフォンは深呼吸して、汗を吸って重くなった髪を掻き上げる。


――三分。逃げるには十分な時間だ。無理をして捕らえるか? いや、それは余り意味はない。敵は仲間がいるからといって、躊躇するような奴ではない。


 唇に指を当てて思考するシフォン。


―――では、白兵戦までして、あっさり逃げた理由は? 切り離してからどうする? この近距離を並走状態からどんな手を打つ?


『敵艦を切り離します!』

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