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銀河の彼方  作者: A.杉本
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14/25

14 共同戦線

 ASA十三連合は、この星域十九ヵ国による小さな連合である。うち惑星全土に渡って開発が進んでいるのは、カーミアンとベルディナード、そしてリビニウスの三国だけだ。

 星系総人口は約十二億人。まことにささやかな星域である。


 その星のほとんどは既に緊急理事会の席に着席していた。しかしカーミアンとベルディナードの二ヵ国だけがまだ姿を見せない。地球と非公式の折衝をしているのか、それとも何か他に理由があるのか。大国二ヵ国が遅れているせいで、議場は名状しがたい空気と、ひそめる声を持ったまま、開会した。


 議事では、経過説明が銀河警察からあったあと、アルカル、ヘリオン両大使の弁明があった。いずれも自己の責任がないことを主張している。しかし事件の真相は既にどうでもよくなっていた。問題は責任を誰が取るか、である。


 ヘンダーソン事務総長は議場を出たり入ったりしており、落ち着きがまるでない。対称的なのは、議長を務めるアーネスト・メロウだった。今年五十五才のベルディナード生まれのリビニウス人。艶のある茶色い髪に、冷たい感じのする碧色の目が映える。角ばったあごは強い意志を示し、見るからにいかつい男だ。


 だが、なによりこの男の特徴はその声にあった。オペラ歌手のように響く上に、遠慮なく大声を張り上げるため、マイクがなくても議場の隅ずみまで届いてしまう。そのせいで歴代の議長の中でも極めつけに押しが強く、議事進行がとんでもなく速かった。ほとんどの場合、二時間で全ての議案が片付いてしまうのだから、その速さは尋常ではない。


「今回の事態について、アルカル、ヘリオン両国の責任は免れない。既に問題は両国のみならず、ASA十三連合全体の問題となっている。よって理事会議長の名前で、両国に停戦を命ずる」


 いきなりメロウが結論を出しにかかり、これにヘリオンのルー・アダムズが鼻白んで抗議した。


「『命じる』? それはいくら何でも一方的な。ヘリオンが今回の件に関与した明確な根拠もないまま、結論を下すのはやめて頂きたい」

「ことは一国の問題ではないと申し上げた。停戦は絶対事項である。連合艦隊はこれより停戦監視のため、周辺宙域及びアルカル、ヘリオン両国に艦隊を駐留させることとする」

「お待ちください! そんな勝手なマネが許されるわけがない! 主権侵害ですぞ!」

「アルカル、ヘリオン以外で異議のある星は、挙手を願いたい」


 メロウはあっと言う間に二ヵ国を追い詰めた。アダムズが憤然と立ち上がる。


「こんなやり方につき合うわけにはいかない。これはファッショだ。その星の主権をいったい何と考えているのか!」


 その言葉にメロウの碧色の目が光った。


「大使、地球の介入を許せば、全ての星の主権が侵害されるのだ。もちろんアルカル、ヘリオンは真っ先にだ。今ASA十三星域全体の自浄能力が問われている。我々は自らの手で秩序を維持、回復できることを内外に示さなければならない。もう一刻の猶予もないのだ」


 アダムズは厳しい顔で話を続けるメロウを正面から見すえていたが、やがて各国大使に目を走らせると、「失礼する」と一言吐き捨てて退席した。続いて終始無言だったアルカルのギレットも、メロウに鋭い一瞥を与えてから議場を後にする。


 このとき時計は十九時四五分。脱出可能限界高度まであと五二分だった。


  ■  ■  ■


 宇宙では本来、戦闘中の戦闘艦に白兵戦を仕掛けるなどという無謀なことはしない。そこまで接近する状況がそもそもないからだ。たとえ近寄ったとしても、ちょっと艦を振りまわすだけで、侵入を阻止することができる。

 しかし、今回の場合は極めて特殊な条件化だった。有視界戦闘をするほど互いに接近しており、さらにこの後はステーション・アイに突入して潜入部隊を回収しなければならない。メオテックエンジンに傷が付けば、作戦終了してしまう状況で、双方の選択できる行動は、非常に限られていた。

 それでもこの状況での白兵戦は、異例中に異例であることは間違いない。


『ワイヤー発射!』


 並走するバンベストに次々とワイヤーロープが撃ち込まれ、それを使ってオリヴィアの部隊が乗り移る。重力緩衝を利用して、互いの艦がガッチリと同調した。


「時間は一〇分です!」


 艦のダブラ用ハッチに取りつき、ロックを切って侵入するのに、たったの二分。


「ショー、タイム」


 動きやすい軍用スーツに身を包み、オリヴィアは太い笑みと共につぶやいた。


  ■  ■  ■


 スペース・アイの七番格納庫では、説明不可能な事態になっていた。

 敵対しているはずのアルカルとヘリオンが、黒い部隊を倒すために結果として共同戦線を張る形になっていたのである。豊富な戦闘経験によって培われた危険察知能力が、無意識に共闘を選んだということだろう。

 とにかくアルカルとヘリオンの集中攻撃で、黒い部隊は急速に人数を減らしていた。


「あと、三人!」

「来るぞ! バトルアーム!」


 黒い部隊を援護するように、バトルアームは大して狙いもつけずに撃ちまくり始めた。


「くそっ!」

「隊長! 退がって! これ使う!」


 悪態をつく薫に、キムがハンドミサイルを見せる。


「そんなもん撃ったら、破片が飛びまくって大変なことになるぞ!」

「時間を気にしなきゃ。あのイルカの声ドンドン大きくなってる。やるしかないよ、もう」


 指を一本立てて、決断を促す。薫は一つ息を吐いた。


「ふう、わかった。――全員聞け。ミサイルを使う。対飛来物防御」

「おーい、ヘリオン! ミサイル撃つよぉっ!」

「キム! 左に回れ。援護する」

「りょーかい!」


  ■  ■  ■


「隊長!」

「聞こえた。アルカルがミサイルを使う。全員、防御姿勢!」


 バーネットはアルカルと思われる部隊の声を受けて、指示を送った。


  ■  ■  ■


 バトルアームに、援護のレーザーが間断なく浴びせられる。

 援護を受けたキムが要領良く左に回り込む。その意図を知ったかのようにバトルアームが突然、前に出た。

 大口径レーザーがすぐ横のコンテナを灼熱の水あめに変える。さらに撃とうとする呼吸を読んで、全員が一瞬速く猛攻撃が集中させた。


「キムっ、今だ!」

「あいよぉっ!!」


 強化セラミックのコンテナに遮蔽を取ったキムが、ピタリと狙いをつけた。


「食らえいぃっっっ!!!」


 バシュッ!!

 狙いすました一発が煙をひいてバトルアームに向けて疾駆する。反動でキムの身体がふっ飛んだ。


 ビーン!!


 コンテナに撃ち込まれた、体を支えるセーフティワイヤーが悲鳴を上げる。


 ドンッッ!!!


 ミサイルはバトルアームの腰に直撃した。爆風と破片が見えない凶器となって辺りを襲う。


 カンッ! キーン! ビシッ!


 格納庫全体に、破片のぶつかる音が充満した。

 黒い部隊は破片にやられて全員活動を停止する。

 バトルアームは断末魔のもがきを見せた。その瞬間、一斉に攻撃が再開される。


 薫はじっと狙いをつけていた。引き攣った動きで暴れるバトルアーム。

 赤色レーザーサイトのスイッチをパチンと入れる。狙うのは装甲の飛んだ首筋の急所。


「くたばれ」


 撃った。発射されたレーザーは見えない矢となって飛び、普段守られている首筋、そしてそこに辛うじて露出している冷却装置のヘッドを打ち抜いた。


 バッシューッ!


 凄まじい勢いで吹き出す液体窒素。周りの空気の水分が即座に凍りキラキラと舞う。バトルアームの体は稲妻を受けたように弾け、そして文字どおり凍りついた。

 忘れかけていた宇宙の静寂が戻ってくる。


「人形は寝てろ」


 レーザーサイトをパチンと切って、薫はつぶやいた。

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