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銀河の彼方  作者: A.杉本
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13/25

13 有視界戦闘

「ショウちゃん、左に斉射」

「ショ、ショウちゃん?」

「ホラ、早く!」

「は、はい」


 部隊の一番の新入り、ショウ・タナファに指示を送って、キムは前に出た。


「黒い部隊を、あそこのバトちゃんのトコに追込むよ!」

「バトちゃん?」

「いちいち聞き返さない! バトルアームの略!」

「は、はい!」


――そんな略語、いきなり言われても普通わかんないと思うぞ。


 レン・シズオカは、苦笑してキムを援護しながら後に続く。


「左っ! もっと!」


 キムは無重力の中、器用に動いて黒い部隊を追い詰める。そしてポケットから出したライトをフラッシュさせた。薫への合図だ。


「隊長! そっち行くよぉっ!」

「こっちにばっかり、押し付けんじゃねぇっ!!」


 薫はバトルアームとヘリオンの部隊を、一手に引き受ける形になっている。


「ええいっ、バトルアームめ! 向こう見ろ、向こう! 黒い獲物が目の前だぞ!」


 黒い部隊の一人が足にレーザーを受け、バランスを崩した。それを見逃さず、アルカル、ヘリオン双方から一斉射撃が襲いかかる。

 間一髪、奇跡に近い曲芸で避ける黒い兵士。だがフワリと漂った先は、貨物船の隔壁に取りついて射ちまくる、バトルアームの真正面だった。


「よっしゃっ!」


 しかし次の瞬間、バトルアームは黒い兵士の方へヒョイと手を伸ばし、兵士はその手を掴んで体勢を立て直した後、貨物船の後ろに回り込んで消えた。


「なあにいっ!?」

「ずるいぃっ!!」


 絶叫する薫とキムへ、バトルアームはレーザーを連射し沈黙させる。


「ちっきしょう! やっぱりグルかよ」

「上等っ! やったろうじゃない!」


 悪態をついてレーザーのソケットを取り替える薫。舌舐めずりするキム。黒い部隊とバトルアームが一つの敵になって、思いっ切り気合が入った!


  ■  ■  ■



「コール! 今の見たか!?」


 バーネットはアルカルの幹部らしき男と、延々射ち合いをしていたコールに怒鳴る。


「もちろんです。そんなことじゃないかと思ってましたよ!」

「アルカルは後にしろ! バトルアームを先に叩く!」

「了解です!」


  ■  ■  ■



 シフォンは腕組みしたまま微動だにせず、中央のモニターに表示される解析された船外情報を見守っている。ストームはまだおさまらない。有視界戦闘は船外カメラをやられたら終わりである。勝負は早く仕掛けるに限るのだ。


『敵艦ミサイルを発射した模様』

「CMWですかね。八本全て処理できたら大したもんだ」


 サイードが振り返る。目元をぴくりと動かしたが、これが笑ったことになるらしい。どうやらこの男は、目元だけで感情を表現するようだ。


「そろそろ五時間だな」


 身じろぎもせずシフォンは静かにつぶやいた。

 眉をひそめたサイードが「おっと」と言って手を叩く。


「まずいですな。『下』の部隊、そろそろタイムリミットだ」

「もう、決着はつく。シャッターを下ろせ」


 シフォンの指示を伝えてから、サイードは静かにシフォンに近寄った。


「アーモン副長の件、どうします?」

「どうするもこうするも、緊張から倒れたということでしかない」

「検査をされたら理由は簡単にわかりますわな。そして対処法もわかってる」


 シフォンはアーモンに目を走らせて声を抑えた。


「投薬を命じろ、と?」

「そもそも副長が送り込まれたのも、上がそれに感づいた可能性が高いです。ここで口実を与えたくなければやるしかない」

「……はっきり、言おうか。腹芸に飽きた」

「知ってます」

「止めないのか?」

「止めたいですな。どっちに転ぶかまだわからない」


 サイードは無表情にブリッジを見渡した。みんな自分の仕事に没頭している。


「彼らを巻き込むにしてもタイミングがあるってことです。どの程度勝算を読むか、それによって対応が違う」

「勝算? どんな事態になっても勝利者なんかない。あるのはただただ自滅のみだ」


 シフォンは吐き捨てた。


「それでも、我々が犬死にするのは最悪です。たとえ死ぬにしても意味ある死にしたい。希望さえ残れば、それすなわち勝利だとあたしは思いますな」


 サイードの言葉にシフォンは目をぱちくりしたが、やがて呆れたように言った。


「……意外にお前はロマンチストだな」

「惚れました?」

「ばか」


 シフォンの顔にようやく余裕が戻る。


「先生がな」

「先生?」

「ああ、知らなかったか。シミ・ギャラガー提督が、私の最初の任務の指揮官だったんだ」

「ああ、あの『古狸』」

「ふふ。先生は、その渾名を自分で笑って教えてくれたよ」


 女性らしい柔らかい微笑を見せるシフォン。


「先生が、出撃前に教えてくれたんだ。この作戦は危ないとな」

「ほう」

「ババを引くことになるかもしれんが、それはババではなく、ジョーカーかもしれないと」

「切り札になるかもしれない?」

「そう。スペースアイは地球資本だ。ヘリオンやアルカルだけの問題で済まない可能性がある。そうなれば、詰腹切らされるのは、果たして誰か」

「我々の首だけでは、収拾できない可能性が高いですな。確かに」


 サイードも思案げだ。


「勝敗がどっちでも、もう関係ないとは思わんか?」

「ふむ。でも勝つ気でしょ?」

「当然だ」


 シフォンの笑みが不敵なものに変わる。


『閃光弾、爆発』

『敵CMW、爆発』


 アナウンスが鳴った。


「シャッターを上げろ。敵艦の位置の把握に全力を尽くせ」


 シフォンは即座に指示を飛ばす。閃光弾を敵のCMW爆発に合わせて射った作戦は、非常に予測が難しかったはずだ。閃光弾を受けたのなら、敵は完全にフラッシュダウンに陥っていることになる。効いたか否か。それはこれから判明するだろう。


『敵艦発見! 全速で前進している模様!』

「前進? これは閃光弾を読まれたかな?」


 サイードがのんびりと聞き返す。


「いや、待て。進路は?」

『変わりません』

「なるほど。大した奴だ」


 満足げにシフォンは笑みを浮かべた。


「普通ならそのまま突っ込まずに、回避行動を取る。なにせ有視界戦闘の最中だからな。こっちのモニターが生きてる状態で距離を詰めるはずがない。それがそのまま進んで来てるのは、やはり閃光弾でカメラが死んでるからだ」

「なるほど」


 CMWを突っ切って来る。この距離では多弾頭ミサイルは使えないし、CMWの爆発を突っ切って来るミサイルは安全距離が長い。そしてそれを割り込めばミサイルはただの金属の塊と同じだ。つまりシフォンがさっき使った手なのである。


――全く、いい腕してる。だが、これで……。


『ミサイル接近!』

「なに?」


――バカな。こっちの位置はわからなかったはずだ。


「いったい、ミサイルは何発だ!?」


 シフォンの鋭い声が飛んだ。


『二発で……あっ!』


 アナウンスの途中で、モニターが真っ白に埋めつくされ、次の瞬間闇に落ちる。


『閃光弾、爆発!』

『シャッター自動閉鎖!』

「ちきしょうっ!」


 シフォンがおよそらしくないセリフを吐く。シフォンの悪態に、サイードが初めて驚いた表情をした。


「二発全部が閃光弾か?」

『不明です!』


 アナウンスは悲鳴に近かった。懸命に解析は続く。しかし時間はない。


「いや……二発撃つ理由はない。一発はミサイルだ。全速前進だ、早く!」

「敵艦も前進しています。この距離では衝突の可能性も……」

「わかってる。五秒後に右に転回!」



  ■  ■  ■



『システムリセットまで、あと九〇秒』

「あー! 長すぎる!」


 キャンベルは椅子に艦長帽を投げつけた。反作用で身体が回転する。

 と、艦全体が振動した。


『船尾隔壁に異常!』

「すり抜けたな」


 振動は自動爆発したミサイルだ。有視界戦闘するほどの近距離では、生きたミサイルをそのままにするのは危険である。だから近接信管に反応がなかった場合でも、自動的に爆発する設定にしてあるのだ。


「こっちの閃光弾は効いたでしょうか?」

「わからん。効いてくれなきゃ困る。だがそれより距離の方が心配だ。左に転進!」

『ストームを抜けます。レーダーが先に回復』

「さあて、敵さんはどこにいるか」

『レーダー戻ります!』

「前方位索敵! ノイズメーカー用意!」


 しかしレーダー係はキャンベルの命令を実行しなかった。

 回復したレーダーの映像が信じられない。もう一度見直してみる。そこには驚愕の事実が写しだされていた。


『て、敵艦すぐ横です! 右舷二〇メートルを並走中!』

「なにっ!?」


 キャンベルが弾けるように怒鳴った。


「後退だ! 後退しろっ!」



  ■  ■  ■



『敵艦発見! すぐ左にいます! 距離二〇メートル!』

「全速逆進! 急げ!!」


 シフォンの叫びと共に、船体が悲鳴を上げる急制動がかかった。同時に身体が前にふっ飛ばされる。艦長席のテーブルを掴んで耐えるシャロン。


――敵の前に出たら、即射たれる!


 そして撃たれたら、この距離では絶対に避けられない。


『敵艦同時に減速! 並走変わらず!』


 シフォンの顔に皮肉げな笑みが浮かんだ。


――こっちの方が性能が上なのに、減速は同時。いい乗組員を持ってる。



  ■  ■  ■



「敵さん、いい反応だ」


 ニヤつくキャンベルに、フレウが声を張り上げる。


「それよりどうすんですか! これでは身動きが取れません!」

「シュマイケル。船寄せて、上からかぶせろ。ぶつけても構わん」

「なっ!?」

「ぶつけねぇから、距離を行ってくれ」

「じゃあ、三メートル」

「オーケエェイ」


 ピッと指を二本たてて合図をして、シュマイケルはコンソールと取っ組み合う。


「そんな……」


 息を呑むフレウを無視して、キャンベルは艦内無線のスイッチを入れた。


「オリヴィア、待たせたな」

「ほんとに白兵戦やるんですかぁっ!?」


 絶叫するキムを、キャンベルはさらに無視する。


『あんまり待たせるから、ひと眠りしちまったよ』

「敵は右側面三メートルだ。頼むぞ」

『まかせろ』

「か、艦長ぉ~」



  ■  ■  ■


『敵艦こちらに傾斜してきます! 距離五メートル! 接触します!』

「おいおい、ぶつけるつもりか?」


 サイードは首をひねった。


「いや、何かする気だ」


 シフォンが真面目に応える。いつものように土壇場になればなるほど、心が冷えてくるのが自分でもわかる。


『警報! 左側面隔壁に異常発生!』

「接触したのか?」


 アナウンスにサイードが確認する。


『いえ、そうではありません!』

「ということは、また信号弾かな?」

「違うっ!!」


 叫んだのはシフォンだった。目を丸くするサイードを無視して、艦内通信に飛びつく。


「警報! 白兵戦用意!! 敵が侵入してくるぞっ!!」

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