13 有視界戦闘
「ショウちゃん、左に斉射」
「ショ、ショウちゃん?」
「ホラ、早く!」
「は、はい」
部隊の一番の新入り、ショウ・タナファに指示を送って、キムは前に出た。
「黒い部隊を、あそこのバトちゃんのトコに追込むよ!」
「バトちゃん?」
「いちいち聞き返さない! バトルアームの略!」
「は、はい!」
――そんな略語、いきなり言われても普通わかんないと思うぞ。
レン・シズオカは、苦笑してキムを援護しながら後に続く。
「左っ! もっと!」
キムは無重力の中、器用に動いて黒い部隊を追い詰める。そしてポケットから出したライトをフラッシュさせた。薫への合図だ。
「隊長! そっち行くよぉっ!」
「こっちにばっかり、押し付けんじゃねぇっ!!」
薫はバトルアームとヘリオンの部隊を、一手に引き受ける形になっている。
「ええいっ、バトルアームめ! 向こう見ろ、向こう! 黒い獲物が目の前だぞ!」
黒い部隊の一人が足にレーザーを受け、バランスを崩した。それを見逃さず、アルカル、ヘリオン双方から一斉射撃が襲いかかる。
間一髪、奇跡に近い曲芸で避ける黒い兵士。だがフワリと漂った先は、貨物船の隔壁に取りついて射ちまくる、バトルアームの真正面だった。
「よっしゃっ!」
しかし次の瞬間、バトルアームは黒い兵士の方へヒョイと手を伸ばし、兵士はその手を掴んで体勢を立て直した後、貨物船の後ろに回り込んで消えた。
「なあにいっ!?」
「ずるいぃっ!!」
絶叫する薫とキムへ、バトルアームはレーザーを連射し沈黙させる。
「ちっきしょう! やっぱりグルかよ」
「上等っ! やったろうじゃない!」
悪態をついてレーザーのソケットを取り替える薫。舌舐めずりするキム。黒い部隊とバトルアームが一つの敵になって、思いっ切り気合が入った!
■ ■ ■
「コール! 今の見たか!?」
バーネットはアルカルの幹部らしき男と、延々射ち合いをしていたコールに怒鳴る。
「もちろんです。そんなことじゃないかと思ってましたよ!」
「アルカルは後にしろ! バトルアームを先に叩く!」
「了解です!」
■ ■ ■
シフォンは腕組みしたまま微動だにせず、中央のモニターに表示される解析された船外情報を見守っている。ストームはまだおさまらない。有視界戦闘は船外カメラをやられたら終わりである。勝負は早く仕掛けるに限るのだ。
『敵艦ミサイルを発射した模様』
「CMWですかね。八本全て処理できたら大したもんだ」
サイードが振り返る。目元をぴくりと動かしたが、これが笑ったことになるらしい。どうやらこの男は、目元だけで感情を表現するようだ。
「そろそろ五時間だな」
身じろぎもせずシフォンは静かにつぶやいた。
眉をひそめたサイードが「おっと」と言って手を叩く。
「まずいですな。『下』の部隊、そろそろタイムリミットだ」
「もう、決着はつく。シャッターを下ろせ」
シフォンの指示を伝えてから、サイードは静かにシフォンに近寄った。
「アーモン副長の件、どうします?」
「どうするもこうするも、緊張から倒れたということでしかない」
「検査をされたら理由は簡単にわかりますわな。そして対処法もわかってる」
シフォンはアーモンに目を走らせて声を抑えた。
「投薬を命じろ、と?」
「そもそも副長が送り込まれたのも、上がそれに感づいた可能性が高いです。ここで口実を与えたくなければやるしかない」
「……はっきり、言おうか。腹芸に飽きた」
「知ってます」
「止めないのか?」
「止めたいですな。どっちに転ぶかまだわからない」
サイードは無表情にブリッジを見渡した。みんな自分の仕事に没頭している。
「彼らを巻き込むにしてもタイミングがあるってことです。どの程度勝算を読むか、それによって対応が違う」
「勝算? どんな事態になっても勝利者なんかない。あるのはただただ自滅のみだ」
シフォンは吐き捨てた。
「それでも、我々が犬死にするのは最悪です。たとえ死ぬにしても意味ある死にしたい。希望さえ残れば、それすなわち勝利だとあたしは思いますな」
サイードの言葉にシフォンは目をぱちくりしたが、やがて呆れたように言った。
「……意外にお前はロマンチストだな」
「惚れました?」
「ばか」
シフォンの顔にようやく余裕が戻る。
「先生がな」
「先生?」
「ああ、知らなかったか。シミ・ギャラガー提督が、私の最初の任務の指揮官だったんだ」
「ああ、あの『古狸』」
「ふふ。先生は、その渾名を自分で笑って教えてくれたよ」
女性らしい柔らかい微笑を見せるシフォン。
「先生が、出撃前に教えてくれたんだ。この作戦は危ないとな」
「ほう」
「ババを引くことになるかもしれんが、それはババではなく、ジョーカーかもしれないと」
「切り札になるかもしれない?」
「そう。スペースアイは地球資本だ。ヘリオンやアルカルだけの問題で済まない可能性がある。そうなれば、詰腹切らされるのは、果たして誰か」
「我々の首だけでは、収拾できない可能性が高いですな。確かに」
サイードも思案げだ。
「勝敗がどっちでも、もう関係ないとは思わんか?」
「ふむ。でも勝つ気でしょ?」
「当然だ」
シフォンの笑みが不敵なものに変わる。
『閃光弾、爆発』
『敵CMW、爆発』
アナウンスが鳴った。
「シャッターを上げろ。敵艦の位置の把握に全力を尽くせ」
シフォンは即座に指示を飛ばす。閃光弾を敵のCMW爆発に合わせて射った作戦は、非常に予測が難しかったはずだ。閃光弾を受けたのなら、敵は完全にフラッシュダウンに陥っていることになる。効いたか否か。それはこれから判明するだろう。
『敵艦発見! 全速で前進している模様!』
「前進? これは閃光弾を読まれたかな?」
サイードがのんびりと聞き返す。
「いや、待て。進路は?」
『変わりません』
「なるほど。大した奴だ」
満足げにシフォンは笑みを浮かべた。
「普通ならそのまま突っ込まずに、回避行動を取る。なにせ有視界戦闘の最中だからな。こっちのモニターが生きてる状態で距離を詰めるはずがない。それがそのまま進んで来てるのは、やはり閃光弾でカメラが死んでるからだ」
「なるほど」
CMWを突っ切って来る。この距離では多弾頭ミサイルは使えないし、CMWの爆発を突っ切って来るミサイルは安全距離が長い。そしてそれを割り込めばミサイルはただの金属の塊と同じだ。つまりシフォンがさっき使った手なのである。
――全く、いい腕してる。だが、これで……。
『ミサイル接近!』
「なに?」
――バカな。こっちの位置はわからなかったはずだ。
「いったい、ミサイルは何発だ!?」
シフォンの鋭い声が飛んだ。
『二発で……あっ!』
アナウンスの途中で、モニターが真っ白に埋めつくされ、次の瞬間闇に落ちる。
『閃光弾、爆発!』
『シャッター自動閉鎖!』
「ちきしょうっ!」
シフォンがおよそらしくないセリフを吐く。シフォンの悪態に、サイードが初めて驚いた表情をした。
「二発全部が閃光弾か?」
『不明です!』
アナウンスは悲鳴に近かった。懸命に解析は続く。しかし時間はない。
「いや……二発撃つ理由はない。一発はミサイルだ。全速前進だ、早く!」
「敵艦も前進しています。この距離では衝突の可能性も……」
「わかってる。五秒後に右に転回!」
■ ■ ■
『システムリセットまで、あと九〇秒』
「あー! 長すぎる!」
キャンベルは椅子に艦長帽を投げつけた。反作用で身体が回転する。
と、艦全体が振動した。
『船尾隔壁に異常!』
「すり抜けたな」
振動は自動爆発したミサイルだ。有視界戦闘するほどの近距離では、生きたミサイルをそのままにするのは危険である。だから近接信管に反応がなかった場合でも、自動的に爆発する設定にしてあるのだ。
「こっちの閃光弾は効いたでしょうか?」
「わからん。効いてくれなきゃ困る。だがそれより距離の方が心配だ。左に転進!」
『ストームを抜けます。レーダーが先に回復』
「さあて、敵さんはどこにいるか」
『レーダー戻ります!』
「前方位索敵! ノイズメーカー用意!」
しかしレーダー係はキャンベルの命令を実行しなかった。
回復したレーダーの映像が信じられない。もう一度見直してみる。そこには驚愕の事実が写しだされていた。
『て、敵艦すぐ横です! 右舷二〇メートルを並走中!』
「なにっ!?」
キャンベルが弾けるように怒鳴った。
「後退だ! 後退しろっ!」
■ ■ ■
『敵艦発見! すぐ左にいます! 距離二〇メートル!』
「全速逆進! 急げ!!」
シフォンの叫びと共に、船体が悲鳴を上げる急制動がかかった。同時に身体が前にふっ飛ばされる。艦長席のテーブルを掴んで耐えるシャロン。
――敵の前に出たら、即射たれる!
そして撃たれたら、この距離では絶対に避けられない。
『敵艦同時に減速! 並走変わらず!』
シフォンの顔に皮肉げな笑みが浮かんだ。
――こっちの方が性能が上なのに、減速は同時。いい乗組員を持ってる。
■ ■ ■
「敵さん、いい反応だ」
ニヤつくキャンベルに、フレウが声を張り上げる。
「それよりどうすんですか! これでは身動きが取れません!」
「シュマイケル。船寄せて、上からかぶせろ。ぶつけても構わん」
「なっ!?」
「ぶつけねぇから、距離を行ってくれ」
「じゃあ、三メートル」
「オーケエェイ」
ピッと指を二本たてて合図をして、シュマイケルはコンソールと取っ組み合う。
「そんな……」
息を呑むフレウを無視して、キャンベルは艦内無線のスイッチを入れた。
「オリヴィア、待たせたな」
「ほんとに白兵戦やるんですかぁっ!?」
絶叫するキムを、キャンベルはさらに無視する。
『あんまり待たせるから、ひと眠りしちまったよ』
「敵は右側面三メートルだ。頼むぞ」
『まかせろ』
「か、艦長ぉ~」
■ ■ ■
『敵艦こちらに傾斜してきます! 距離五メートル! 接触します!』
「おいおい、ぶつけるつもりか?」
サイードは首をひねった。
「いや、何かする気だ」
シフォンが真面目に応える。いつものように土壇場になればなるほど、心が冷えてくるのが自分でもわかる。
『警報! 左側面隔壁に異常発生!』
「接触したのか?」
アナウンスにサイードが確認する。
『いえ、そうではありません!』
「ということは、また信号弾かな?」
「違うっ!!」
叫んだのはシフォンだった。目を丸くするサイードを無視して、艦内通信に飛びつく。
「警報! 白兵戦用意!! 敵が侵入してくるぞっ!!」




