11 バトルアーム
地球連合政府が成立する宇宙開拓の歴史は、そのまま『パワーアーム』という全長二.五メートル長の、無人工作機械の歴史でもある。
その誕生は、宇宙開発企業体の本格的な宇宙進出に始まった。
その頃の開発企業体の目的は、アステロイドベルトである。アステロイドベルトとは、木星と火星の間にあるベルト状の衛星群のことだ。かつてその位置に軌道を持つ惑星が、木星の強大な潮汐力によって地殻の崩壊し、小さな衛星の帯となって公転しているのだ。それは鉱物資源の巨大な貯蔵庫でもある。
企業体は、地球の衛星軌道上に浮かぶ宇宙ステーションを拠点とする、鉱物資源のピストン輸送を行った。だが当時のアステロイドベルトは、行って帰るだけで二か月かかってしまう。しかもアステロイドベルトでの作業を含むと、六ヵ月は優にかかった。
作業四ヵ月。その効率化を阻んだのは、移動手段もさることながら、無重力での採掘作業である。宇宙貨物船にパックリと口が開き、岩石をガリガリ噛み砕いて、貨物室に一杯になったら戻ってくる。そんな真似ができれば楽だったのだが、アステロイドベルトを構成する岩石群は大きい物で宇宙貨物船の数十倍の物もあるため、おいそれと船を近づけることはできない。もちろん人間が宇宙空間に出ていって、作業するのはもっと危なかった。
しかしなんとかして採掘を行わなければならない。地球資源は既に壊滅的状態に突入しており、アステロイドベルトは地球の生命線だったのだ。
そうした状況の中、西暦二〇八五年最初の『パワーアーム』が開発される。当時は蜘蛛のような多脚型が主流だったが、やがて手を使い、様々な道具をとっかえひっかえ装備し、かつ三メートル以下の小型で人型の物が、大きく幅を効かすようになった。
そして地球連合政府とVOAとの対立で、鉱物満載の宇宙貨物船を狙う海賊行為が横行し始めると、『パワーアーム』を武装化した『バトルアーム』が登場する。
その過激な鉱物争奪戦は、二十四世紀中頃まで続き、それに応えるように『パワーアーム』の開発史も分刻み、いや秒刻みで進んでいったのだ。
「キース、まだその位置を動くな。アレキサンダー、バッシュを撃て」
冷静なバーネットの声が飛ぶ。バトルアームは集中放火を受けつつ正確に反撃をしてくる。
バッシュと呼ばれる特殊な発煙弾がバトルアームにまとわりついた。レーザーは通常の空気の中でも減衰する。この発煙弾を受ければ、ほとんど威力を無効化できるのだ。
すぐに対応したバトルアームは、肘についた盾で跳ね回る発煙弾を弾き飛ばし、左手をアレキサンダーへ向けた。
「ワイヤー、来るぞ!」
アレキサンダーは床を蹴り飛ばし、さらに体をひねって避ける。
バシッと音を出して、五本の指からワイヤーが放たれた。
早いアレキサンダーの動きを捉えきれず、後ろの隔壁に音を立てて食い込む。発煙弾に対して、すぐさま攻撃方法を変えてくる辺り、このバトルアームの性能はピカイチだ。
「このっ!」
カールが撃ちまくりながら突っ込んだ。キースやアレキサンダーも一斉に攻撃する。
バトルアームがワイヤーを巻き取り、先端が食い込んだ隔壁に向かって飛んだ。
「!」
思わぬ動きに、身体を立て直そうとしてカールの動きが止まる。
「カール!」
狙いすました大口径レーザーが、カールの右肩をふっ飛ばした。
「ぐわっ!!」
「カァールッ!!」
バトルアームが動きを止めず、空中のアレキサンダーに狙いを定める。
――撃たれる!
次の瞬間、伸ばされたバトルアームの腕に、飛来したレーザーが命中した。
発射されたワイヤーの軌道がズレて、アレキサンダーの脇をかすめてはずれる。
キースの見事な狙撃だった。
「よし! キース、援護だ!」
バーネットが間合いを詰める。
バトルアームは取りついていた壁を蹴り、船の向こうに回り込んだ。
「ちぃっ!」
「裏に回った! マーカス! メロード! 詰めろっ!」
■ ■ ■
「あっちっちっち……」
レーザーが身体をかすめて、悲鳴を上げる薫。
スターカーゴのマークをつけた連中の中に一人スゴ腕がいて、薫の攻撃をものともせず正確な射撃と位置取りをしてくる。さっきから薫はその男との一対一の銃撃戦に、延々と没頭しているのだ。
と、いきなり首根っこつかまれて後ろに引っ張られる。
「ちょっとゴメンナサイ」
「おまえっ! 猫の子じゃないんだぞ! だいたい黒い奴らの方はどしたんだよ!?」
犯人はキムだった。いつの間にか顔に緊急用の真空マスクをつけている。薫はスターカーゴの戦闘部隊を相手に、キムは黒い部隊の相手をしていたはずだった。
首を巡らして薫がさらに怒鳴ろうとした時、大口径レーザーが目の前のコンテナに直撃し、きな臭い匂いと猛烈な熱が襲い掛かった。
「わあっ!」
「あんなトコに何故か、バトルアームがいるんだよね」
キムが世間話でもするように、平然として言う。
気化した金属を吸うと危険だ。慌てて薫も緊急用の真空マスクをつける。キムが既にマスクを付けていたということは、バトルアームの動きを予想していたのだろう。相変わらず隙のない男だ。
「いつの間にか、船の裏を回ってこっちに来たのか?」
「来るよ。また」
またも飛来したレーザーが、薫が遮蔽を取っていたコンテナに命中した。コンテナがドロリと融解する。余り長く持ちそうにない。そんなことお構いなくバトルアームは続けさまにレーザーを放った。
「くそっ、なんでこっちばっかり……!」
言った瞬間、また首根っこつかまれて後ろに引っ張られた。
「あーっ! なんなんだよ、さっきからお前はよっ!」
「これなーんだ?」
「ったく、なんだって……おい、これお前、どっから持ってきたんだ?」
薫は目を細めて、暗い中キムの持っているRI遮蔽装置を覗き込んだ。
「黒い奴らが持ってたの。いやぁ高そうなオモチャ持ってるわ~」
「……最初の爆発が起きる前、電話線を黒い奴らが切ったって言ってたな?」
「放送用の配線もね」
言いながら、キムはマスクを外した。薫がチラリと視線をめぐらすと、バトルアームは、集中する攻撃を、隔壁の破片を使って防いでいる。
「で、こんなもん背負って通信妨害かよ」
「そういうことだね」
「ふむ。……バトルアームに集中してるようで、ヘリオンもうるさくない」
「黒い奴らをを先に掃除した方が、いいかもしれないなぁ」
キムは、精神衛生上の問題と今後のために、と言いながら、船に取りつこうとした影をあまり狙いをつけもせずに撃った。影はぐらりと体勢を崩す。そして煙なんて出るはずのない発射口をフッと吹いた。
「ねえねえ。今のは黒い奴と運送屋、どっちかなぁ?」
「知るか、そんなこと!」
■ ■ ■
意識不明のカールを捕まえたキースに、バーネットは近寄った。
「止血しました。でも早く治療しないと危ない」
「わかった。コール!」
顔を巡らしてコールにむかって怒鳴る。
「はい!」
「アルカルの兵隊は?」
「黒い奴らを排除する方に力を入れてるみたいで、余り詰めてきません!」
格納庫はレーザー兵器の発射音が充満している。大声を出さないと全く聞こえない。
「ジャミングをかけてたのは、黒い奴らだ。アルカルも引っ掛けられたのかもしれん」
「我々共々ですか。バトルアームの方はどうです!?」
「カールがやられた。そっちで下がらせる奴がいるか?」
「アルベルトがもう限界です。すぐそっちにやります!」
「バトルアームが、船の裏からそっちに回るかもしれん。警戒しろ!」
「了解」
「キース、アレキサンダーと船の中調べてくれ。もう一匹バトルアームがいるかもしれんから、注意しろ」
軽くうなずいて、アレキサンダーに手で合図するキース。
――今何時だ?
十八時四六分。脱出限界高度まで一時間四十五分。
■ ■ ■
男はゆったりと椅子に座り、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
この時代にも紙は絶滅していない。どこでも持って行ける手軽さと、全面を一瞥で把握できる利点は、未だに他の媒体を凌いでいる。素材にロア・プラスティックを採用してからは、環境保護の面でも問題にならなくなった。
トップ記事は、当然のことながらスペース・アイ落下の詳報である。連合が艦隊の派遣を決定、緊急の理事会を召集することが報じられていた。そこへ部下が音を立てずに入ってくる。
「調査班、到着しました」
「遅かったな。まあいい。休息させとけ。出番にはまだ少しある」
男は新聞から、顔を上げずに静かに答えた。




