D-B-3 侵略の足音
「へ、陛下!」
慌てて臣下の礼を取るネールに、こちらも慌てて追随する。
はじめて見た生の国王陛下は顔に深い皺が幾つも折り重なるように刻まれており、あまりヴィシャル様と似ているようには見えないおじい様であった。
「よい。これは半分お忍びのような物だ。楽にしてくれ」
そう言うと陛下は目配せをすると、ヴィシャル様はおもむろに着席し、全員がそれに倣う。
「さて、今日集まって貰ったのは他でもない。隣国デトルーロの動きについてお主らに指示を出すためじゃ」
陛下がチラリとそこでクレイに目線を送ると、彼は立ち上がり緊張した様子で口を開いた。
「隣国デトルーロ王国に侵攻の兆しがあります。侵攻理由については幾つかありますが、現状断定できるものはありません。侵攻方向は辺境伯領の真下を潜り抜けるように作られた洞穴からで、バガリー領の端にある湖周辺からであると推測されます」
この時点でアタシは思わず目を見開き口を半開きにしてしまった。
え、帝国じゃなくてそっち? 侵攻してくるような頭湧いてる奴っててっきり帝国だと思ってたんですけど。
っていうかデトルーロ王国からの進軍経路の特定、なんかめっちゃ具体的じゃんね。何があったの? あとデボラパパなんでこんなヤバい情報聞いて眉毛ひとつ動かさないの? ってかなんで生徒たちの園に1人だけおっさんおるん?
色々と突っ込みたいことは多々あるけど、そこでチラリとヴィシャル様の方に目を送ると、彼は何か恐ろしいものでも見た直後かのように目を見開き、滝のような汗を流していた。
「……ヴィシャル様」
「……あ、ああ、すまない」
顔面蒼白ではあるが、なんか前々回の時ほどの絶望感がそう言えば無くなっていたサマラがおもむろにヴィシャル様に何かを渡すと、彼は躊躇なくそれを口に放り込み、それを飲み干した。
なぁにアレ。阿吽の呼吸でもアタシに見せつけてるつもり?
「……」
そんなことを内心考えていた次の瞬間、魔力のような何かが一瞬部屋の中でほとばしる。
ビクリと思わず肩を震わせたところ、ヴィシャル様はなぜか陛下のところに瞬間移動しており、ヴィシャル様もサマラと同じぐらい顔を白くしていた。
「ああ、今のは気にするな。儂のスキルをちと使っただけじゃ。お主らに害はない」
ヴィシャル様が席へと戻っていく。
それに合わせて国王陛下が軽く咳払いをした。
「この人選を疑問に思うものがおるやもしれぬので説明をしておく。まず我が愚息じゃが、此奴は優秀な癒し手であると同時に極一部にしか開示しておらぬ諜報に役立つ能力を持っておる。故に外すことは出来ぬ」
次にサマラ。
サマラのスキルは学園内でも結構有名だ。嘘を見破るスキル。そんな訳で彼女も諜報活動をするとか王様に言われていた。
「パルテ侯爵家の娘よ」
「はっ!」
「お主はこのベッコウ男爵と帯同してもらう。クレイ・パリエ伯爵代行についてはヴィシャルと寝食を含めた一切の行動を共にせよ」
「承知しました」
デボラパパについては、これからデボラを追ってデトルーロ王国へと潜入するらしい。
っていうか、デボラまさかの国王陛下の命令でなんかヤバい所に行ってたんかい。
ウケる。
ってかまるで間者とか暗部とかみたいじゃんマジでウケる。
「そして……聖女よ」
「は……はいっ」
「其方にはまず一度教会へと戻ってもらう。学園だからと儂が歴史の授業をする訳では無いが……知っての通り、デトルーロ王国は件の『聖女事変』以来、反教会の急先鋒として名が知られている。故に其方にはここよりも安全な教会に一度身を引き、また同時に教皇殿の援助を引き出して貰いたい」
ゲッ、あそこに戻んのかよ。
まあここより安全なのはそうだろうけど……
っていうかあのキモ皇に協力仰ぐってマジか〜アイツが嫌で学園来てるみたいなとこあんのにさあ〜
ってかデトルーロ王国って『毒蜘蛛聖女と傀儡王』の話に出てくるあのデトルーロ王国? やば。
アタシと同じように聖女が王太子と結婚したら婚約破棄されてキレた侯爵令嬢がまさかのクーデターして王様になったその王太子と王妃になった聖女焼き殺してそのまま女王様になったとか言うバイオレンスの国じゃん。
しかも反教会って……まさか聖女に寝盗られたから反教会になったって事? モテない女が逆恨みで聖女引いては教会が嫌いってこと? ダサすぎるんですけど。
そしてそんなダサすぎ案件で教会総本山のあるこの国がもし狙われてるんだとしたらアタシ聖女だし確実に死ぬじゃん。嫌すぎる。
まあ死んだらどうせ時間戻るけど。
「承知しました」
まあいいや。
どうせあのキモいおっさん裸で出迎えてくるだろうし魅了してる奴らで取り押さえてナンシー方式で魅了しておいて支配下におくか。
それでいざとなったら、アタシは『聖なる力は持ってないけど、教会が政治に介入したくて偽聖女を祭り上げた』とかそういう言い訳を作って言わせて、アタシは被害者ポジションを獲得して逃げよう。
で、最悪逃げおおせた先とかで本当に聖女の力に目覚めました〜とかにすればいい。うん。
このシナリオ我ながらちょーいいね。この国が勝てばこのままでいいし、負けそうなら被害者としてデトルーロ王国に寝返ることができる。これで行こう。
「分かりました。必ずや猊下の協力を取り付け、教会総出で支援いたします」
「うむ。聖女殿、並びに猊下殿がいると儂としても心強い」
「ありがたきお言葉です」
勘違いしないで欲しいんだけど、アタシとしてはこの国に勝って欲しいのは事実だし、キモすぎ猊下の協力を取り付けに行って教会総出で支援しに行きたいという言葉と気持ち『は』本物だ。
だからサマラの嘘探知にも引っかからない。
本当じゃないのはありがたい言葉と言ったところぐらい? 言うほどありがたいかと言われるとビミョーだし。
は〜しかし今回の周回イレギュラー起こりすぎじゃね?
超展開ありすぎてお腹いっぱいだしどうなるのかアタシにも全く想像つかないんですけど。
※ってかまるで間者とか暗部とかみたいじゃんマジでウケる。ではなく間者とか暗部です。




