D-B-2 イレギュラー
また今回は更におかしなことが起きていると気付いたのは、新入生歓迎の挨拶を始業式の時にボーッと聞いていた時だった。
「まずは新入生諸君。入学おめでとう。そして在学生諸君。よくぞ戻ってきてくれた」
学園での在校生代表挨拶のために舞台に登壇したヴィシャル様がアタシたちを見下ろす。
「知らぬ者はいないとは思うが、私は在校生代表のヴィシャル・ルトゥールだ。ここで過ごす日々は、諸君にとってかけがえのないものとなるだろう。君たちには是非とも学問に励み、友と語らい、己の才を磨いてほしい」
いつもならここで終わるのだが、一瞬のための後、ヴィシャル様が更に話を続けたのだった。
「諸君もいずれはこの国を支える者となる。今、この国が平穏であるからといって、未来までそうだとは限らない。何故なら時代とは常に諸君の目には見えぬ場所で、音を立てずに静かに動いているからだ」
ん? と思って顔を上げたのはアタシだけではなかったようだ。
顔を上げたのはアタシの他にはクレイ、そしてもう1人。
「だからこそよく学び、よく考え、よく備えてほしい。平和とはただ与えられるものではない。守る者がいて、初めて続いていくものなのだから」
顔面を蒼白にしつつも彼女はそこにいた。
「それでは諸君。素晴らしい学園生活を送りたまえ」
サマラ・バガリー。
その顔色は全くもって優れてなどいないが、彼女は確かにそこに居た。
◇
始業式が終わり、教室へ移動し年度頭のオリエンテーションを受け終わった所で更にいつもは起きない事が発生した。
「あの……デボラさん、もしよければ一緒にカフェテリアに行きませんか?」
普段ならこのタイミングでデボラは私の誘いに乗り、共にカフェテリアへと向かう途中でうっかり護符を落とす。
しかし彼女は今回初めて首をゆるゆると横に振った。
「申し訳ありません、聖女様……実は既に先約がございまして……」
「……先約?」
「本当に申し訳ありません。この埋め合わせはいつか必ず……!」
それだけ言って、彼女はなんとアタシを置いてそそくさとどっかに行ってしまった。何アレ。
今までこんなこと一度もなかったのに、一体誰だよ先約ってマジでふざけんな。デボラは情報源として大切だから重宝してたのに!
一緒にカフェ行かないと魅了出来ないじゃん!!
……いやまあ、確率論的に落とさないこともあるからカフェ行ったからって絶対では無いんだけどさ。気分的にね。
仕方がないのでアタシはその日は特に誰ともブラブラする訳でもなく、寮内に宛てがわれた自室へと戻ったのだ。
すると、今度は更におかしな事に、到着早々にお客様が現れた。
「聖女様、新たに寮監に任命されましたパルテ家のネールがご挨拶申し上げますわ」
「!?」
部屋に着いたそばから誰だよとか思ってたら、ネールがなんとアタシに直々に挨拶しに来たのだった。
これも今までは無かった話。
「あっ、えっと、聖女に任命されてますベティ・トレイソンです。その……よろしくお願いします……」
アタシも一応は出家の手続き中とはいえ、まだ格下貴族なので軽くカーテシーをキメる。
するとネールは不安そうな顔でアタシに囁く。
「寮に来て頂いて早々で申し訳ないのですが……学園の職員室まで着いてきていただけます?」
「え?」
え、何故?
いや別にいいけど、なんかあったん? と、アタシの顔にでもそう出ていたのか、彼女は言葉を付け加える。
「殿下より緊急招集が掛かっております。理由は分からないのですが、わたくしも呼ばれていて……」
んん〜〜? 殿下ってヴィシャル様?
アタシが呼ばれるのはアタシが未来の嫁だからわかるけど、なんでコイツが?
「まあ……そういう事でしたら……」
殊勝そうな顔を猫かぶりして、アタシはこうして着いたばかりの自室から出た。
「あの……そう言えばアタシ自己紹介がまだでした。ベティ・トレイソンと言います。よろしくお願いします」
「まあ、ありがとうございます。聖女様のお噂はかねがね聞いておりますわ」
幸い職員室のある学園本校舎は隣の建物なので、アタシたちは他愛もない話をしながらも職員室へと向かっていく。
他愛もないと言っても、普段のアタシと魅了困難者のネールの間には接点なんて無いので、大体は教会についての話だ。
やれ毎年の寄進の額が目減りしているのが嘆かわしいとか、やれ司祭志望者が微減しているとか、そんな上辺だけの話。
そして教会の内情を知り尽くしているアタシからしたらマジでどうでもいい話だ。
そりゃ寄付しようとする奴いなくて当然でしょとかトップの教皇からしてあのキモさなのに司祭増えるわけねーじゃんとか。
もちろん教会が腐ってるのを知ってるのなんて極々一部だけど、知ってたらまあそうだよねふーんとしか反応できないどうでもいい話なのだけど……部外者にしては妙に詳しい。
「っていうか、教会の事詳しいんですね」
「昔わたくしの御先祖様に教会の助祭をされていた方がいたとかで、多少は聞き及んでおりますの」
「へー」
へー以外の感想はない。まーそういうことなら多少知ってても無理はない。とか言ってどうせ助祭なら教会のきったねー所とかは知らんでしょどうせ。
はー教会の愚痴こぼせる訳でもないしマジつまんねーなーとか思って相槌をしている間に、アタシたちはいつの間にか職員室に着いていたのか、ネールが扉を開けて先生を呼びに行く。
「おお、パルテ嬢と聖女殿。殿下なら職員用会議室におる。ここの奥だ」
「ありがとうございます」
先生に案内され、職員室の奥にある職員会議室に通されると、そこには既に見知った顔が勢ぞろいしていた。
ヴィシャル様とクレイ。
ネールとアタシ、そして……サマラ。
それとなんかおっさ……あ、コイツデボラのパパじゃん! なんでこんなとこ──
「これで全員揃ったようだな」
……国王陛下!?




