C-G-終 腐敗臭
「お待ちしておりました聖女様。教皇猊下がお待ちです」
「はーい」
つつがなく卒業記念式典が終わり、アタシは帰路についていた。式典のラストでヴィシャル様は皆の前でアタシと新たに婚約する事をみんなに宣言し、皆の前でアタシにキスまでしてくれた。魅了してない奴らまでもがアタシをその場で盛大に祝福してくれた。これでアタシは晴れてヴィシャル様の婚約者だ。
完全な勝利だった。
アタシは今まで寮住まいだったけど、卒業したら当然に寮からは追い出される。
だからアタシは自分の古巣へ──教会総本山へと戻ってきていた。
「聖女様!」
「あっ、ねーちゃん!」
「聖女様だ!」
「ベティ様!」
「わぁっ、ほんもののせいじょさまだ!」
受付に到着するや否や、瞬く間にアタシは人に囲まれる。
教会の関係者はもちろんだがその中には関係者だけでなく観光客や、信徒の聖地巡礼者も含まれている。
あーうぜえ。
マジ通り道の邪魔なんだけど。
「みんな、今日は来てくれてありがとう。みんなに神の祝福あれ!」
予め魅了している教会の生臭神父共に目で合図をすると、それだけで神父たちがアタシの前に立ち、人混みを一直線に割いていく。
そこでアタシはふと思いついて、とりあえずこの一帯にそれはもう雑に癒しの祝福を、小麦粉を辺りに振り撒くようなノリで浴びせて見せた。
すると一瞬観光客たちがその身を止めてみせた。
「おお……!」
「肩凝りが取れていく……!?」
「持病の癪が!?」
「う、腕が生えてきた!! 奇跡だ!!」
「じゃ、皆さんバイバ〜イ」
目の前で起きている奇跡を目くらましに、アタシはその隙を突いてとっとと先へと進む。
これでまた寄進が進んで新しい信者も増えることだろう。ほんとヌルい仕事だ。
「聖女様、お待ちしておりました」
「はーい」
「休憩室で猊下がお待ちです」
「げ、休憩室かよ」
「恐れ入りますがお立ち寄りください」
「りょ」
控えていた神父の1人に適当に相槌だけ打って、アタシは指定された部屋に入った。そして入った瞬間にむせ返るような匂いが部屋に充満しているのを感じて、アタシは盛大に入室を後悔した。
「む……ベティか。よくぞ帰ってきたな」
アタシの目の前には、下半身から血を流す裸の女が息も絶え絶えと言った様子で倒れていた。そしてその奥には同じく全裸で満足気な様子のお爺さんが……教皇猊下が、赤に染ったシーツを下半身にかけた状態でアタシをベッドの上から見下ろしていた。
「来て早々これは何? アタシ曲がりなりにも王太子の婚約者になってきたのに裸で出迎える奴いる?」
「おお、すまんな。昨日はちょっとはしゃぎすぎてしまってな。悪いけどワシとそこの女を癒しておくれ」
ネクサス・マンロー教皇猊下。
マンロー子爵家と言う貴族の分家筋にして、この世界の宗教の頂点に君臨する男。根っからの処女厨でもある。
アタシは深いため息をつき、とりあえずは根腐れ男に癒しの祝福を浴びせる。
「おお……! 流石だなベティ。これならもう一戦交合うのもやぶさかでない」
「バカ言わないでください」
次にアタシは振り返り、顔からもあらゆる汁を垂らす女を見下ろして屈みこむ。
「辛かったね……今癒してあげるから……」
哀れな女。
力がないからしょうもない教会に縋り付き、そしてこうやって男どもの食い物にされるだけの餌。
大体アタシ、そもそも神を言うほど信じてはいないんだよね。神いるなら目の前のこのしょうもない女救えよって感じ。
そして神だかがほんとにいるかなんて怪しいしこの女を救ってはくれないので、しょうがないからより即物的に救いを差し出せる神っぽい存在ことアタシが、迷える子羊を救うわけだ。
「ああ……聖女様……」
全裸ということは、魅了避けの護符もつけていないということ。
だからアタシは癒してあげながらも丁寧に魅了を掛けていく。
「もう大丈夫。さあ、立てる?」
これでこの女の信仰心も、この根腐れの布教するくだらない駄女神だかではなくアタシになった。
偶像ではなくアタシを崇めろ。少なくともアタシは実在するし、アタシがアンタを救うかはともかくとして、まあ応急処置ぐらいは出来る。
「ありがとうございます……」
「さ、お仕事あるでしょ? 頑張って」
「はい!!」
女が退散する。
そしてアタシは全裸の男と再度向き合った。
「いやはや、助かったよ。君がいないと処女が尽きてしまうからな、これからはもう少し遊べそうだ」
「しょうもな。1回ヤッた女には違いないじゃん」
「君に分かれとは言わないさ。処女膜を突き破る感覚と、その奥から聞こえてくる媚声の素晴らしさは男にしか分からないからな」
そういうもんだろうか。本当にキモすぎて微塵も共感出来ない。
処女膜破れた時の感覚なんてそれこそ女にしか絶対に分からないようなもんだと思うけど。お前に膜無いだろ。
まあどうでもいい。どの道存在がキモすぎの罪でコイツには死んでもらうし。宗教家的な言い方するなら『もはやこの教会のクソキモ根腐れ男の今生に救いはありません。速やかに神の袂に送る事でかのものの哀れな御霊を救うのです』的な。
もっとも神がいたとして神目線でもキショすぎて神サイドが拒否りそうだけど。
「明日の朝に聖女帰還の祝いをする。そこで全シスターを呼び寄せておくから、全員の処女膜を癒しておいてくれ」
「はあ」
本当にクソ気持ち悪い男だ。でも今回ばかりは許そう。
なんせアタシは王太子の婚約者、未来の王妃。聖女と王妃の権力の掛け算があれば、このキモサス・キモローを葬ることなんて造作もない。
アタシの理想とする世界にヴィシャル様以外でアタシよりも偉い男は要らない。ましてやキショ男なんてもってのほか。生理的に無理とかそんな次元じゃないし。
「じゃ、アタシ今日は流石に長旅でメンタルが疲れたから早めに休むね。あ、もしアタシの寝込み襲ったら生まれてきたことを後悔さすからね」
「分かってるよ、ベティ君」
ま、別に襲わなくてもこれから産まれてきたことは後悔させるんだけどね。程度の話。
そうしてアタシは久々に教会内のアタシに割り当てられた私室へと帰って来れた。
やっとつかの間の休息だ。やっと気を抜ける。
アタシの部屋の外にはアタシ専属の衛兵──もちろん魅了済──が常に控えているから、絶対に誰もアタシの部屋へな入って来れない。
だから気が抜けたのか、アタシは気がついたらうたた寝をしてしまっていた。
「……う、うーん?」
目が覚めると、アタシの部屋に眩しい日差しが差し込んでいる事に気付いた。そんなにガッツリ寝た覚えは無かったんだけれど。
ということは、アレか。
今までの努力がまた全部水の泡になった感じか。
ああ、また時間が巻き戻ったに違いない。




