C-G-4 勉強は出来ても頭は良くない
「いやいやいやいやいや、さすがにおかしいでしょこれ」
掲示板に貼り出された試験の結果を見て、口に出さずにはいられなかった。
「流石は聖女様、素晴らしいですわ!」
「癒しの力があるだけでなく、才色兼備だなんて、憧れます!」
「ベティ様……素敵……!」
「流石は我が国の聖女様だ」
アタシを愛してくれている取り巻きたちが一様にアタシを崇めるような発言をするが、そんなモノはアタシの耳には入ってこない。
なぜなら本来あるべき名前が見当たらないからだ。
上から順番に成績優秀者の名前が並んでいて、アタシの名前はちゃんとある。女子の中ではトップだ。
男ではヴィシャル様とクレイがトップ。まあここまではいつも通りだから分かる。
だがいつもと違うのは、女子のところに本来あるべき名前が無い事だった。
サマラ・バガリー。
アイツの名前だけがどこにも無い。
上の方だけでなく、上から下までくまなく探しても無い。
いや、なんで??
アイツこういう試験休むような奴じゃないじゃん。どういうこと??
別に仲が良いわけじゃないというかむしろ逆だから、アタシもあの女のことを詳しく知っているわけじゃないけど、少なくともアタシはアイツが学園を休む所を見たことが無かった。何があっても基本アイツは必ず試験だけは受けていたはず。
だからここに名前がないことはおかしい。
なんだろうな〜病気? ……いやでもそれならそれで、誰かが噂しているはずだし。この学園貴族のガキばっかの狭い空間だからほんと誰か一人が休んだだけでもすぐに何かあったかと噂になるんだよね。まあ大半はデボラナンシーペアが口から出まかせ言ってるだけなんだけど。
そんな中でも特にアイツは今はまだ王太子殿下の婚約者な訳だからその一挙一動が全部噂になる。
それが、何の噂もなくまるで最初からここにいなかったみたいに突然名前消えるか普通?
「試験の結果はいつも通りか」
ふと、男の声がして振り返ると、そこにいたのはアタシの最重要ターゲット2人だった。
「あっ、ヴィシャル様! それにクレイ!」
アタシの将来の婿こと、ヴィシャル・ルトゥール王太子殿下。
そしてその側近のクレイ・パリエ伯爵令息。
思わず舌なめずりしたくなるようなイケメン。そしてよだれが出そうなぐらいの権力と財力。アタシ的には100点中100万点のヴィシャル様と999,999点のクレイ。
「それにしても聖女殿にはいつも感心する。この試験でも満点か」
「そんなこと言うヴィシャル様も満点じゃないですかぁ」
「それぐらい出来ないと、この国を率いることは出来ないからな」
「それにクレイも、いつもすごいじゃん! また満点ってぇ」
「……私は、まあ。スキルがありますから」
そういうクレイの表情は浮かない。やっぱり変だ。クレイもサマラがなんかおかしくなってからと同じようなタイミングでなんか変だし、それにさっきから二人ともなんか妙に掲示板を見る目がおかしい。
ヴィシャル様はいつものように振る舞ってるけど、クレイは違う。
掲示板に並んだ名前を見た後、一瞬だけ視線を止めている。多分彼もサマラの名前を無意識に探しているんだと言うことはなんとなく読めた。
「そう言えばぁ、いつもならいるはずの名前が無いんですけどぉ、サマラの名前はどこにあるんですかぁ??」
そう言えばヴィシャル様はまだ婚約者だったわと思い出し、それとなく聞いてみると、帰ってきたのは思わぬ声だった。
「……奴は休学した」
「は?」
「奴は体調が優れなく、領地での休養を要する状態だ。だから試験を受けていないし、だからこそこのリストにも名前がない」
……サマラが、休学??
マジで??
「……いつからですかぁ?」
聞いてから、二人の反応を見た。
ヴィシャル様は飄々としているけど、クレイの表情が一瞬だけ固まった。ほんの一瞬だ。だけどアタシの目はごまかせない。
これでも伊達にクソどうでもいいキモ信者の告解とかを聞いている訳では無いのだ。
「……少し前からだ」
「少し前って、どれくらいですかぁ?」
「それを知ってどうする?」
返ってきた声が、思っていたより低かった。これなんか訳ありだなこりゃ。
「え? 別にどうもしませんケド……」
「……」
ワザと『は? 何こいつウザ……』と暗に顔を顰めてみると、ヴィシャル様は一瞬怯んだように瞬きをしてすぐにいつもの表情に戻った。
「まあ、あまり気にすることではない。領地で療養すれば、いずれ戻ってくるだろう」
戻ってくる。どうだか。
って言うかなんで今の言葉でクレイが目を伏せているわけ? まるで、その言葉を否定したいみたいじゃん。バレバレすぎてウケる。
「ふーん。でもサマラも体調崩すことあるんだね」
「全くだな。しかも試験という重要なタイミングで体調を崩すとは、全く情けない……」
ヴィシャル様はそう言ってやれやれと首を竦めるけれど、その声にはいつもの呆れた感じがしない。
ん〜、演技は悪くないんだけどいかんせん横に大根役者いるせいで返って陳腐というかバレてしまうというか。逆に無理やりそう言っているように聞こえてくるんだよね〜。
今もクレイは顔を歪めて逸らして見せたし。
「……」
「クレイ?」
「いえ」
ていうか。サマラって、そこまで心配されるような奴だったっけ?
いやヴィシャル様はまあ分かるけど、お前がなんでそんなに気にしてるの?
正にワンチャンお前の婚約者になろうとしてるアタシが言うのもどうかと思うけど、お前婚約者いるよな? なんで他所の女気にしてんのコイツ。まさかサマラに惚れてるとか? だとしたらセンス無〜。
「それに比べて、聖女殿はいつ見ても快活で素晴らしいな」
「えっ? そ、そお??」
なんか突然褒められたんだけど。
今妙にドギマギしてしまったのは割と素の反応だ。
アタシがいつも元気ハツラツなのには当然訳がある。訳というのは、アタシは基本的に聖力が強過ぎて常時癒しの力を纏っている。つまり、癒しの力が強過ぎて何もしていなくても周囲にあるものを勝手に癒すことがある。
死んでいない限り、アタシが歩けば周辺の枯れ草も瑞々しい緑を取り戻す。
「だってそうだろう。運動技能ですら下手な騎士科の男より優れているではないか」
「そこはほら、アタシ元平民じゃないですか? 平民ですから野蛮でヤンチャでバカなんです」
「ははは、面白いことを言うな。野蛮でヤンチャならともかく、テストで満点を出すような者がバカなわけないだろう」
そしてその周囲とは聖力のコアでもあるスキルを刻み込まれている魂の周り全てを言う。言葉を変えれば、アタシの身体もその対象だということ。
要するにアタシは疲れない。身体が傷付いた傍から癒える。傷付くというのは筋肉の損傷とかも含む。だから実はこう見えても筋肉もそこらの男並みにあったりする。
なんせ筋肉痛の過程をすっ飛ばして筋肉がついてしまうから。ここだけマジで迷惑だ。なんせ迂闊に動くとそれだけで脂肪燃焼して萌えて欲しくない部分の脂肪まで燃えてアタシのスタイルが崩れてちゃうし……
「この国には君のような貴族の価値観に囚われないような者が必要なのかもしれないなら」
「え〜〜、ほんとですかぁ?」
「本心を言ったまでだよ」
「でもぉ、世の中お勉強は出来ても頭は良くない人もいますし〜。アタシなんて正にそのパターンっていうか〜」
あえてそう言って卑下みせると、ヴィシャル様は思わずキョトンとした様子で瞬きをした。
「……」
「あれ、ヴィシャル様、どうしたんですか?」
そしてそれはクレイも同じだった。ますます謎である。
「あ、いや……前に全く同じことを、試験結果発表のタイミングで言った奴がいたから、思わず重ねてしまった」
「えー、誰ですかそれー」
「……、……貴方の、よく知る人物ですよ」
クレイがやっと口を開くと、それに合わせてヴィシャル様が彼に視線を向けた。
これ横にいる役者の演技がヤバいの気付いたかな。
「え、ほんとですか〜? 誰ですか〜?」
「それは──」
「内緒だ」
クレイの言葉を遮るように、ヴィシャル様はウインクをしながら言って見せた。
「え〜、なんですかそれ〜!」
「ふふ。内緒なものは内緒だ。さ、クレイ、早速父上にこのことを報告せねばならん。王宮に行くぞ」
「はい……」
それだけ言って、アタシの最終目標たちは去っていく。
……父上に報告?
何を? 試験で満点を取ったこと?
それわざわざ王宮まで行って報告するようなことか? どうせ手下いるんだからそいつはにやらせればよくね。
どう考えてもここから逃げたかっただけでは?
アタシは二人の背中を見ながら、少しだけ考え込んだ。
「……ま、いっか」
少し頭を捻ってみたけど、アタシはすぐに考えるのをやめた。
どうせ大したことじゃない。
クレイもなんか最近様子おかしいけど、今のところ順調にヴィシャル様との距離は縮まっている感じがする。
魅了していないのに縮まってると言うことは、アタシに素で傾きつつあるということだ。
しかも本来の婚約者であるサマラはなんか知らんけど勝手に退場してくれた。もうこれ勝ち確みたいなもんじゃん
今のうちにヴィシャル様に何を買ってもらうか物色しておかないとな〜。




