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傲慢悪役令嬢VS極悪魅了聖女  作者: 星キノ
悪役令嬢の章
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15/53

B-G-2 天に昇りて神となる

 イグアスたちに指示を出してから暫くが経過した。


 そろそろ我が侯爵家の手の者が貴族院、そして教会にも浸透している頃であるはずなのだが、現状特段今までと比べて目新しい情報は得られていない。

 ただ、先日イグアスがしてくれた報告によると、助祭はその後助祭の地位を辞して嫁いだらしいという情報があった。素晴らしい。

 つまりは神の教えに従い、産めよ増やせよと時の因子を持つ御子をこの世に満ち満ちさせたのか。もうその情報だけでご飯が進む。

 日に日に私の恋心(殺意)は膨れ上がるばかりである。



「あ……っ」


 思案に耽っていると、また誰かが私の歩みを邪魔するかのように道の中央に陣取っていた。

 この間は誰だか知らないけど転ばせてしまった事をかろうじて頭の片隅に記憶していたので何とか同じ過ちを繰り返す事なく立ち止まれた私、とても偉い。


 ……なんて思っていたら、転ばせてしまった方と同一人物ではないか。


「まあ、いつぞやの……その節は大変失礼致しました。その後お怪我の具合はいかがでしたか?」

「は?」


 声掛けをすると、ビクリと肩を揺らして彼女は震え上がった。

 は? なんて正面向かって言われたら今までの私ならブチ切れていただろうが、今の私は概ね恋する乙女(殺意しか頭にない)。

 恋は盲目とはよく言ったもので、多少の無礼には目を瞑れる。例えそれが聖女のものであったとしてもだ。


「先日私の過失で転んだ時のお怪我の加減はいかがでしたか?」

「え……あの、その、そこはほら、アタシ仮にも聖女だから、その……自分で怪我は治せる、っていうか……え、マジで調子狂うんだけど……」


 完全に動揺している様子だが、そんな事はどうでもいい。

 今の私は大体恋する乙女のような何かなのだ。今の私は慈愛に満ちている。今ならあらゆるものを慈しみ、憐れむことが出来る。それこそ聖女のように。

 そもそも此奴は頭も中身も憐れなのだからそりゃあもう心ゆくまで存分に憐れむことが出来る。なんだ真の聖女は私だったか。


「バガリー嬢」


 一度試してみたい拷問はなんと言っても水責めだ。

 それもただ井戸水を桶に掬って人にぶっかけるような単純で程度の低いものではなく、布などを対象者の顔に被せ、それに一滴ずつ丁寧に水を含ませていくような拷問だ。

 初めのうちはなんともないが、やがて水を吸い続ければ布の重みは増していき、やがてその布から水滴が更に対象者の鼻や口に一滴ずつ垂れていくだろう。

 少々の水なら飲むこともできるだろうが、それを何時間も続けたらやがて溺れるだろうし、溺れるのではないかと言う恐怖心から人を壊すことができるのではなかろうか。


「……バガリー嬢?」


 あるいは直接額などに一滴ずつ水滴を垂らしていくのもいい。

 あれも人を壊すと私は聞き及んでいる。何十回か前の周回でたまたま王家の影の一人と親睦を深める機会に恵まれた際に聞かされた拷問方法だ。

 人が壊れゆく様を実際に見てみたい。それが自分に散々時戻しという害悪を成してきた憎むべき者であれば、尚更。



「バガリー嬢!」

「えっ!? あっ、あらやだわたくしったら、また思案に耽っていて……」


 誰かの声が聞こえてようやく現実に戻ってきたわたしは、気がついたら顔が赤らんでいた。無論これは私の恥の感情からもたらされたものだ。

 本当に恥ずかしい。私としたことが、また妄想で意識を飛ばすだなんて……


「何か悩んでいることでもあるのか」

「えぇ? いいえ、そんな事は御座いませんのよ。おほほ……」


 気がつけばパリエ様が心配そうにこちらを覗いてくる始末だ。

 全く、私もいい歳をして(周回し過ぎて歳なのに)ほんとうにみっともない……


「いや、アタシが言うのもなんだけど、ちょっとマジで頭やばいと思いますよ」

「ううむ。バガリー嬢、聖女殿もこのように言っているのだし、医務室で休んだ方が良いのではないか?」

「えぇ? はあ、そうですか」


 私の気の抜けた返事に、思わずといった様子でふたりが顔を見合せた。

 私が何かをしたとでも言うのだろうか。全く失礼な人達だ。でも私は許す。

 赦しを与える。そう、今の私は全てを赦せる。恋する乙女は盲目だし、何より私は真の聖女……


「本当になんともないのか?」

「えぇ? はあ、そうですか」

「……聖女殿、申し訳ないが彼女に回復魔法を使ってくれないか」

「やだぁ、ベティでいいって言ってるのにぃ」

「聖女殿」

「ベティ」

「……聖女殿」

「ベティ」

「……、……」

「ベティって呼んでくれなきゃ、やだ」

「……ベティ殿、彼女に回復魔法を使っては貰えないだろうか」

「もぉ〜、しょうがないな〜。クレイ様がそう言うならぁ」


 色々と愉しい事(拷問手段)を考えていると、身体がほんわりと暖かくなっていく。

 自身の身体を取り巻く光が止むと、あろうことか私の疲労感が吹き飛んでいた。なんだこれは。

 恋の力って疲れが飛ぶのか。今まで侮っていましたわ……実に興味深い……

 心なしか私のお肌もつやつやしている気がする。まさか恋に落ちる事自体が美肌にも繋がるだなんて、最初聞いた時はなんだその眉唾聖女脳効果はとか思っていたけれども、考えを改める必要がありますわね……



「クレイ様、なんかサマラ全然様子変わらないんですけど……」

「本当にどうしたんだ君は。らしくないぞ」

「えぇ? はあ、そうですか」

「……相当重症ですね」


 めっちゃキモいとかいう声が聞こえた気がするが、恐らくはどこかの子鳥のさえずりかなにかだろう。

 今の私は慈愛の権化。もはや聖女通り越して愛の女神。我を崇めよ。

 まだ見ぬ犯人を想うだけで肌が瑞々しくなるのだからもうどうしようもない。


 瑞(・)といえば、水責めも水浸しの牢に繋いで置くという手法も悪くない。

 足の甲ぐらいが浸かる程度の水位で敵の体熱を奪う種類の拷問だ。う〜んこれ捨てがたい。まるで理想のデートプランを考える乙女のようだ。

 ああもう、イグアスも早く情報を持ってきてくれればいいのに。まさかこの私がこんなにもじれじれするだなんて。殿下とのお茶会ですらこんなに焦れったく感じたことがない。


 そんなどうにもならないことを考えていたら、ふと、私の脳のどこかが現実に舞い戻って、目の前の男を捉えた。


「……あ、そうか。パリエ様」

「えっ!?」



 いるじゃないか目の前に。

 王国(K)データ(D)バンク(B)二世が。


 もしかして、この男なら何らかの情報を知っている……?


「そうよ、なんで私今まで気づかなかったのかしら。パリエ様、パリエ様」

「な、なんだい!?」

「わたくし、実はかねてより人探しをしておりますの」


 目の前のこの人のスキルは絶対記憶。一度見たもの、一度知識として得たものは生涯忘れないスキル。

 まさに、調べ事をするにはうってつけ。


「人探し?」

「ええ、そうなのです! ただ、その方の名前がわからなくて……」


 さてどこまでパリエ様に情報を開示すればいいだろうか。

 時戻しのスキルを持っている可能性が高いことは、伏せておいた方がいいだろう。万が一その者を私が狙っているとどこかから漏れてしまってはかなわない。



「名前を知らない?」

「ええ。それどころか、殿方なのかなど、性別も分かりません。分かっている事は、大昔教会で助祭をしていた事があるということと、今はもう存在しない古い家の末裔であるということだけ……」

「……助祭? なんでサマラが助祭の子孫なんて探してるの?」


 横からでしゃばりが怪訝な顔をしながら口を挟んでくる。まあいい。お前もある意味関係者だ。利用させてもらう。


「その旧家の助祭の名はセレリタ・セカンダ……」

「……聞いた事のない家だな」

「ええ……ですがその助祭の末裔を、もうずっと何年も探しているのです」

「なんで? サマラって教会とそこまで繋がりあったっけ?」

「なぜって、そんな……流石に私もそこまでは言えませんわ……」


 まさか恋にも似た執着が出ていますだなんて、言えない。

 なんと答えたらよいかモジモジしながら考えていると、2人は再度顔を見合せた。


「聖女殿、先程のは本当に回復魔法でしたか?」

「うん、一応ちゃんと回復はさせたはずなんだけど……あと、ベティね」

「なんか悪化していないか?」

「マジでそれな」


 私を崇め奉るべき女は心底気味が悪いといった様子で顔を顰めながらパリエ様の影に隠れた。あれはいつもの演技で『きゃっこわいですぅ』って言いながら隠れるヤツではなく割とガチ目に怖くて隠れてるヤツだ。

 今までならその行動を吐き気を催す邪悪だと内心罵っていただろうが、これも神たる私よりも下等な存在である人の子の業だと思えば愛(う)いと言うもの。今ならこのまま私もやれやれ系女子になれそう。


「君が心配だ」

「まあ、パリエ様。私は至って正常……いや清浄で御座いましてよ?」

「……」


 そう返してやれば、彼は目を逸らすように伏して見せた。なんだその切なそうな目は。私に惚れたか。

 まあ愛の女神に惚れたくなる気分は分からなくもないが、生憎私も貴方も婚約者を持つもの同士。残念ながら相容れる存在ではないのよ。

 まあその絶対記憶スキルは大変有用だから、神の手足として動いていただくのは構いませんことよ。神は許します。

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