B-G-1 それは最早、恋
「きゃっ!」
あれから私は、それはもう首を長〜〜〜〜くしてイグアスからの報告を待ちわびていた。
謎の助祭セレリタ・セカンダ。
名前から言って女性。それがどんな半生を送ったのか気になって仕方がない。
なんせ保有されていたスキルが『時の加速』というものだ。果たして時を加速させるとは、一体どういうスキルなのだろうか?
「うおっ!?」
「だ、大丈夫か?」
例えば、ワインの熟成を早めたりすることが出来るのだろうか? 加速と言って置きながら、出来るのは加速だけではなく、本当は減速させることも出来るのだろうか? 加速って、具体的にどれだけ加速させることができるのだろうか? 倍加? 三倍? 四倍? あるいは0.5倍加速させるみたいな解釈のねじ曲げもやはり出来るのか? それとも更に解釈をねじ曲げて-1倍、-2倍と言った形で時間を逆行させることは可能なのか?
付与できる対象は物だけだろうか? 生き物や人にもかけることができる? 世界全体にかけることは?
例えば子を授かったとして、産むまでの時間を早めることはできる? もし出来るなら、時の力を受け継ぐ御子を一体何人製造れるのだろうか。
「い、つつ……ご、ごめんなさい! だ、大丈夫です……」
夢が広がるとはこういうことを言うのだろうか。
ようやくこの無間地獄を作った原因を特定出来るかもしれないだなんて。しかももしその血筋を引くものがその犯人以外にも複数名いたら?
そんな事がもし分かれば、なし崩し的に時に関わるスキルを保有している可能性のある人達が分かるというもの。どう考えても時を操れるような人材は我が派閥に欲しい。
時の加速、時戻し、あるいは時を止めると言ったことももしかしたら可能なのではなかろうか。
時の加速がそのまま直下に遺伝し続けているのなら、例えば馬車馬の時を加速させるとかして物流を改善させることができる。あるいは老化の速度を早めるみたいな形で中長期的なスパンでの暗殺に使えるかもしれない。
私の都合のいいように時を止め、必要であらば時を巻き戻して私にとって都合のいい歴史をこの世界に刻む……ああ、素晴らしい。まさか報復に留まらず薔薇色の未来まで夢見ることが出来るだなんて!
それにしても犯人を見つけ出せたら、どうしてくれようか。やはりこの手で直々に八つ裂きにするべきなのだろうか。
「ど、どうしてこんな事をするんですか!?」
ああそうだ、どうせならいっそ何度でも八つ裂きに出来るように、不敬は承知で、殿下を魅了して回復させ続けるのもいいだろうか。
また闇ギルドから件の魅了の指輪を取り寄せて殿下を魅了して、あとは殿下の御力で忘却の魔道具も準備して、殿下が魅了されている時の記憶を全て消す手筈を整えて。
そうしたら私が考えうるありとあらゆる苦痛を味あわせて、死にそうになったら殿下の回復スキルで再生させて、未来永劫苦痛を刻み込ませ私の心行くまで堪能させて……
いや、待てよ。
それこそ適度にその下手人に時を巻き戻させて、また一から丁寧に壊していくのも乙なものかもしれない。
完全に壊れたら忘却の魔道具で下手人の記憶を消して、また新たにじっくりと壊れゆく様を堪能して……
ああ、夢想するとはこういうものなのかしら!
「ちょっと、サマラ! 聞いてる!?」
……ん?
「……へっ?」
完全に意識が飛んでいたせいで、全く現状への理解が行き届いていない。
何か知らんけどいつの間にかなんか居るわ。はあ。この子もほんと敵でさえなければいっっくらでも有効活用できるのに……
「ねえ! どうして私の事を突き飛ばしたんですか! 謝ってください!」
「突き飛ばす……? まあ、ごめんなさい。私としたことが、考え事をしていて完全に気もそぞろで……お怪我はございませんか?」
「えっ?」
なんだか知らないけど、どういう訳かなんか怒っているので適当に謝っておく。ああそうだ、ちょうどいいところにネールがいるわね。
「ねえネール、申し訳ないのだけれどもトレイソン嬢を医務室まで念の為に連れて行ってくださる? あとはそちらの殿方も……」
「は、はあ……」
「えっ、俺ですか!? いや俺は怪我してないですけど……」
「あら、そうでしたか……ではごきげんよう皆様」
「えっ? えっ? いやちょっと待って、私そもそもまだアンタに自己紹──」
なんかとりあえずネールに投げておけばなんとかなるでしょう。
ネールとそもそもずっと一緒にいたことすら忘れ、私視点ではなんかちょうどいいところに湧いてきた認識のネールに、私は全てを投げることにした。
そうして彼女らを適当にあしらっておいて、私は一人で廊下を再度歩き始める。
ああ、それにしてもどんな拷問がいいのだろうか。
せっかくだから私の知見が深まるような拷問が良いのかもしれない。良い機会だから人体の作りというものを直接見てみたいから、丁寧に皮を剥ぐところから始めた方がいいのかしら。
あるいは肉体的なものではなく精神からアプローチを試みるのも悪くないかもしれない。より効率的に人を壊し、魅了などなくとも私の傀儡となってくれるようなそんなものを開発するというのも実用性があっていい。
「な、なあ、なんかバガリー様の様子おかしくないか?」
「具合でも悪いのかしら? なんか上の空というから何も目に入ってないみたいな……」
「バガリーってかバグリーじゃんあれ」
「大丈夫かしら……」
ああ……うふふ……犯人は一体どんな顔をしているのだろう。こんなにも人のことを夢想するだなんて、殿下と恋に落ちた時以来なのではなかろうか。むしろこれは最早恋と言っても差し支えないのではなかろうか。
会ったら一緒にあんなことやこんなことをしてみたいだなんて、これではまるで私が恋をしているみたいではありませんか!
でも実際に恋焦がれる乙女であるかのように、会える日をこんなにも待ち遠しくしているのだからあながち間違ってもいないのかもしれない。
しかも相手がどんな方なのかを少しでも知りたいだなんて、まるで文通を始めたばかりのいじらしい小娘のような……これ当たらずとも遠からずなのでは……
ああ、本来なら憎むべき相手なのに、こんなにも対面することに恋焦がれているだなんて、私も性病に掛かっても強制治癒できちゃう系聖女病が移ってしまったのかしら……




