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傲慢悪役令嬢VS極悪魅了聖女  作者: 星キノ
悪役令嬢の章
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A-G-4 小骨の多い魚の特徴

 悩ましい。

 せっかく久方ぶりに見つけた手がかりかもしれない物を、今調べてしまってもいいものか、ずっと私は悩んでいた。


 現状の私は不利であると言わざるを得ない。

 今までの私は不利である周回ではあまり深追いをしないように務めていた。それで万が一にでも私の未来が確定してしまうことを恐れていたためだ。


 しかし今はどうだろうか。

 正直、私は永遠に続く学園生活という牢獄にはほとほと飽き飽きとしている。最近では王太子妃になると言うことよりも、この無間地獄からの解放を望んでしまっている。


 それに、今まで不利な周回では動かなかったせいで、情報を得られていなかったという可能性もある。

 現に今回は不利周回の最中で数年、いや十数年振り位に新しいモチベーションを手に入れることができた。


 ここは攻めるときなのかもしれない。


「ターナ」

「はいお嬢様」


 学園の廊下を歩いていた所で、私は意を決して立ち止まり、彼女に指示を出すべく振り返った。


「この間の助祭についてだけど、やはり至急調べて欲しいわ。出来る?」

「期日はいつまでとなりますでしょうか」

「卒業記念式典が来る前に情報が欲しいわ」

「……手段は?」

「問わず」


 もうさほど時間はない。

 だからこそリスクを飲んで、また私は攻める。

 だから手短にそう指示を出していた、その時だった。



「──あっ、サマラだぁ。うっふふっ」



 耳の中を突如舐り回されたかのような不快感が、私を襲った。遂に私の耳が腐った! どうしてくれる!


 ところで、騒音問題で問われる可能性のある主な犯罪や罰則は以下の通りだ。


 1. 軽犯罪法違反(静穏妨害の罪)

 衛兵など公権力が制止しているにもかかわらず、楽器の音や大声などを異常に大きく出して近隣に迷惑をかけた場合、軽犯罪法違反となり1日以上30日未満の拘禁刑となりうる。


 だが私としてはやはり私は将来の王妃故、その将来の王妃を害した罪は重いため軽犯罪としてではなく凶悪犯罪として以下の通り扱いたい。


 2. 暴行罪・傷害罪

 騒音が度を越えており、心身に物理的な影響(鼓膜の損傷や頭痛、睡眠障害など)を引き起こした場合、傷害罪や暴行罪が適用されるケースがあるわけだ。傷害罪の罰則は15年以下の鉱山労働または軍船漕役刑(そうえきけい)(軍船の漕ぎ手)。


 というわけで、今回は声を聞くどころか視界にとらえただけでも……いや、その視界にもいなくてもその姿形を想像しただけで激しい頭痛がするのだからこちらが適用されるべきである。しかもほら、私の鼓膜を損傷しているし。あの不快な音波兵器は耳にしているだけで耳腐るし。耳を腐らせるとか法的には損傷でしょ。

 しかもコイツ聖女のくせに私には癒やしをしてくれないし。まあ癒やしではなく卑しい(・・・)が伝染るからこちらからも願い下げなわけだけれども。

 それでも目下の小童なんだから本来なら素振りというかポーズぐらいはしてくれてもいいと言うかするのが礼儀というものだが、私にはその最低限の礼儀すら見せない。バカにしてるの?

 愚問か。今まで人のこと散々馬鹿にしていたわ。それに礼儀なんて持ち合わせていたらそもそも私ここまで嫌っていなかったわ。

 やはり不敬罪……不敬罪で断崖絶壁から身投げをさせるべき……


 女であろうと私は容赦しない。

 紡績工場でのお裁縫で済むと思うなよ。最低でも鉱山。だって癒しできるんでしょ? 労役刑とは刑罰の名目で経済活動をさせるということ。作業効率的にも肉体労働させるに決まってるでしょうが!

 寝ずに働け! それを出来るだけの力がある分際でそれをしないとは何事か!



「まあ、借りてきた猫のような態度は所詮借り物でしたか」

「はん、アンタとその手下しか居ないのにその必要ある?」



 ……それは一理あるわね。


「まあいいですわ。無礼なのはどうせ脳髄の果てまでそうなのでしょうからもう今更気にしませんが……」


 ……じゃなくて!

 そういう問題では無いのよ。私は別に未来の虜囚如きに用はない。

 私に話しかけられてもいないのに私に話しかけてくる事に対する無礼うちをする時間ももはや惜しい。


 この周回は、攻めることに全ての意識を注ぐ。


「なんと無礼な! このお方がバガリー家侯爵令嬢と知っての──」

「いいのよ、ターナ。そんな事よりも今の件、急いで。時間が惜しい」

「……承知しました」


 本当に興味無さすぎてターナへの指示を改めてしていると、のちの炭鉱婦が片眉を上げて見せた。

 ターナが踵を返して消え行くのを確認し再度振り返ると、まだ容疑者が私の前にいた。なんでツルハシ持ってないの? さっさと掘れ。

 あー待てよ。ツルハシなんて凶器持たせたら暴れそうね。やっぱ鉱山労働はナシで。そうなるとやっぱり軍船の漕ぎ手がいちばんね。船の最下層で寝起きして盛大に船酔いするといい。



「……何を調べてるの?」

「お前には関係の無い話よ」

「助祭がどうのって聞こえたけど?」


 ……聞かれていたか。

 まあいい。闇ギルドとかそう言った直接的な言葉は聞かれていない。聞いたところで分かるはずあるまい。

 いずれにしても関係の無い話よ。やはり言葉が通じない。

 言葉が通じない輩とわざわざコミュニケーションをとる必要はない。骨折り損のくたびれ儲けだ。



「ではごきげんよう」

「ちょっと! なんで無視するのよ!?」


 いつものように乱暴に掴みかかってこようとするのを華麗に躱すと、彼女はその場でよろけてみせた。

 もうその人の腕を雑に掴もうとする動作も何百回と見てきた。


「まあ、なんて不潔な。それになんですかそのガッサガサで卑しい前足(・・)は。まさか扇をあぶらとり紙か何かと勘違いされているのかしら?」

「はあっ!?」


 どうせこの嫌味も通じてない。意味を理解していないだろう。多分不潔しか通じてない。


 再度掴みかかってくる動作をまた見切ると、彼女の顔が赤らんでいく。


「まあ。その真っ赤なお顔、おサル様の猿真似芸も大変上達されたようで」

「……」


 なにかを話そうと口を開けようとして、そのまま山猿はその口を閉じた。

 猿じゃなくて魚だったのかしら……きっと泥臭い淡水魚なのでしょうね……


 なんてことを考えていると、彼女はチラリと下(・)を見た。


 言い忘れていたがここは二階、そしてここは階段の前だ。


「えっ?」


「きゃああああああっ!」


 鼓膜に小骨を差し込まれたかのような、不愉快な音。言うまでも無く音を発したのはあの魚人だ。鼓膜破壊罪。舟を漕げ。


 ──ああ、鼓膜破壊罪ってことは、今日がその日だったか。

 通りで階段ダイブなんてするわけだ。


 ……どうでもいいことだけれど、私は顔の尖った魚が嫌いだ。何が嫌いって、小骨が基本的にめちゃくちゃ多い。

 魚の顔の尖り方と小骨の量には概ね正の相関がある事を知っている人は実は少ない。

 例えばニシンとかイワシとか。サンマなんかも小骨が多い。タチウオとかもそうだ。あとはなんと言ってもハモ。人間様の喉を刺し殺そうとしてるとしか思えない量の小骨を持つ魚は全て顔が鋭い。人に向かってなんだその凶器のような鋭い顎は。お前はうら若い乙女が羊皮紙(ノート)の裏(隅)に落書きした男のイラストか。

 ちなみに、タラとかカレイは小骨が少ない。そしてこいつらは、顔が丸い。つまり顎は丸い方がいいと言うわけだ。QED。


 話がそれたが、それでも、私は顎で人を刺せそうなお魚と、目の前でなんか回転して死んだ魚みたいに腹を上空に向けているマンボウ女と比べたら、私は顎で人を刺せそうな方々を躊躇なく手に取るだろう。そういえば色合いも心做しかマンボウな気がする。なんかピンク色のマンボウっていませんでしたっけ? 文献でしか知らないから詳しくは無いのですが……あれ、そういえばマンボウって億単位の卵を産卵するって何かで読んだような。


 ……ハッ!

 まさか産卵期のサンドワームみたいだと思っていた伏線がここで回収された!?

 急いでハモ様をパリッパリに焼いてハンマーで叩いて鋼になるまで鍛えて投擲武器として使ってマンボウを貫かなくては。そう考えるとなんかおハモ様って暗器の代わりになりそうで素敵ね。それであの魚のようにおくちを間抜けなツラしてパクパクさせてる女の口にダンクシュートしてやるのだ。うん、それがいい。



 ……さて、何故こんな現実逃避をしているかと言うと、先ほどの謎の魚類が階段をダイナミックに転げ落ち、その際に超音波を上げたためだ。まあ魚類はほとんど足がないからね、仕方ないね。

 しかし毎周回恒例のイベントと化してるとはいえ、いつ見ても素晴らしい受け身の取り方だ。そこだけは評価できる。受け身じゃなく刺し身にしてやりたいところではあるが。

 とうせ魚の知能しかないのだから半身だけ捌いて水槽の中に放り込んでしまいたい。確か骨泳がしだったか。異国の地における魚の活け造り技法の一つと聞く。私は動物愛護の観点から正直好きではないが……まあ奴は動物未満なので平気だ。


 それにしても今回は狂言ダイブと来たか。

 前回はコノーエ伯爵令嬢が突き落としてた気もするが、ここの場面も毎回展開が微妙に異なるのが気になるところだ。どこかでまた蝶の羽ばたきがまた作用しているのか。


「なんだ今の声は!?」


 階段の最下層へと転げ落ちたつみれ団子が華麗に受け身を取りきると共に、下層階がにわかに騒ぎ始める。

 私の姿を見られて冤罪を嵌められてはたまらないので、私も即座に踵を返しターナを追うようにその場を去った。

 どうせなら受け身に失敗して練り物のように骨をすり潰すレベルで砕いてしまえばいいものを。それも頭蓋骨辺りだとなおいい。


 ……まあでもそうすると時間が巻き戻ってしまうか。

 どうせ時間が巻き戻るなら、あのはんぺん女が居なくなったあとの世界を少しでも堪能させてくれればいいものを。


 全く、不便な現象だ。

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