第83話 若者たちはエルフと葡萄酒を共に分けあい、聖なる書で御子と旅立つことに……
「祝祷はジュリエットさまにお願いできますか?」
「最後の祝福の祈りですわね。いいですわよ。」
ジュリエットが加わり、社長が見学。聖餐の食事が続けられた。
「それぞれワインを手に持ってくださいね。
お祈りします。私たちのために御子の血が流されました。主は言われました「この杯は、あなた方のために流される、わたしの血による、新しい契約である」と、御子の血によって刻まれた新たな契約に感謝し、あなたの血であるこのワインをいただきます。この新たな週、新たな歩みを始めた者たちとあなたが共にいてくださることを感謝します。
アルーナ」
「「「アルーナ」」」×一同
一同は片手で包めそうな小さな杯のワインを飲み干した。
「以上で、聖餐の食事は終わりです。聖なる書のイメージだと、神に示された人が立ち上がり、祝福の祈りをし、別の人が続けて示されたら、前の人は座り、次の人が祈るのです。が、今日は、初めてですので、祝祷をお願いしました。」
「ジュリエットさま、お願いします。」
「りおんから指名されたので、お祈りするわね。
神より魔法を賜りしこの世界にて、魔法の無き世界から新たに友をお招きくださり、ここに新たなる交流が始まりましたこと、感謝申し上げます。あなたの恵みによって、今日、共に主の交わりができましたことも、感謝に絶えません。
私にとっても、御子が死に渡された世界からの友人を迎え、共に種入れぬパンと葡萄酒と食事の集いに参加できたことも、素晴らしいことです。私たちの小さな信仰から、彼らはあなたを見出しました。同じく小さな信仰の灯火です。小さな灯火ですが、大きな魔法の力を持つ友と、その仲間である友たちもです。彼らも確かな魔法の知恵と知識を持っています。これらの力が、あなたの国の民たちのため、あなたのための大きな力になりますように。
あなたが大切に、私たちと共に育ててくださることを信じます。
愛する人々と共に……。
国と力と栄とは限りなくあなたのものなればなり。
アルーナ」
「「「アルーナ」」」×一同
「ジュリエット、ありがとう」
「えぇ〜ん。ジュリエット姉さま〜友って言ってくださった。」
「ジュリエット姉さま、今日のワンピースも素敵です。」
「あゆみ、泣き止みなさい。カエデ、違いわかったの?」
「蔦の種類が違いますよね。それから刺繍の位置も……。」
「すごい子ね、絵画を描く目なのね。……カエデママ、この子すごいわね。」
「えっ?ありがとうございます。」
「ジュリエット姉さま、これからもよろしくご指導ください。」
「ジュリエット、素敵なお祈りをありがとうです。」
「ことり、シナモン、こちらこそよろしくね。あなたたち、次は直接御子さまに繋がりなさい。必ず出会えるわ。……ここにいるみんなもよ。」
「どうすればいいんですか?」
「聖なる書から御子さまの声を聞きなさい。」
「直接聞けるんですか?」
「さっき、りおんが話してたでしょ。」
「ジュリエット、そこから聞いてたんですか?」(笑)
「そうよ。……頭から読むと、つまずくわよ。……マルコの福音書からがいいわね。」
「マルコですか?」
「なぜって?……マタイは系図から始まるから、最初で飽きて、躓くのよ。」
「僕はヨハネが好きですね。柔らかい文章だし。」
「マルコ、ルカ、ヨハネと読んで、気に入った福音書をもう一度読んでもいいわね。マタイはその後ぐらいでいいわよ。あれ、長いから。」
「確かに。それはおすすめ」
「大切なのは、物語に没頭することよ。聖句を覚えようとか、御子さまの言葉を覚えようとか思っちゃダメね。それは失礼なことよ。だって、まだ知らない人なんでしょ。最初から尊敬してたら、本質わからなくなるわよ。」
「そうだね。御子さまも人として歩まれた人生がある。それを一緒に歩いていく。それが大事だね。……こんなこと言うと不敬って思う人もいるけどね。」
「教訓をもらおとか思って、ついていくのは、10年早いわよ。」
「誰かと共に歩めば、その人のこと覚えて思い出になるよ。」
「あ、だから、毎日読む通読には反対なんですね。義務で読むのではなく、御子さまと一緒に歩んで思い出にしろってことなんですね。」
「反対はしないよ。僕はお勧めしないってだけです。」(笑)
「緑山、淑子って呼んでいい?あなたの中に御子さまの人格が住まわれるの。擬似的な表現よ。……結局はその方が、記憶に残るわよ。必要な時には、直接語りかけてくださるわ。」
「はい。淑子が嬉しいです。御子さまの物語、楽しんでみます。」
「そのあとは、また、読めた頃に、次のこと聞くのよ。」
「りおちゃん、聖なる書って、どこのでもいいの?」
「家にあれば、それでいいよ。変なところのもあるけどね。気になったら、見るから持ってきて。」
「お勧めある?」
「あちらの世界では旧教のフランシス会のがいいですよ。」
「二人は新教なのに、旧教の訳なの。」
「誠実に研究されて作られたって聞いたから、読んでみたら、読みやすくて、分かりやすかったんだ。解説やタイトルつけてるのも面白いよ。」
「旧訳も買った方がいいの?……新しい訳だけじゃダメなの?」
「康太、素晴らしい間違いをありがとう。」
「えっ?」
「りおんちゃん、意地悪。……康太、新約は新しい契約ね。旧約は古い契約。御子さまが罪を贖ってくださる前と後の契約ってこと。」
「あ、そうなんだ。あさちゃん、ありがとう。勉強になりました。」
「どういたしまして。最初に買うのは新約だけでいいわよ。」
「古い契約を知る前に、新しい契約をよく知る方がいいのぉ」
「あ、ドボルジンクさま、おはようございます。」
「りおん、なんか面白いことをやったようじゃの。」
「突然ですが、若い者たちに請われて、聖餐の食事を行いました。」
「パンを食べ、食事をし、葡萄酒を飲んだのかのぉ?……それは素晴らしいのぉ。」
「ドボルジンク、ちょっと遅かったわね。私、後半参加しましたわよ。」
「ジュリエット、どうじゃった?」
「りおんとあさの考えたやり方は、私たちと同じでしたわ。」
「ギターとオルガンが置いてあるということは、讃美歌も歌ったのかのぉ?」
「あ、歌ってませんわよ。私が来てからは歌ってないわね。……赤くて小さな可愛いオルガンね。」
「あれ、ピアノです。オルガンの音も出ますけど、基本はピアノです。」
「ピアノ?」
「オルガンは、リードやパイプを空気で振るわせて音を出しますよね。ピアノは弦を叩いて音を出します。ただ、これはそれを電子的に再現してる楽器です。」
「電子ピアノって言います。」
「弾いてみます?」
「お願いできる?」
「何弾くの?」
徐に、軽快に鍵盤からコロコロした音が響き出した。まるでノエルとスノーが転げ回っているように。あら、テーブルの下を転げ回ってるし。子犬のワルツに合わせて、2匹が嬉しそうに駆け回っていた。
「可愛い曲だわ。なんて曲?」
「子犬のワルツですね。」
「だから、ノエルたちが遊び始めたのね。」
「ギターはりおん?」
「ええ、僕は伴奏屋です。讃美歌の伴奏係やってたんです。」
「あら、りおんちゃんのフォークソングの弾き語りも大したものよ。」
「シナモン、ありがとう。」
「じゃ、みんなで歌えるから、アメージングレース歌う?……あさ、コールしてね。」
ギターをアルペジオで弾き始める。前奏に少し、メロディも乗せた。
「おどろく〜 ばかりの〜
めぐみなりき〜
この身の〜 けがれを〜
しれるぅわ〜れに〜」
最後までみんなで歌った。世界一有名な讃美歌だもんね。
「優しい良い曲じゃのぉ。初めて聞いたが、御子さまを思う心がようわかる。」
「奴隷交易船の船長が、自分の罪を悔い改めて、その後作った曲です。」
「うむ。悔い改めから、贖われた身の置き所が、よう表されておるのぉ」
「こちらにも賛美歌はあるのですか?」
「うむ。あるにはあるが、古いのぉ」
「使徒さまが伝えた曲だと聞いてるわ。」
「それは聞いてみたいですね。」
「今度一緒に聖餐の食事催しましょう。その時ね。」
「わしなら、今歌えるぞ」
「ドボルジンク、今日はやめときましょう。二人の声は合わないわ。」
「そうかのぉ?わしは誰とでも合わせるんじゃがのぉ?しかたがないの。」
どうやら、ドボルジンクさまの歌声は、あの声のままで、音程がないらしい。本人歌が好きなので、周りは困っているのかも。ジュリエットがんばれ!
聖餐の食事は終わりましたが、現時点で6日目。なのに6話目。物語はまだ朝なんです。もうすぐ100話、その頃には6日目は終わって……なさそうですね。平穏な営業ではなさそうです。色々起こりすぎて、濃密で、時が進みにくい物語です。
これからもお付き合いください。よろしくお願いします。
この物語では新約聖書の主役である方は登場しません。あくまで小説の中の宗教として描くため、御子という表記にしてます。ご理解ください。作者にとって、師でありヒーローである方の名前を、物語で使うのは、ちょっと憚られました。
また、「アーメン」も物語だと意識づけしたくて、「アルーナ」という造語に変更しています。ご理解ください。アーメン=本当に=それあるなぁ〜=アルーナという変遷かどうかは、ご想像にお任せします。
物語の中で、おすすめした聖なる書のモデルは、フランシスコ会聖書研究所訳の聖書です。旧約付きと、新約のみ、両方あります。訳註付きなので、結構重いです。言葉もフォントも優しくて、好きです。奇跡と書かれてますから、確かめてくださいね。




