第33話 魔法契約は、納得の上で…
秘書課とドライバーの5人全員が納得してから、秘密保持魔法契約を締結したい。こういうとき、「丁寧に説明」したって、人の心は動きません。想いを受けて、希望を聞いて、納得点を探ること。どんな会議も、そういうのが基本だよね。そうありたい。
オタクの内定社員さん。異世界に興味が出て来て、出るわ出るわ、質問の嵐になって来た。少し信じたいと思ったってことかな?
「事実は小説より奇なりですよ。」
「昨日、うちの大婆ちゃん。高校生たちの曽祖母ちゃん。エルフと猫娘さんの冒険者パーティーとご飯食べてました。妖怪じゃなく、獣人さんね。隣の座卓にはドワーフさんとお侍さんが晩酌してました。」
「え、お侍さんもいるんですか?」
「甥っ子助けてくださったのは、剣客の秋山先生ですよ」
「秋山小平? 本物?」
「武士なのは本物ですけど、子孫ではないです。先祖は物語上の人物ですからね。」
「ダンジョンもあって、秋山先生に聞いたのは12階層まで、もっと奥もあるらしい。12階層は海階層ですって。」
「そこで獲った2m級の鯛、うちの冷凍倉庫に隠してるよ。見たい?」
「「「「「うんうん」」」」」(首是)
福の神と柳田さんで運んで隠したらしい。
「あっちとこっちの行き来はドアを開けて通るだけ。スタッフ全員毎日こっちの自室で寝てるよ。」
「特務事務所(仮)の3〜6階が独身寮。入れるよ。寮の賃料は危険手当をつけるこっちでの理由がないから、代わりに無料。」
「「「「「おおおお」」」」」
「お家暮らしの柳田さんは機密保持契約手当にしたんだっけ?」
「一応そうですね。」
「高校生バイトの親御さんはりおん店長の家族なので、秘密保持魔法契約の上、話してます。昨日も電話したよね。」
「ただ、成人社員の親御さんに負担をかけるのは申し訳ないので、基本は話さないでもらいたい。」
「まぁ、秘密保持魔法契約するとあっちのこと喋れないんだけどね。」
「あっちではこっちのこと、基本喋れるから、気をつけたげてね。」
「文明差で知らせない方が良いことだらけだから、コンビニの経営に必要なことだけにして欲しい。」
「ギルマスがバイトちゃんたちが高校に通ってることを冒険者に話してしまって、姪が苦労して誤魔化したみたい。あっちで勉強してるの装ったって。」
「おいおい考えていけばいいから、難しくはないよ。」
「りおん店長もなんだかやらかしてましたそうですよね。」
「やらかしたのは、別のことですよ。」
「そうですかぁ?」
「りおん店長の言ってること信じたのは、ゲートを先に見せられたからだよ。妹に誘われて、りおんさんの家に行って、近所のゲートに行って、話を聞かされて、入ってみろと言われて、現地を魅せられた。その時は邸宅の中にゲートがあった。」
「こっちのゲートも現状は事務所内に固定されました。」
「僕も知りたい、りおん店長の正体。」
「え?普通のフリーランスの書籍・WEBクリエイターってやつですよ。」
「「「「「妖しい」」」」」
「うん、肩書きからして怪しい」
「自分でもなんでこんなことになってるのか、わからないんです。」
「そのうち、わかったら、教えてもらおう!」
この後も、質問は続いた。
「魔法って、すごいんですね。一瞬でドリンクコーナーからレジまで飛べるんですね。」
「飛ぶっていうより、次の時にはそこにいたって感じだよ。」
「ダブルダッチが流行りそうなの?」
「こっちのよりすごいのが始まりそう」
「私たちも魔法使えるの?」
「使えるかもって、高校生たち練習始めてるよ。魔法使いさんが教えてくれるって。」
などなど。
「休憩というか、質問タイムも落ち着いたから、トイレ休憩いる?」
「僕が行きたいです。」
「私も行かせてもらいたいです。」
「「「「じゃ、行きたい!」」」」
ということで、一旦トイレ休憩。
「どうやって、あの子達見出したんです?」
「企業秘密です。」
「お庭番とか、こっちにも居そうですね。実くんとか? 福くんとか? ミナさん、ことりちゃんは“く乃一”?」
「あは、だいたい合ってます。柳ってついてるの、気になります?」(笑)
はてさて
「じゃ、そろそろ結論出してもらおうかな?」
「結構大きな人生の分岐点だと思うから、気にせず、決めていいからね。」
「一緒に行けない時は、全部忘れるから、心配しないで。」
「それはそれで寂しいですね。今日のことはせめて覚えておきたかった。」
「ごめんね、もう魔法発動してあるから、契約しないと忘れるんだ。」
「こっちの文明に、そんな道具ないですよね。」
「あ、忘れてた、あっちの言葉勉強したいって何人か言い出してるんだけど、今は翻訳魔法があって、すぐに話せるし、読めるから、勉強の必要なし。しばらくしたら、魔道具師さんが改良して勉強したい人はできるようにしてくれるらしい。」
「え、そうなの? 聞いてないよ」
「昨日、ことりちゃんがドボルジンク様にお願いしてました。」
「女の子の頑張りがすごいね。」
「ですね。男の子もこれから、頑張ると思いますよ。」
翌日、すごく頑張った奴がいたが、それは後のお話。
あれは、頑張りすぎというもんだな。
「あささんたち、そろそろお仕事開始ですかね?」
「今日は9時からですから、こっちの会社と同時には仕事始めてますよ。」
「りおんさん、働かせすぎじゃないですか?」
「決めた時、社長お店にいたでしょ!」
「え、夜もお店行ったんですか? 夕飯の弁当渡したでしょ!」
「うん、お腹すいて、牛丼食べた」
「あれ?経費決算してませんでした?」
「夜食分はなし?」
「「無し!」」(怒)
「後で払います。」(悲)
「どうせまた行くんでしょ。それを自費で払ってください。」
「柳田さん、優しい。」
「事務処理減らしたいだけです。」(笑)
「コーポレートポイントカードのことで、高校生が見直してたのに、これ話したら、ランク下がるね」
「「「「「社員のポイントも下がりました。」」」」」 (笑)
「で、ここで帰る人いる? 気にせず手を上げてくれていいよ。」
「社長のポイントダウンのせいで、全員帰るって言われそうですよ。」(笑)
「異世界あるなら、私は行きたいです。」
「僕も行ってみたい。」
「私はちょっと怖いけど、強いお侍さんやかっこいいエルフのお姉さんがいるなら、行きたい。完璧コスプレ目指します。」
「姪が同じ動機で完璧漫画家目指してるよ。仲良くしてやってね。」
「某アニメの鬼秘書を目指したい!」
「あ、そこは普通の秘書でお願い。」
「異世界でトラック、爆走したい。」
「トラックはあっちに持って行かないけど、こっちでトラック担当。毎日あっちに走覇は行けるよ。
御者はやってもらうかも。」
「「「「「私(俺)たち、異世界行きます。」」」」」
「「「よろしくね。」」」
うん、いい子たちでよかった。どうやって、こんな変わった子達、集めたんだろ? そこが知りたい。お庭番組に後で聞こう!
「じゃ、あとは秘密保持魔法契約だね。りおんくん、お願いします。」
驚きの人事の内幕を聞いて、本当だろうかと訝しみつつも、5人の新メンバーは異世界行きの決断をした。その場で結論を出してもらうしかないとはいえ、無茶振りだったことは否めない。午前中の勤務時間だけで決断した5人の若さと、心の柔らかさに感心している。
「じゃ、あとは秘密保持魔法契約だね。りおんくん、お願いします。」
「社長でもできるのに。」
「りおんくんの方が早かったし、なんかね綺麗な魔法だったよ。」
「褒め上手〜。終わった後の脱力感が嫌なんでしょ。」
「役割つけなきゃ、逃げたでしょ。それにね、僕は3人ぐらいでバテます。魔力少ないみたい。」
「それはあるかな? あっちにいる時間が長いからか、10人以上はできそうな感じする。」
「この魔道具、魔力人間から持っていくよね。」
「そうですね。そんな感じです。人の脳に働かせるためには必要なんですかね?」
「こんど聞いてみたら?」
「そうします。」
「雑談はそれくらいで、お昼には、あっちに行きたいから、そろそろお願いします。」
「「はい!ごめんなさい。」」
じゃ、順番にこっちに来て、この水晶に手を置いて、
「「プレオダンジョンの世界の方以外にはあの世界のことを話しません。秘密保持魔法契約を締結します。」って言葉で誓ってください。」
「この魔道具、プレオダンジョンの秘密をあちらを知らない人に話せない魔法契約なので、スタッフ同士の会話は可能です。聞かれそうになったら、話せなくなります。録音機、盗聴器も対象です。だから、あっちの店内カメラは録音・録画できないんです。スマホのカメラもあちらでは使えない。魔法って、すごい。」
「え、そうなの?それで、店内カメラ録画してないの?」
「そうなんです。向こう用の録画機器、魔道具師さんに作ってもらうしかないですね。」
「秘密保持魔法契約を守ります。」だけでも契約可能なんですが、意識を持ってもらうために長くしたらしい。日本人だなぁ〜
「私、緑山淑子はプレオのある世界のことを、あの世界を知らない人には話しません。秘密保持魔法契約を守ります。」
ピカッと魔道具の水晶が光った。彼女の全身を包み、契約魔法が発動。その後も引き続き…
「僕、天童義隆は…中略…守ります。」
「私、エレン・カーマイケルは…守ります。」
「私、山野みゆきは…守ります。」
「俺、国道走覇は…守ります。」
5人全員ピカッと水晶が光って契約魔法が発動した。無事、異世界に行く準備が整った。
「じゃ、特務室新事務所(仮)に行って、ダンジョンにレッツゴー。」
「その前に、社長から辞令の交付と会社用の『契約内容の更新書』『機密保持契約』『守秘義務契約』にそれぞれサインをお願いします。」
「はい、辞令」
「「「「「えっ?」」」」」
辞令を適当に渡す上司、けっこう居ますよね。いない? 居ないかぁ〜。居た方が会社面白くなるのに。残念!
本当の意味で、丁寧に説明してくれてるのは、だいたい柳田さんのセリフです。適当上司の中に誠実な柳田さん。この物語の清涼剤です。




