第106話 エレンの父親はかなりの大物だった。社長なら確認しとけよって睨みたくなった
「初めまして。ファミリストップ社長の鈴木鴉瑠之でございます。」
「初め……まして。ではないですね。アルノ社長、ご無沙汰して〜います。スコットランド開発庁のリチャード・カーマイケルでございます。」
「あ、ご無沙汰してます。いつもはスーツ姿ですから、うっかりしました。」
新事業棟の玄関で、お二人をお迎えした。こう言う時は柳田さんの横で隠密に徹しておかないとね。
「お父様と、社長って、お知り合いなんですか?」
「そうよ、エレン、だからファミプに就職したいって聞いた時、私もお父さまも喜んだのよ。いい会社だって。」
「奥さまも、お久しぶりです。パーティーではいつも兄と共に、お世話になってます。」
「シナモン、ちょっとふわっとして、優しい表情になりましたね。」
「そうですか。」
「ママ、シナモン先輩とあささん、ご懐妊されたんですって。」
「「えっ?なんでエレンちゃんが知ってるの?」」
「ふふ、SMSが飛び交ってましたよ〜。」
「おめでとうございます。大切になさってくださいね。」
「「ありがとうございます。」」
「暑いので、まずは室内へ。私たちのご挨拶は、そちらでよろしいでしょうか?」
「あささんね。エレンがお世話になってます。昨日、帰って来てから、ず〜とあなたの話を聞かされてたんですよ。」
「それは……、そんなに話すことありましたか?」
「ちょっとあなたに嫉妬したぐらいよ。……娘をよろしくお願いします。」
「はい。責任を持って、お守りします。」
「あら、指導じゃなく、守ってくださるのね。」
「こちらへどうぞ、ご案内します。」
ことりがスーツに着替えて、案内してくれた。くの一スキル恐るべし。
『ねぇ、エレンちゃんのお母様、鋭すぎない?』
『ちょっと気をつけてね。一時記憶忘却魔道具、起動しておくよ。多分、必要ないけど……』
『りおちゃんがそういうなら、大丈夫ね。』
……念話便利。
はてさて
「粗茶でございます。」
「車の中とはいえ、暑かったでしょ。冷たい麦茶です。喉を潤してください。」
スーツのことりと店の制服から高校の制服に着替えたあゆみが茶菓を運んだ。
お二人とエレンが三人掛けのソファーに座り、アルノとシナモンが両端のひとり掛け。向かいのソファーに、あさと僕がそれぞれ座った。アルノ達がこっちだろって、少し揉めたが、負けた。
「ありがとうございます。なかなかエレンが、あささんに言い出せなかったのでしょう。」
「ママ、なんでわかるの!」
「親ですもの〜」
「りおん、あささん。カーマイケルさんはスコットランド開発庁の日本代表なんだよ。」
「兄さんと義姉さんと一緒に参加するパーティーでは、ご夫妻によくしていただいてるの。素敵なご夫婦よ。」
「苗字同じなんだから、気付くよね。……普通。」
「りおん〜。……エレンって、いつもみんな名前で呼んでたから、……つい。」
なんだか、アルノらしいミスだ。だんだん声が小さくなっていった。
「わたしはエレンちゃんが両親の来てる言った時には、わかってたわよ。」
「社長は当然わかってると思ってました。」
「はぁ〜」
「改めまして。浅田りおんと申します。エレンさんが派遣され、働いてくださってるコンビニの店長をしています。」
「妻のあさでございます。」
「エレンの母で、この人のパートナー。静江と申します。」
「リチャードです。いつも娘がお世話になってます。」
「店長さん達まで、お忙しいのに、申し訳ございません。」
「今日は、エレンが入る寮を見たいと、伺ったんだが、ファミプの経営陣とスペシャルプロジェクトの店長にお会いできるとは、伺った甲斐があったね。」
「いいえ、それ以上の収穫ですわね〜。……ファミプの今後の事業内容がわかるといいですわね。」
「聞く前に、株買ってきといてよかったよ」
「あら、娘の働く会社に投資するだけだって、おっしゃってませんでした?」
『りおちゃん、私たち、ここに居るだけで、いろいろ見透かされてるわよ。』
『大丈夫。心配しないで。』
「投資していただいて、ありがとうございます。この度、ご息女には特務スタッフとして働いていただくことに伴い、入寮をお薦めいたしました。ご負担をおかけいたします。」
「いえいえ鴉瑠之社長。この子の祖父が、暴走始めたので、私たちにとっても渡りに船なんですわ。」
「『コスプレなんて許さん!結婚させろ!』の一点張りなので、マンション借りて、脱出させようと探してたところだったんだよ。」
「で、エレンの部屋とエレンの働くお店を見学したいのですが、大丈夫ですか?」
「お部屋はこの上です。……働く場所は……。」
「アルノ、お二人は僕らに隠してることがあることは、……気づかれてるよ。」
「おい、りおん、不味いだろ!」
「いろんな意味で、大丈夫だから……。僕らに任せて。」
「やはり、りおんさんはただの店長ではないようですね。」
「ただの開店6日目の店長です。」
「一つ、お聞きしてもいいかしら?」
「はい。なんでもお応えします。」
「エレンの勤めてる店舗は日本の中にはないわよね。」
「はい。でも、どうしてそう思われました?」
「昨日帰って来た時、エレンが聖霊のオーラを纏って帰って来たからね。」
「やはり、リチャードさんは見えるんですね。」
「そちらもだろう?」
「はい。」
「エレンちゃんだけ、あっちの彼女と同じ色の光の魔力よね。」
そばで見守る人は息をする間もないような静かなバトルが続いていた。一人あさだけがリラックスして、ジュリエットとエレンの光の色を比べて楽しんでいた。
「ちょっと我が家の古いお話しをさせてもらいます。」
「エレンも初めて聞く話だから、ちゃんと聞いておくのよ。」
「はい、お母様。」
「私たちカーマイケル家はスコットランド王家に仕える立場の家系です。」
「では、今は英国王家に?」
「いえいえ、英国に吸収されて以来、スコットランドの地に仕えております。と言うより、聖霊に導かれ、御子さまに仕えているのです。」
「だから、味方を表す聖霊の光に包まれておられるのですね。」
「そこまでわかるんですね。」
「「はい。」」
「チェンジリングってご存知ですか?」
「精霊の取り替え子ですね。」
「私の先祖にも一人いるんです。言い伝えだと、その肌はるかに白く、耳が尖り、シルバーヘアの娘であった。とあります。」
「私たちの知るエルフとそっくりですね。」
「彼女は私たちと同じ創造神を主と崇め、御子に仕えておったそうです。」
「エルフだと、まだご存命だったりしないのですか?」
「300年ほど経った時、魔女狩りを恐れて、姿を消しました。元の世界に戻ったのやもしれませんね。」
「江戸時代が始まる前ぐらいまでは、記録があるんですね。」
「我が一族で匿ってましたので、別邸に日記が残ってます。」
「ひと月ごとの出来事をまとめてらっしゃったようですわ。」
「その間の我が家の歴史がとてもよくまとまってるので、当主はそれを引き継がされてます。」
「リチャードは苦手よね。ふふふ。」
「頑張って、続けてはいるよ〜。」
「お子さんはおられなかったのですか?」
「女の子が二人、一人が私の先祖です。」
「エルフの中でも高貴な家系かもしれませんね。」
「なぜそう思われるのですか?」
「高貴な方ほど子どもが少ないそうです。男の子はほぼいないそうです。」
「そのエルフが、伝えたのが聖餐の食事です。我が家でも毎週家族で持っていたのですが、娘に飲ませられないので、水に変えてたので、意味を理解してなかったようです。夫婦でわかってるからって、祈りを略してたのも、よくなかったんですかね。」
「昨日帰って来て、興奮して、話して聞かせられて、この子は理解してなかったのかって、愕然としましたわ。……あささんに嫉妬した理由、わかってもらえました?」
だんだんエスカレートして、口調も過激になってきた。
「なんだか、申し訳ないです。ね、りおちゃん」
「だって、初めてだって思ったんだもん!私悪くないわよね。」
「成人した時、ワインに変えて、一度ちゃんとやったわよ。」
「お酒飲めるのが嬉しくて、食事前に一口飲んだら、記憶なくなった!」
「記念だからって、リチャードが秘蔵のワイン出したのが、よくなかったのよね。」
「ボーっとしたまま、頑張ってたけど、記憶なかったのか〜。」
「あの、お二人、威厳が消えていってますよ〜。」
「こんな娘に育ててしまって、恥ずかしいから、威厳もへったくれもないわよ。」
「そうだね。なんだか僕も気を張るの疲れたから、こっちで話させてもらうね。」
「ほんと、あささん、守るだけでなく、この子の信仰の指導もお願いします。」
「僕たちも、御子さまの聖餐の食事を守ってる民なんです。」
「エレンの話を聞いていて、確信しました。同じ信仰だと。」
「静江さん、お任せくださいとは言えませんが、聖餐の群れの中で、きっとエレンちゃんも成長しますよ。」
「そのうち、聖霊の光も見えるようになるでしょう。」
「エレンちゃんが「パパはクリスマスとイースターしか教会に行かない」って言ってたわけよね。」
「十分理解できました。大集会の教会には参加できませんよね。付き合いで顔を出すだけ、僕らより偉いです……。」
「わたし、聖職者という人たちが怖くて、話せないんです。」
「あささん、色々な目にあったのね。最近は米帝からのニュースを見てるだけでも、……恐ろしいわ。」
「そう言うわけで、エレンの職場が異世界にあるのではと思って、こちらに伺ったわけです。」
「当たってますわよね。」
「鴉瑠之、もう隠す必要はないようだよ。まず、契約をお願いしよう。」
「そうだね、りおん、それでいこうか。」
「静江、リチャード。これから先、見聞きすることは多言しないと誓っていただけますか?」
「いいわよ、シナモン。契約書でいいの?」
「いいえ、秘密保持魔法契約を魔道具で結んでいただきます。実は、一時記憶忘却魔道具というのが、すでに発動してあるので、契約をされない場合はこの部屋での会話は全て忘れてしまいます。」
「そんな魔法まで使って、秘密を守っているのかい?」
「冒険者ギルドと鍛治工房が提供してくださってます。」
「だから、鎌をかけてエレンに質問しても、要を得なかったわけだ。」
「最初から私たちの負けてたわけね〜。」
「では、契約をお願いできますか?」
「こちらこそ、お願いするわ。ここまで来て、エルフさまの故郷を見ずに帰れないわよ。」
「心待ちにしてたからね。僕からもお願いするよ。エレンの職場と、周りの人たちに、ぜひ、お会いしたい。スコットランドの未来のためにも……。」
「では、秘密保持魔法契約を取り行います。抵抗は無駄ですから、ご了承ください。」
エレンちゃん、普通の子と思ったら、普通じゃない子だったみたいです。もしかしなくても、エルフの血も流れてるみたいですね。作者としても、そこは、もう少し詳しい話を聞いてみたいところです。




