↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天穹の双月  作者: すだちなんてん
第一章
84/100

旅立ち(1)

 サキは寝台の上でがばりと身を起こした。

「ここは……?」

 己の置かれた状況が分からず、周りを見回すと寝台の横に置いた椅子に腰かけ、瞼の縁に涙を溜めたマリーと目が合った。

 マリーは突然体を起こしたサキに相当驚いたらしく、唇を小刻みに震わせながらも声を出せずにいる。

「マリー? どうしたの? そんな顔をして」

 サキはマリーへ向かってそう声をかけながらも、部屋の様子から自分が村長の屋敷の以前滞在していた客室に居ることに気づいた。

「アタシ達は遺跡に居たはずなのに、どうしてここに居るの? あれからどれくらい経ったの?」

 次々とマリーへ言葉をかけるが、マリーからの返答は無かった。マリーは先ほどまでは唇を震わせていたが、今度は肩まで震え出していた。

「マリー? もしかして、何か怒ってる……?」

 サキがそう声をかけた途端に、マリーが飛びついてきた。サキは驚いて身構えようとしたが、それよりも早くマリーがサキの胸に額を寄せた。サキは驚いて何事か問おうとしたが、マリーが小さく嗚咽を漏らし始めたのを聞いて、何も言わずに左手で杏色の髪を優しく撫でた。

「急に倒れるから心配したんだよ。今までずっと起きなかったし」

 鼻をすすりながら途切れ途切れに話すマリーの声を聴きながら、サキは窓の方を見た。そちらを見るまで気が付かなかったが、油が塗られた羊皮紙の張られた窓の外からは微かに喧騒が漏れ聞こえて来ていて、建物の外に大勢の人がいることが感じられた。窓の薄茶けた羊皮紙を西日が橙に染めていて、薄暮の頃である事も分かった。

「夕方? アタシ、今日ずっと寝てたの!?」

 サキが上げた素っ頓狂な声を聴いて、マリーはクスクスと笑いだした。それまでは肩を震わせて泣いていたが、今度は笑いをこらえて肩を震わせた。笑いが収まるのを待ってから、マリーはサキの胸から顔を離して寝台の傍の椅子に座りなおした。そのマリーの胸元では、赤い色の制御結晶が銀の鎖につながれて揺れていた。

「三日前からだよ」

「えっ?」

 もう一度素っ頓狂な声を上げたサキに、マリーはもう一度小さく笑った。

「サキが倒れたのが三日前の夜中。そこから丸二日寝てて、今は三日目の夕方だよ」

「嘘⁉ アタシ、そんなに寝てたの?」

「嘘じゃありません。息はしていたから、すぐに目覚めるだろうと思ってたけど、なかなか起きないから心配したんだからね」

 口をとがらせて訴えるマリーにサキは苦笑して「ごめんね」と謝った。

「なにか不思議な夢を見ていたんだ。内容はあまり覚えてないけど、誰かに会った気がする。それから、色んな人が何かを言ってた。……ほとんどが知らない人の声だったけど、知ってる人の声も聞こえた気がする」

――そして、最後に聞こえたのはマリーの声だった。

 それだけは自信があった。だがそれが夢の中の声だったのか、現実の声だったのかは、はっきりとは分からなかった。サキがマリーにそれを問おうとしたところで、部屋の扉が音を立てて開かれ、その向こうから見慣れた口髭の老人が入って来た。

「サキ様! 目覚められましたか!?」

 顔に満面の笑みを浮かべて、リュードッグが寝台に歩み寄る。

「ドグ、悪いね。心配をかけて」

「なんの。それがしはサキ様が元気に目を覚ますと信じておりましたゆえ、心配などしておりませぬぞ」

 カッカと哄笑するリュードッグの隣でマリーが頬を膨らませる。

「それじゃ、私がサキを信じてなかったみたいじゃないですか」

「おっと、これは失礼。それがし、そういうつもりで言ったわけではござらぬが……」

 もごもごと口ごもりながら言い訳をするリュードッグの様子に、サキとマリーは声を揃えて笑った。

 サキはその後、マリーとリュードッグから自分が寝ている間に起きたことを聞いた。

 サキとマリーの助力によって遺跡は機能を回復し、シアンが起動した銀の鎧――シアンが自立装甲兵と呼ぶ鋼の傀儡――によって遺跡に侵入した魔物は殲滅されたこと。

 その後しばらくして、マコク山の火山活動が落ち着いたこと。

 ゴルデを探しに来たキノハ駐留軍の副司令官ガサキマと会ったこと。

 マリーが怪我をした兵士を治療したこと。

 リュードッグが倒れたサキを抱きかかえ、全員で地下道を通って村まで戻ったこと。

 シアンもそれに同行したこと。

 村長のバドが無事目を覚ましていたこと。

 村にガサキマが手配した増援が到着して周囲の安全が確保されたこと。

 ガサキマが兵を率いて再度遺跡へ赴き、死亡したゴルデや兵士の遺体――発見できたものに限られるが――を収容したこと。

 ガサキマの指示で村の復興作業が始まっていること。

 そういったことを寝台の上で一通り聞いたところで、サキは足を床に下ろし寝台に腰かけた。足に力を入れて、ゆっくりと立ち上がろうとすると、三日間寝込んでいたのが嘘ではない証拠に、軽い頭痛とともに眩暈がして体の節々が痛んだ。

「大丈夫?」

 心配そうに問いかけるマリーに手振りで答えると、サキは寝台に腰かけなおした。

「どうやら寝込んでたってのは本当みたいだね」

「無理しないでまだ寝てた方が良いんじゃない?」

「大丈夫、少し経てばすぐに良くなるよ」

 サキがそう言ってマリーを安心させたとところで、戸口の方で人の気配がした。

次回は12/24(土)に更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。