深き孔の底で(13)
「サキ、どうする? 手伝う?」
サキとシアンの会話がひと段落したのを見て、黙って二人の会話を聞いていたマリーが口を開いた。
「マリーはどうしたい?」
「話を聞いていた感じだと、嫌って言える雰囲気じゃなかったわ」
「まあね。でも、だからと言って君の意見をないがしろにはしないよ。マリーがどうしても嫌だって言うなら、何か良い手が無いか考えてみる」
「ありがとう。でも大丈夫よ。私は、出来るならシアンちゃんを助けたいわ。せっかく友達になれたんだからね」
マリーは既に考えがまとまっていたらしく淀みなく答えた。
「えっと、わたくしは別に友人になったつもりはありませんが……?」
シアンが戸惑った様子で訂正すると、マリーは顎に人差し指を当てて小首を傾げた。
「あら? まだだったかしら……? なら、今から私とサキはシアンちゃんの友達ね。友達が困っていたら助けるのが当然だわ」
「そうですか。まあ、助けていただけるのでしたら、友人という事にしておくのもやぶさかではありません」
いささか打算的な友人宣言だったが、マリーは気にしない様子でシアンの手を取って喜んだ。
「サキもそれで良い?」
「それっていうのは、シアンの頼みごとを聞くって事? それともアタシ達が友達だってこと?」
「もちろん、両方だよ」
屈託なく笑うマリーに、サキは小さく苦笑した。
普段ならば、会ったばかりで得体の知れない相手を友人にする事など思いもしないだろう。だが、目の前の年端も行かぬ姿の青い髪の少女を見ていると、サキは彼女を放ってはおけない気持ちになった。
――シアンは自分には魂が無いと言う。人形と同じだと。もし、アタシが彼女との交友を拒めば、それを認めてしまうようなものじゃないか。
ただ単純に、それはサキの癪に障った。人ではない何かとしてシアンを造り、そして人として扱わなかったという古代クレサ人たちと同じ事を、自分もする気にはならなかった。
「わかった。アタシもそれで良いよ。村の方もドグに任せて来たから当面心配はいらないと思うけど、増援が現れないようにしないとね」
さすがのサキも、リュードッグの手に余るほどの魔物の大軍が村を襲う事や、公国軍が村へ来援することは知らない。だが、その事で彼女を責めることは出来ないだろう。
サキの言葉にマリーは村の事を思い出したのだろう。自分の胸を抱くように腕を組むと、心配そうに肩を小さく震わせた。サキはその震える肩に優しく手を置くと「大丈夫」と声をかける。
「すぐにここを直して、アタシ達も村に戻ろう」
「……うん。そうだね」
二人の少女は視線を合わせて互いに頷きあうと、決意のこもった瞳をシアンへ向けた。
「その話を受けるよ。それで、アタシ達はどうすれば良いの?」
「ご協力に感謝します」
シアンは謝意を口にしながら恭しく頭を下げる。
「それではまず、この施設の稼働状況について説明します。当施設は本来、地中の熱を動力源として永続的に動作するように設計されていました」
「地中の熱?」
「はい。この星は比較的年老いた惑星ですが、いまだに各地では盛んに火山活動が行われています。このマコク山周辺も同様で、地中にはマグマ溜まりが複数形成されています。この熱を魔力に変換して当施設は稼働していました。ですが、四世紀前に発生した火山活動の影響でマグマ溜まりから得られる熱が少なくなり、備蓄の魔力を切り崩しながら当施設の機能を最低限の状態で維持していました」
「四世紀前の火山活動っていうのはこの辺りに灰を降らせて、この遺跡の全貌を見えなくしたマコク山の噴火の事ね?」
マリーの質問にシアンは頷く。
「ええ。その噴火の後、火山活動は落ち着いた状態にあったのですが、近頃再度活発化し、その影響で僅かに得られていた熱もほとんど得ることが出来なくなりました」
「もしかして……」
マリーは心当たりがある様子でつぶやく。
「最近よく地震が起きていたのは、そのためなの?」
「はい。その通りです。現在、マコク山は噴火寸前の状態です」
「そんな!? ここに居たら私たちも危ないんじゃないの?」
「大丈夫です。当施設の外殻部は劣化オリハルコン鋼で作らているため、もし火山が噴火しても内部に居れば安全です。外部に開かれたままの扉についても、通路に十分な長さがあるため、溶岩が流れ込んでも中枢部までは到達しないでしょう」
シアンはマリーの瞳を見ながら説明した。
「でも、そうなったらアタシ達は生き埋めにされてしまうんじゃないか?」
シアンの金色の瞳が今度はサキの方を向く。
「それも問題ありません。施設の上部に突き出している七本の塔は十分な高さと強度を持ち、塔上部から外へ出ることが可能です。また、隠されていますが地下にも外部へ繋がる通路があります。吸排気機構が問題なく稼働していますので、瓦斯が充満する心配もいりません」
「火山が噴火しても命に別条がないというのは分かった。それで、どうやって遺跡を修理するの? それとも、火山活動を止める方法があるのかい?」
「現状で火山活動を止めることは不可能です。ですが、十分な魔力があれば、当施設の機能を利用して再びマグマ溜まりから熱を得られるように地下の熱取得部の構成を変更することが可能です。また、その結果、火山活動を落ち着かせることが出来るはずです」
「十分な魔力、ね。魔力が足りない問題を解決するために魔力が必要って訳か。矛盾してるじゃないか」
「必要なものはあくまで一時的なものにすぎません。それが調達できれば永続的な魔力獲得手段を得ることができます」
「なるほど。それで、その一時的な魔力はどうやって得るの? アタシやマリーから吸い取るわけじゃないよね?」
サキは冗談のつもりでそう言ったが、シアンには通じなかったらしく彼女は表情を変えずに首を横に振った。
「残念ながら、その方法では十分な魔力を確保する前に、お二人が干からびてしまいます。ですがこういった緊急事態に備えて、外部から魔力の供給を受ける設備があります。お二人には当施設上部の塔へ上っていただき、屋上でその設備の準備をして魔力の受容を手助けして頂きたいのです。複雑な操作はわたくしが行いますので、難しい事をしていただく必要はありません」
「さっき扉を開けたって話をしてたけど、扉はここから開け閉め出来るのに、その設備の準備がこの場所からは出来ないのは何故なの?」
「不本意ながら、当施設の建設時に工期が大幅に圧縮されたため、優先度の低いいくつかの機能は不完全な形でしか実現されていないのです」
「優先度が低いと思ったら、そうでもなかったって事か。それが分かるまでに何百年もかかるんじゃ、神様にも予想できなかったって事かな?」
「……」
サキの質問に、シアンは肯定も否定もしなかった。答える気が無いらしいとみて、サキはシアンの返答を待つのをやめた。
「まあ、依頼の内容は分かったよ。とにかく塔の上へ行ってみよう」
サキがシアンに声をかけた時、地面がぐらりと揺れた。立っている事さえ難しいほどの振動とともに、轟音が三人を包んだ。
次回は9/10(土)に更新します。




