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 第二十三話 ロジャー・ローリー

 クラーク・サヴァレ第二番隊副隊長に案内され、私とレノは第二番隊が集まる鍛練場へとやってきた。かんっかんっと、真剣での手合わせが行われており、飛び散る汗と、輝く筋肉にレノは嫌そうな視線を送り、「私もあれやるんですか?」とこれまた嫌そうに聞いてきた。

「ま、形だけはお願いね」

 そのか細くて綺麗な手に豆が出来ないように、手を抜いていいからねとレノに言っておく。

「あれ? レノローズ……ちゃんは、王族のメイドなんだよね? レノローズちゃんも強いんでしょ? 鍛えるの嫌いなの?」

 クラーク副隊長は不思議そうにレノを見るが、その質問にレノも不思議そうな目をしていた。

「……え? 普通、メイドは戦いませんよね?」

 どうやらレノは、王族の使用人は皆が戦闘員ということを知らないらしい。とはいえ、これは一部にしか知られていないことだから仕方ない。王族を守る立場である騎士のクラーク副隊長が知っているのは当然であるため、二人でそこら辺をレノにきちんと説明し、私はレノのことを──新しい使用人のことを考える。

 王様から直々に紹介されたメイド。しかし、その正体は男であり、別に戦闘が出来ると言うわけではない。所々での所作を見るに育ちの良さは分かるので、良いところのお坊っちゃんなのだろう。

 気になること。それは。

 何故、私のもとへ彼が配属されたのか。

 ……ふむ。

 怪しさ満載とはいえ、王様からの紹介なので警戒はいらないだろうけれど……。


 そして、私は思い出してしまう。

 今はもう無くなってしまった王族使用人教育施設『パンドラの箱』のことを。

 もしかしたら、これからのメイドは戦闘員ではなく、本来の世話係として雇用されるのかもしれない。

 その初めがレノなのかもしれない。


 だって。


 だって、『パンドラの箱』はもう無いのだから。


 私が、

 それを壊してしまったのだから。


「……先輩、どうしました? 真剣な顔して。……あ、お腹すきました?」


 レノくん。それ、すげー失礼。



 乙女ゲームの攻略対象者。ロジャー・ローリーは、一人離れた場所で剣を振るっていた。

 クラーク副隊長の話によると、乙女ゲームのヒロインであるオリアーナに裏切られてから、騎士団に正式に入団した彼は、修練に明け暮れているらしい。

 今まで勉学と武芸を両立させながらやっていた第二番隊隊長という役職は、その殆どをクラーク副隊長が代わりにやっていたらしいのだが、学業がなくなり、本格的に動ける身となってからはその役割をきちんとこなし、強さに傲ることなく、彼はさらに修行して剣の腕に磨きをかけたのだという。

 ふむ……剣の勝負なら、私に勝ち目はないな。うん。

「おーい。ロジャーちょっといいか? 新人二人連れてきたぞー」

 クラーク副隊長のその声に、彼は振り向く。

 ロジャー・ローリー。王国騎士団第二番隊隊長。

 燃え盛る炎のような赤色の髪。眼光は鋭く、鷹のようでありながらも、萌える優しい緑の瞳。

 騎士が似合うそんな彼は、レノを見てこう言った。


「なんで、騎士団に女がいるんだ!」


 …………ふふふ。

 ふははははっ。そっちは偽物だ!

 美少女だけど男だ!

 こっち、こっちが女ですよ!

 私こそが女なんですよ!


 ………………。


 明らかに目線が会わないところを見ると、どうやら私は完璧に女と見られていないらしい。


「まあまあロジャー落ち着けよ。えっと、まずは名前だね。こっちがレノローズちゃんで、こっちがシャーノくんだよ」


 その自己紹介はちょっと間違ってるぜクラークの旦那ぁ。


「こほん。本日付で入隊となりました! シャーノと申します! 本名はシャノン・フリエル! 普段はフローレンス王子のメイドをしております。こんな格好をしておりますが、れっきとした女であります!」


 え? といった顔が三人。この場にいる私以外がびっくりしていた。レノはこそこそと小声で、そこは黙っておくところじゃないんですか? と聞いてきた。同調するように、クラーク副隊長もこくこくと頷いている。

 「いやいや。これでいいんだよ」と、私は首を横に振った。

 だって、そうだろう。

 ロジャーはヒロインであるオリアーナに裏切られ傷付いたのだ。

 もし後に私が女だとバレれば、それは彼への裏切りであり、オリアーナと変わらない。

 それに、私がここで男と偽っても意味はない。

 私がここに来た理由は、目的は、女性恐怖症の克服なのだから。

 私が女だと理解して貰わなくては困るのだ。

「因みにですが、このレノローズは男です。なんならレノローズの股間を触れば分かりますし、私は胸を触れば分かるかと」

 胸を小さくするさらしを巻いているとはいえ、触れば分かる程度にしてある。

 と、言うのにロジャーは確認を断った。

 疑いはしたものの、クラーク副隊長の「彼女の言ってることは事実だよ」との後押しに信じてくれたようだ。

「では。宜しくお願い致します。ロジャー隊長」

 そう言って、私は彼に握手を求めた。

 明らかに嫌な顔をされたけれど、結局ロジャー隊長は握手に応じてくれた。とはいえ、女性への拒否反応故か、私と握手を交わした後、ロジャー隊長はぞわわっと鳥肌を立てていた。

 レノにも握手をするように言い、ロジャー隊長と握手を交わすと、それにもロジャー隊長は鳥肌を立てた。

 しかし。

 ここで許すことのできない事案が発生する。

 それは、私の時よりレノの方が、ロジャー隊長が明らかに鳥肌を立てていたからである。

 つまるところ。私よりレノの方が、女より可愛い男の方が、女性と認められたことを意味し、私の女性という尊厳をロジャーはずたずたにしたのである。

 許すまじ!

「くそっ。レノより、私が女として負けたというのか!!」

 認めん! 認めんぞ!

 その言葉に、レノもクラーク副隊長も、女の子は廊下で着替えようとしないと私を責めた。ぐふっ。

 ロジャー隊長は、「…………なんか、すまん」と謝ってくれた。ぐふっ。


 ………………。

 私は、女というものについて、レノとクラーク副隊長に教えを乞うことを決意した。

 ほら、女性恐怖症なおさにゃならんから。

 ぐすん。


大分期間が空いてしまった。((( ;゜゜)))

ロジャー・ローリーの話は、

裏切り、決断、苦手への覚悟の話になります。


ダニエルは甘甘なドキドキ。

ロジャーは少年漫画のようなドキドキを目指しています。


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